第66話 カイトの作戦
今日から休み♪寝正月♪
「兄貴、ちょっと。」ライトは中から出てきたカイトに先程のメイとのやり取りを話した。
いつもは表情の変わらないカイトの怪訝な顔を、モリー船長は見逃さなかった。
「何かあったのか?」モリー船長は、カイトに尋ねた。
「いえ、フ島の奴らが通行料かなりふっかけてきやがったもんで。残りの島の奴らに舐められないように対策を立てないとな、と考えてました。」
「そうか。今度はライトも連れて、強面で圧力かけてやろうか!」ははっと笑ってモリー船長は歩き出した。
「ナイト!先に酒場で食事始めてろ。船長から目を離すなよ!」カイトはライトにも付いていくように指示をした。
メイの奴、ここの闇に関わるなとロゼからも言われてただろうに。人攫いか・・・。知ったからには放っておけないが、最優先はマリオンと船だ。俺達は明日には発つし、時間がないな・・・。
「アレを使う時がきたか・・・。」カイトは呟いて、宿屋にいるメイの所へ向かった。
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「メイ、いるか?」
ライトから宿屋で待つよう言われてから程なく、カイトが訪れた。
「はい、どうぞ。すみません、大変なことお願いしてしまって・・・。」
「単刀直入に言う。俺が協力してやれるのはこれだけだ。あとは自分で何とかしろ。それと船をここで降りてもらうことになる。」
「え?!」端的すぎて意味がわからなかった。
目の前には水色の水晶玉みたいなのを差し出された。
詳しく聞くと、水晶玉は 魔力珠で、 内密を発動させるものらしい。そういえば子供の頃、聞いたような?
この救援信号は、海防団という海の警察みたいな機関の副団長の所に届くらしい。昔なじみらしく、そこの誰かが接触してくるから、と合言葉を教えたくれた。
「あの・・・船を降りろって・・・。」
「お前には今、2つの道がある。このまま大人しく船の見習いとして戻るか、この魔力珠で海防団を待ち、その連れ去られた子の救出をするか、だ。」
沈黙が続いた。
「それだけ危険な事をしようとしている。何をしようとお前の自由だが、俺達を巻き込むな。」カイトの重い一言。
そりゃそうやな。命がけの航海をしてるのに、慈善事業じゃあるまいし、大きなリスクだけの人助けなんて簡単にできるわけがない。
すぅー、はぁーーー、息を整えた。
「すみません!魔力珠ありがとうございます。あと、今までありがとうございました!これ、使わせて頂きます。」
「わかった。いいんだな?」
「はい・・・。本当にすみません、仕事を最後までやれなくて。」
「いいさ。給金は後で渡す。それと、この事は口外するな。皆には俺から伝えておく。あと、両親にはどうする?」
「・・・もし、万が一があれば全てカイトさんから話して下さい。勝手に首を突っ込んで死んだって。」
「わかった。」
「本当に申し訳ありません・・・。嫌な役、頼んでしまって。」
「船長と義兄弟の契りを交わした仲間だ。骨くらいは拾ってやる。」
「あ、ありがとうございます!それと、海防団の事をもう少し詳しく教えてもらえますか?」
しばらく話し込み、カイトは船長の元へ向かった。
『本当にいいの?船降りちゃって。』『ゴウびっくりするだろうね。』
“仕方ないよ。勝手なことして、船の皆の命まで懸ける訳にはいかないからね。海防団を頼るしかないよ”
・・・一か八かやけど。見捨てることもできへんしな。乗り掛かった船や!それに冒険者になるなら、常にこういう命の危険には晒されるんやから、これを初仕事と思ってやり切ろう。
『なんとかなるわよ!私達がついてるわ!』
『そうだね。なんとかなる、なる!だよー。』
「よし!そうと決まればこの 魔力珠を使うよ。えいっ。」床に叩きつけるとパリンッと割れてなぜか煙が腕に巻き付いた。
「な、何?!」右手にゼリー状の腕輪みたいなのが付いて、煙の半分が宿の外へスウッと出て行った。
「とにかく、荷物をまとめて母さん達にも手紙出しておかなきゃ!船から降りたらいつ帰れるかわかんないしね。」
『私も準備するわ。』『じゃあ、僕は周りを探索して来るー。』
ネイマもテテュスもいち早く動き出してくれた。こういう時、1人きりじゃなくて本当に良かったって感じる。
恵比寿天さま、布袋尊さま、弁財天さま、加護とかほんまにありがとうございました!!
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一方、海防団ではナナミが内密の発動サインを確認した。左手にゼリー状の腕輪が装着され、その魔力がかつての海防団の仲間のものだとわかった。
「アイツ・・・余程の事が起こっているのか。」
緊急招集をかけ、マーブルとレドを副団長室に集めた。
「悪い。俺はこれから野暮用で出掛ける。お前ら、留守を頼む。」
「どこ行くんですか?」「俺も行くー!」
「マジで頼む!任務じゃねぇし、団長にも言えねぇ。お前らだから話してんだよ!」
「それ。内密ですか?」レドが左手を指した。
「何なに?!誰かが 魔力珠使ったって事?!緊急事態じゃん!!絶対俺も付いて行くー!」
「遊びじゃねんだよ!!たぶんかなり危険な事だと思う。」ナナミは2人を見て、珍しく真剣な顔で言い放った。
「でしたら、俺達のどちらかを連れて行って下さい。副団長をそんな危険な場所に1人で行かせるなんて、団長に顔向けできません。」
「俺が行くー!レドは留守番してろー!!」マーブルは言い出したらきかない。
「バカか。副団長が決めることだ。」レドは冷静だが、人一倍団長と副団長に忠誠を誓っているので、この2人の事になると融通がきかない。
「はぁ~・・・。こっそり行きゃあ良かったなぁ。」
「すぐ気付くので、そしたら副団長を追っていたので、海防団は誰もいなくなって、帰ってきた団長にきっと怒られることになっていましたよ。」
「俺も絶対追いかけてたな!!団長にきつーいお仕置きされても行ってたと思う!」
「はぁ~~・・・。んじゃお前らで決めろ。よし10数える!いーち、にー・・・。」
「あれでいくぞ。」「おう!アレだな!!」
レドとマーブルは銅貨を出し、コイントスを始めた。
「表。」「んじゃ俺は裏!!」
2人で一斉にコインを投げる。床に2枚のコインが落ちた。
「・・・裏か。」「いやっほー!!レド留守番~♪」
落ち込んだ表情のレドだったが、「レド、頼んだぞ。」とナナミがレドの頭をグシャグシャと撫でると、少し照れて口元の緩みを隠せなかった。
「了解です。」と照れた所をマーブルに冷やかされる前に一礼して、副団長室を後にした。
「さ、俺達はすぐに出るぞ。小舟の準備をしておけ。」
「はーい!!」マーブルも返事と同時に出て行った。
「やれやれ。どうなる事か・・・。」
ナナミは机の引き出しから魔力珠を出し、袋に詰めた。
深呼吸し、左手に魔力を込めた。薄い煙のような糸のようなものが、フリナドゥ諸島の方角に続いている。
「ちっ。やっぱりあそこかよ。」
自分の嫌な予感はけっこう当たる。今回は大事にならなきゃいいが、と願いながらナナミは部屋を出た。