第57話 お忍び散策①
アイデアが浮かばないです・・・
「おはよう。メイ、よく眠れたか?」
「んー・・・。おはようー。あれ、もう着替えたの?」
いつの間にか朝になっていて、テーブルには朝食が用意されていた。すでに身支度を整えたフレッドは『朝の挨拶』を王妃にしてくると部屋を出て行ってしまった。
まだ眠かったけど朝食もあるし、私も着替えないとあかんな。
『メイ!おはよう。プレゼントは準備できたわよ。』
”ありがとう、テテ!あれ?ネイマは?”
『もうちょっと寝てるー。』ネイマがソファーでゴロゴロしていた。
”わかったー。2人ともお疲れ様でした”
着替え終わりバルコニーで外を眺めていると、フレッドが戻ってきた。
「お待たせ。食事にしよう!」「うん、お腹空いたね。」
サキシタが来て色々と必要なものを聞いてくれたので、メモを書いて渡した。
「フレッド、その服で行くの?」
「ん?何かおかしいだろうか?」
着ているものが上等すぎて、街をウロウロしていたら絡まれそうやん。
「金持ちの子って感じが全面に出てるからさ、もうちょっと砕けた感じの服ってないの?あ、そうだ!それもついでに買い物しようか。」
「いいな!私も街に出ることはほとんどないけど、またそういう機会があるかもしれないからなっ。」
ちょっとウキウキしているフレッド。サキシタからはさっきお小遣いと呼ぶにはかなりの金額を手渡されており、フレッドの事をよろしくと頼まれていた。あと、あのじゃじゃ馬お姉さんもおるんよなぁ。
よく考えたら上手いこと母親と執事から2人のお守りを任されたんじゃないの?!
はぁ・・・。無料程怖いものはないってやつですね。
食べ終わって準備もできたので、エントランスの広間でお姉さんを待っていた。
「お待たせー!」とフローリアがやって来たが、その姿に驚いた。
「姉様!男性のような装いをされていますが、どうしたんですか?」
「昨日母様とお話してたんだけど、街は危ないから男性の姿でいた方がいいのではないかという事になってね♪面白そうだから、サキシタにお願いして庭師の方の服をお借りしたのよ。」
「そうだったんですか。」
「フレッドは女装してみる?」とちょっとからかってみた。
「なんでだよ!私はこのままで大丈夫だ!」残念。ツッコミはいいけど、ノリは悪いなぁ(笑)
「あら、楽しそう!フレデリックも女性の大変さを学ぶいい機会よ?」
「姉さま!!私で遊ばないで下さい!」
「うふふ♪今日は本当に楽しみだわ!!」
「母様は?」
「少しお疲れみたい。お腹に赤ちゃんがいるからね。無理しないでってお見送りは私がお断りしたの。」
「大丈夫なんですか?」何か月か知らんけど、ちょっと心配やなぁ。
「えぇ、大したことはないわ。ありがとう、メイさん。」
「僕の事はメイでいいですよ。あ、それより街でお姉さんの事なんて呼ぼうかな?」
「んー。じゃあメイ!あなたに決めておうかしら。」
適当でいいやろうけど、今は男装してるしな・・・。あ!私の”山本涼子”の日本名から『リョウ』でいいんちゃうん?
「では!『リョウ』、リョウさんって呼ばせてもらいますね。」
「リョウ?ふーん・・・。変わった感じね。まぁいいわ。さんはいらないわよ。リョウって呼んで!フレデリックもいいわね?」
「は、はい。姉さ、じゃない・・・リョウ、ですね。」
「そうよ!メイ、フレデ・・・フレッド!さぁ、行くわよ!」
「はい!」「はーい。」
いきなりお姉さんしきりで始まったけど、特にノープランやからなぁ。まぁ、馬車に乗ってる間に考えようかな。
ーーーーーーーーーーーーーーー
馬車の中、フレッドとリョウは待ちきれない様子で外をずーっとみている。
一度宿屋に寄ってもらってから、買い物をしたり昼食を食べたりしようと話し合った。テテュスはネイマと後から適当に合流すると念話がきた。
「フレッドはあの洞窟みたいな所によく来てるんでしょ?だったら街の中もけっこう知ってるんじゃない?」
「いや、あそこでの特訓は特別なんだ。王家の成人の儀を行う前にだけ外部での修練が許可されるから・・・普段はほとんどあの別邸か城の中でしか行動を許されていない。」
「コロッセオに行くのも特別な時だけだしね。男はいいいじゃない!なんだかんだと外に出れるんだから。私なんて、ほとんどこの17年間別邸にすら自由に行けないのよ。」
「女性は結構不自由なんですね。王位継承権もないって聞いたし。」
「そうなの。私だって、女王になれるのならもっと自由にできるんでしょうけど。王女はしょせん政略結婚の道具としか考えていないのではないかしら!」
「姉様!父様はそんな風に思っていませんよ。もしそうなら剣だって持たせてもらえないでしょうし・・・。」
「あんたにはわからないのよ!男子が生まれるまで母様がどれだけ大変だったかも知らないでしょう?!」
険悪ムードになってきた!わ、話題を変えないと。
「あの!今日は2人とも別人になったつもりでやりたいこと思いっきりやっちゃいましょう!僕に出来る事は手伝います。普段できないことやずっとやってみたかったことないですか?!」
「「え・・・。」」
2人とも考え込んでいる。王族はお金とか食べる物とかは保証されてるけど、代償として王家の義務を背負ったり個人の自由みたいなんはないんやろうなぁ。日本の皇族の方々がそんな感じなんやろうか。
「私は・・・た、食べ歩きというものをやってみたいな。」
「いいね!じゃあお昼は屋台を歩きながら、色んなものを少しずつ食べよう。」
フレッドのテンションが上がった!
「リョウは女だからって、できなかった事とかでもいいんだよ?人の目を気にしてできなかったとかないかな?」
「そうねぇ・・・。剣や魔法の訓練かしら。あと、買い物をしたり、食事を自分で作ってみたいわ!」
「わかった。夕飯はどこかを借りて自分達で作ろう。そのために買い物しなきゃだしね。剣や魔法の練習は・・・今から着いてすぐにしよう!」
「嬉しい!今日は市民の装いだから動きやすいし。女だからとか、人目を気にしなくていいなんて最高だわ!」
リョウのテンションがかなり上がった!!
「メイ・・・メイのやりたいことはないのか?私達ばかりでは申し訳ない。」
「そうね!何かあるならいいなさい。私達が協力するわよ。」
「うーん・・・。じゃあ、もし僕の知り合いや友達と会ったら、2人の事友達だって紹介してもいい?」
「いいよ!そんなことでいいのか?」
「まぁ簡単に正体は明かせないけど、それくらいなら構わないわよ!」
「よーし。じゃあ今日は思いっきり遊ぼう!」
「ええ!」「うん!」
とりあえずステータスブックを見ながら、安全な場所を探す。剣や魔法の練習となると街から少し離れないといけないしな。
馬車を運転するサキシタに相談し、宿屋へは直行せず、まずは洞窟に寄ってもらうことになった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ここがそうなの?薄暗い所でよく剣なんか練習できたわね。」
「姉さ、・・リョウ。まずは光魔法で明るくするんだよ。」
「 点灯。」フレッドが唱えると辺りが明るくなり、前に進めるようになった。
「うわー。この光は奥まで続いてるのかしら?」
「私が移動するとその周囲が照らされる感じかな。」
「フレッドすごいね!光魔法って初めて見た。面白いなぁ~。あ、リョウは何か魔法使えるの?」
歩きながら話した。リョウは火魔法が得意らしい。ちなみに王妃は光・火・地の魔法が使えるんやって。
道中、ついクセで雑草やら小石を拾っているとフレッドとリョウが興味津々でマネをしていた。
「ここだよ。さぁ、始めよう!」
リョウは結構剣の扱いが上手くて、次男王子まではいかないけどスタイルが似ていた。フレッドは防御や剣をいなしたりで回避するのは上手いんやけど、まだまだ攻撃の手数はリョウの方が多い。2人はお互いに教え合いながら、たまに私も混ざって1時間程汗を流した。
「少し休憩しよう。」
「あら。私はまだまだ大丈夫だけど?」
「リョウ・・・。あの、その言葉使いだと女性だとバレますよ。」
「あ!そうね・・・。んんっ!俺は大丈夫だ、ぞ!お、お前らはまだまだだな!」
「まぁ、そんな感じでいいんじゃない?」
「私も、僕って変えようかな・・・。」
水を飲みながら雑談。
「メイは漁師になるのか?」フレッドが尋ねた。
「違うよ。これは資金を貯めるために働いてる、いわば仮のお仕事。僕は冒険者になりたいんだ。」
「「冒険者?!」」
「そう。この世界を旅したいんだー。だから剣も魔法も使えるように頑張ってる。それに知り合いが商人をやっていてそういう勉強もしてるよ。きっと役に立つと思うから。」
「そうか・・・。私もいつか兄様達を補佐できるようにと思ってはいるけど、なかなか勉強は身に付かない。」
「僕もだよ。でも興味ある事から始めたらけっこう面白くなるし、何より教えてくれる人達の労力を考えたらすっごくありがたいことだなって。教えてくれる人がいるってすごい貴重な事なんだよね。」
「・・・そうね。私は踊りや王家の作法の勉強の時は退屈で仕方なかったけれど。そういう考え方をすると教えて下さる方にもっと敬意を払うべきだったと反省するわ。」
「なかなかありがたさって普段は感じる事ができないんだけどね。僕もこの仕事が初めてで、お金を稼ぐ大変さとか人から教えて貰えるってすごく貴重な体験だってわかったんだ。」
「メイって今いくつなの?」
「たぶん14歳かな。」
「レーア姉様と同じ年くらいだね。」
「ウィンデルとも年齢は近いわね。レーアは、なかなか人前に出ることがないからメイみたいな友人がいればいいでしょうに。」
「兄弟は仲がいいんだね?」
「まぁ、悪くはないわ。良くもないけど・・・。やっぱり次期国王がウィルソン兄様だから、兄弟は何も思ってなくても周りが色々騒がしいのよ。母様は控えめな性格だけど、リオニー様がね。だから兄弟が集まるって事も簡単にはできなくって。」
「そうなんだ。」
「メイ。冒険者になるなら、またここにも来るよね?きっとまた会いに来てよ!」
「うん。約束する。」
「必ずだぞ!」
「ふふ。さぁさぁ!次は魔法の特訓しましょ♪」
「よーし!」
「やるぞー!」
それからサキシタが”そろそろ昼食でも”、と呼びに来るまで夢中になって魔法の練習をした。