第59話 お忍び散策③
遠洋漁業もいよいよ後半です。マレ・リベロ国には愛着ができちゃったなぁ。
「あの!!ちょっといいですか?」
走って追いついた先には、モリー船長とナイト。
「何だよ。あっちに行け。」ハイハイ、お約束!ナイトの威嚇ね。
「どうしたー?」モリー船長がナイトを押しのけて前に出た。
「船長達は夜までここに居ますか?実は僕達、今日の夕飯は自分達で作ろうと思ってて・・・。それで、船の調理場と船の隅っこでいいので、お借りできないかとお願いに来ました。もちろん後片付けは僕達が全部やります!お願いします!」
「はぁ?何言ってん・・・。」とナイトが言いかけたのを制止して「条件がある!俺もそれに参加させろ♪」とモリー船長が急接近してきた。
驚いて咄嗟に仰け反ると勢いで尻もちをついてしまった。モリー船長は大笑い。ナイトは何か言いたそうな顔をしていたが、次の瞬間諦めたのか深いため息をついた。
「どうぞ参加して下さい!じゃあ、よろしくお願いします!」
さっそくゴウ達の元へ戻って報告すると、フレッドとリョウは喜んだ。問題はどんな料理を作るかやなぁ。
「なぁなぁ!俺ジーナさんの料理また食べたい。ちょっと頼んでくる!」ゴウはジーナの手料理が相当気に入ったみたいやな。
「後はフレッドやリョウと一緒に作る料理の内容を考えないとなぁ・・・。」
「何でもいいぞ。メイに任せる!」「私も上手くできるかわからないけど、初めてだから楽しみだ!」
期待の眼差し。いやいや、私も料理なんてほとんどできへんし!簡単で美味しい料理って難しいな。
「まだ夜までは時間あるから、船の僕達の部屋でちょっと休む?少し自由行動にしよっか?その間に考えてみるよ。」
「私はメイと行くぞ!」「じゃあ少し休ませてもらおうかな。」
リョウはサキシタに声をかけてから休むと先に行ってしまい、フレッドと2人で船を降りた。テテュスには念のためリョウを見ててほしいとお願いした。
ネイマがゴウに付いてくれるというので、それぞれで行動することにした。
とりあえず歩き出しながら考え中。・・・魚でも釣って・・・カルパッチョとかマリネなら私にも作れるかも?
切るだけやしな!新鮮な魚なら美味しいし。調味料はなんとかなるやろ。たぶん・・・。
「フレッド!まずは魚釣りするよ!」
「魚釣り?!できるだろうか。」
「大丈夫!竿とエサがあれば後は喰いつくのを待つだけだから。」
「そうか!では道具をそろえなければいけないな♪」
屋台や店のある所へ向かった。そういえばフレッドの庶民服とか買うの忘れてたな。ついでに買いものもしよう。
「こうやって民は暮らしているのだな。」
じっくりと、目に焼き付けるように、フレッドは周囲をみていた。
「寄りたい店とかあったら入ろう?フレッドの服を買うつもりだったからね。」魚釣りセットは後回しにして、買い物を楽しんだ。
屋台では値切りの交渉もして、フレッドは申し訳なさそうにしてたけど「これも民の生活を知るために必要だよ。」というと一生懸命やりとりしていた。
「はぁ~。少し疲れたな。」「歩き回ったからねー。どこかで休憩しようか。」
屋台で飲み物を買って、人混みが少ない休める場所に移動した。
「美味しいな!こんな飲み物初めてだ。」
「この辺りでは普通に売ってるらしいよ。サキシタさんに言ったら作ってもらえるんじゃない?」
「そうだな。でもきっとここまで美味しいとは思わないかもしれない。自由に行動して、友人と一緒だからこその味のような気がする。」
「はは!確かにねー。どれだけ高級な食事でも一人だと美味しく感じないかもね。」
「うん。そうなんだ・・・。」
「あ!フレッド。今さらだけど苦手な食べ物とかない?もしかしたら生で魚を食べれないとかさ。」
「生で、か?食べことがないからわからないなぁ。」
「ま、いっか!無理なら焼いたり煮ればいいし。」
「はは!今日は初めての事ばかりだ。母様に感謝しなければいけないな。」
とりとめなく会話をしていると、黒い影が私達を覆った。
「イイモノ持ってるじゃん。」
「ガキのくせに金持ってるようだな~。俺らにも分けてくれよ。」
図体ばかり大きいチンピラ風の二人組がいきなり絡んできた。周りをみるとちょうど人が居なくなって子供の私達だけだった。
「はぁー・・・。」私はため息をついた。なんで最後にこんな小者と面倒な事になるんやろ。
「おいおい、ビビって漏らしたかぁ~?」
「ギャハハ!荷物とあり金全部置いていくなら見逃してやるからよ!」
「お前達!こんな事をして許されると思っているのか!!」フレッドが言い放つ。
「なんだぁ?!このチビ!!ぶっ殺すぞ!」
「まぁまぁ、落ち着けよ。な?金と荷物をよこせ。そしたら見逃してやるからさ。」
フレッドは怒りで顔を真っ赤にさせていた。短剣に手をやり今にも向かっていきそうだ。
「あのおじさん達。僕らに関わらない方が身のためですよ?」私は冷めた表情で警告した。
「は?大人しく言う事聞いとけば痛い目に遭わずに済むのに分かんねぇガキ共だなぁ。あとな!俺たちはお、兄、さ、ん、だ!」
「ははは!厚かましいですね。丁寧におじさんって言ってあげただけでも感謝してほしいのに。いいですか?オッサン達に渡すものは一つもないです。今すぐ諦めて帰って下さい。」
私はフレッドに目を瞑って、両耳を手で塞ぐように伝えた。
「このチビだけはぶっ殺す!!!」
一人が私に向かって殴りかかろうとし、もう一人がフレッドの荷物に手をかけようとした。
「風壁。」
「「うわぁぁ!!」」
オッサン達が私とフレッドに触れようとした瞬間、魔法の風壁に巻き込まれ1メートルくらい吹き飛んだ。
・・・・・。
「な、なんだぁ?!」
「い・・・痛てて・・・。」
諦めの悪い一人が私達に向かって来るのでそいつに向かってもう一発魔法を放った。
“強風”
さらに数メートル先に吹き飛んだオッサン。今度は身体ごと強く地面に打ち付けたご様子。気を失ったのか動かない。
「な、なんだよこいつ!!ヒィィ~~!!」
動けるオッサンは倒れているオッサンを置いたまま逃げていった。
「・・・メイ?な、何か大きな音がしたが大丈夫なのか?」
「もういいよ!ごめんねー。おじさん達どっか行ったみたい。」
「・・・あのような者も私の国にはいるのだな。」
「あー、あんなのはまだ全然マシだよ。もっと悪いヤツもいるからね。フレッドも気を付けてね。」
「そ、そうなのか。私はまだまだ自分の国の事を、いや世間の事を知らないのだな。」
「僕もだよ。これから沢山のことを知っていくんだよ。楽しみだね!」
「はは!!メイは前向きだなぁ。」
「うん。だってせっかくの人生だもん。自分のために楽しく生きないともったいない!」
「自分の人生か・・・。そんな風に考えたことはなかったなぁ。」
「独り善がりじゃあいけないけどね。誰かのためだけに生きるんじゃなくて、自分へのご褒美とかお休みとか、自分のために何かをする時間を作るのも大事だと思ってるんだ。」
「メイ、本当に14歳なのか?」
すみません。本当はアラフォーのおばさんです。
「周りに大人が多かったからかなぁ?でも青春を楽しみたいと思ってるよ!」
「セーシュン?どういう意味なんだ?」
「あ、“アオハル”とも言うらしい。ここでは古代語にあたるのかな?こうやって友達と話をしたり、遊んだり、勉強したりすること。人生で輝いている時間とか充実感のある体験を誰かと共有することを指すのかな。」
「セーシュン・・・アオハル・・・。そういう意味を知ると、 私も今がそれにあたるのではないかと思うのだが。」
「そーだね!割りと若いときの事を指す言葉だからね。でも年齢は関係なくて、自分が青春だと思った時がその時だと思うけどね。」
「ふふ。古代語なんて、つまらないと思っていたが案外興味をもつきっかけがなかっただけかもしれない。なんだか今とても勉強をしたいという気持ちだ♪」
「あはは♪わかる!やる気が出る瞬間ってあるよねー。僕も商人のおじさんに勉強を教えてもらったときがそうだったな。」
チンピラに絡まれたせいでけっこう時間が過ぎた。
それからすぐに魚釣りセットを購入して夕食の食材を調達しに向かった。