第60話 お忍び散策④
もう11月か・・・あっという間に月日が過ぎていくこの頃です。
一方、船の上では・・・。
「メイのやつ~!俺を置いてどっか行きやがった。」ゴウはメイとフレッドの姿が見えないため船内をウロウロとしていた。
ちょうどそこへリョウが戻ってきた。
「あら。あ!んんっ・・・ゴウ?どうかしたのか?」
「リョウ~。メイとフレッドが俺を置いてどっかに行ったみたいなんだよ。」
「2人は食材の調達に行ったんだ。お前ヒマなら俺に付き合えよ。」
「おお!いいぜ。何かするのか?」
「ちょっと買い物にな。荷物持ちが欲しかったんだ。」
「俺、力仕事には自信ある!任せとけ!」
『なんか意外な組合せね♪』『面白くなってきたなぁ~。』ネイマとテテュスはゴウとリョウに付いて船を降りた。
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「リョウ!こんなに服買ってどうするんだよ。しかも女ものばっかり・・・。」
「ゴウは子供だな。彼女にプレゼントするに決まってるだろ?察っしろよな。」
「えー!彼女いるのか!!すげぇ。・・・ちょ、ちょっと色々聞きたいな・・・。」
「ん?!もしかして好きな女でもいるのか!詳しく聞こうか♪」
屋台で飲み物を買い、椅子のある所まで移動した。ようやく大量の買い物袋を置くことができ、ゴウもひと息ついた。
「ご苦労だったな。助かったよ、ゴウ。これはお礼だ。」
「ありがとう!ってか、人使い荒いな!!リョウは。」
「ははは!すまない。俺もこんなに買い物したのは初めてでさ。はしゃいでしまった。」
「はぁー・・・。でも楽しいなぁ!人族とこんなに親しくなれるなんて昔の俺なら考えられなかったけど。」
「そうなのか?この国は割りといろんなヤツがいるから、あまり気にしていなかったのだが。やはり他国では人種の違いで争いがあるのだな。」
「ん~。まぁ、人によって色々だけどな。獣人族もエルフ族も人族も・・・それぞれで相手を見下すヤツもいれば、そうじゃないヤツもいる。」
「そういえば、ゴウの想い人はどんな子なんだ?」
「お、俺?!リョウはどうなんだよー。」
「俺か?そうだな、まぁなんていうか気の強いお姫さまだな!」
「姫?!それ、身分違いで大変なんじゃないのか?」
「そうだなぁ。その姫はさ、自由にやりたいことができない現状に不満があったんだ。でも、今は前向きに考えていこうとしてる。」
「へー。それでリョウと付き合ってるんだ?」
「ま、まぁな。さ!お前の方はどうなんだ?」
「俺は・・・まぁ幼馴染みなんだけど。」
「うんうん!なんかいいな、それ!」
「いや、“幼馴染み”がなんでそんなにいいんだ?メイもなんか盛り上がってたんだよなぁ。」
「そいつはさ、人族なんだ。俺は祖父さんが獣人で祖母さんが人族なんだけど。だから人種の違いはあまり気にしてない。」
「そうなんだな。その子はどうなんだ?」
「そいつも生まれたときからいつも一緒だったから、気にしてない。と思う・・・。」
「じゃあ後はお前達次第じゃないか!」リョウは興奮していた!
「まぁそいつが俺をどう思ってるかはわからないが、そこはいいんだけど。世間の目っていうか、俺も見た目は獣人の名残りがあるから・・・。」
「ゴウ。お前は自分が獣人であり、人族であることに誇りを持っていないのか?」
「え?」
「俺は人族だが、どんな人種であってもこの国の民を守る覚悟がある!」
「え?民??姫の事じゃなくて?」
「あ!そ、そう!姫がどんな人種であっても自分が好きになった相手なら守り抜く覚悟がある。というか、女なら相手がそんな自信のないヤツなら付いていかない、と思うぞ!」
「えっと・・・。」ゴウは混乱していた!
「要約すると、だな。たぶんゴウは自分が人族と獣人の両方を受け継いだが故にどちらにも属していない、という思いがあり引け目を感じていたんじゃないか?」
「そ、そうかもしれない。まぁ見た目があるし、獣人族と言ってはいるが。」
「なるほどな。それは混血児の大半がきっと思い悩む事なのだろう。それで少し自信がなくなってたんだよ。」
「確かに・・・。いざ伝えようと思ってもさ、ごちゃごちゃ余計なこと考えてしまうんだ。」
「そうか。きっとゴウだけじゃないと思うがな!相手に気持ちを伝えることは勇気がいる。きっと色々な言い訳を考えて、伝えないといけないことを先伸ばしする理由にしているのかもな。」
「・・・リョウ!いや、兄貴と呼ばせてくれ!!俺、なんか解った。気持ちが楽になったよ!ありがとう・・・。」
「お、おう!好きに呼ぶといいが・・・。まぁ、俺もゴウと話して良かったよ。」
「兄貴~!!」尻尾をブンブン振り回し、感極まったゴウはリョウに抱きついた。
「うわぁっ!」
「あれ?兄貴・・・。」
思わず突き飛ばされたゴウは目が点になった。
なんか柔らかかった・・・?というか、女の匂いがした。
『うわー!ゴウったら大胆ね!』
『いい話だったね~』
ネイマとテテュスは呑気に眺めている。
「す、すまない。・・・あー!もう、仕方ないか。お前も大事な友人だ。私の事を教えてやる!」
ここで、フローリアはこの国の王女であることを明かした。
「・・・そうなのかぁ。すまなかった、いきなり抱きついたりして。で、でも俺にはリョウは兄貴だから!」
「ぷっ!私にそんな風に言うのはゴウくらいかもね。まぁ、とりあえず今日はリョウでいるからよろしく。」
一気に親密度が上がった2人。
『意外なところで友情が芽生えたねー。』『友情っていうか、もう一人の弟みたいなんじゃないの?』
ネイマとテテュスもわちゃわちゃと盛り上がっていた。
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「けっこう釣れたし、そろそろ船に戻ろうか。」
「えー。まだまだ釣れるぞ!もう少しやろう。」
すでにこのやり取り3回やって、辺りもうす暗くなってるやん。
フレッドは釣りにすっかりハマってしまい、なかなか動こうとしない。
“ネイマ、テテいる?そっちはどんな感じ?”
念話で通信。
『ゴウとリョウの友情爆誕♪』『こっちもそろそろ船に戻るよー』
“よくわかんないけど、帰りに湖に来てくれない?フレッドが釣りにハマって止めてくれないんだよ~”
『『了解ー!』』
皆で合流して、フレッドも泣く泣く船に戻った。
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船上は綺麗に片付けてあり、テーブルが一つ残っていた。その上に料理がいくつか並べられていて、飲み物も揃っていた。
「うわぁ!ジーナさんありがとうございます!」
メモを見つけたゴウが叫んだ。
「ありがたいわね。」「感謝ですね。」フレッドとリョウも心から感謝を述べた。
「船長達が来る前に、魚をさばいてしまおう!」
釣ってきた魚を調理場に運び、下処理をする。
フレッドとリョウ、ゴウも一緒に。ゴウがリョウに指示を出して、私はフレッドに教えた。
余ったのは船員用に保存食として作り置きした。
「出来たー!」「これが料理なのね!」大喜びの2人。思わずリョウは素が出ていた。
ちょっと焦っていた私を見て、「兄貴のこと全部聞いたぜ!メイ、また後で色々話そう。」とゴウが耳打ちした。
テーブルに料理を運び終えると、モリー船長とナイトが酒とデザートを持ってきた。
「待たせたか?」
「いえ!ちょうどこれからです。」
フレッドは興奮気味に釣りについて熱く語っていた。それを何故かナイトが真剣に聞いており、コツとか魚のさばき方を教えてあげていた。
ゴウと目が合い「「なんか 2人盛り上がってる。」」と同じ事を言って笑ってしまった。
気が付くと船長とリョウは離れたところで話をしていた。
「兄貴ってさ、凄い人かもな。俺、今日色々と話聞いてもらったんだ。」
「そうなんだ。やっぱり僕らよりお姉さんだね。」
「あの人のおかげで、決心がついた。俺、この仕事が終わったらユリに告白する!」
「ユリって・・・あー!あの幼馴染みの子?!」
「あぁ・・・。なかなかきっかけがなかったんだけどさ。俺も15だし、本格的に漁師になったら会う機会も少なくなるからな!」
「おおー!ゴウかっこいい♪よく覚悟を決めたね。」
「兄貴のおかげさ。俺、長男だろ?なかなか弱音っつーか、相談出来る人いなくて。話はメイに聞いてもらえるけどさ、父さんも家にほとんど居ないし。母さんはチビ達の世話で忙しいからゆっくり話とかできなかったんだ。」
一番年上の辛いところやな。我慢するってことを無意識に強いられるんやからね。
「でも今日さ、兄貴に話聞いてもらってスッキリした!本当に誘ってもらってよかったよ。ありがとうな、メイ!」
「僕も嬉しいよ!リョウはさ、今まで自分を抑圧してたみたいなんだよね。きっとゴウが思いっきり付き合ってくれたから楽しかったと思うよ。」
「そうかな?」
「そうだよ。」
こうしてマレ・リベロ国最後の夜が更けていった。