第53話 失望?期待?
8月、9月中は土日更新予定です。たぶん・・・。
コロッセオに着くと、列に並び入り口でチケットを渡した。
「あ!これは・・・こ、こちらへどうぞ。」
他の係りの人を呼び、皆が案内されているのと反対の通路に連れて行かれ少し緊張した。
とりあえず警戒しながら、後ろを付いていく。
ワーワー!!と拍手やら歓声が次第に大きくなり、きらびやかな衣装に身を包んだ人達が見え、その一角に座るように指示された。
“ここ・・・明らかにV.I.P.席やん!!”
周りからジロジロと冷たい視線を受けながら、下を覗くとちょうどショーが終わった様子で、退場していく人達の後ろ姿だけが見えた。
向かいは一般席なのか、人々がひしめき合って座っている。会場の2/3は一般席で、少し間をあけてこちらが王族や貴族などの特別席のようだった。
特別席は間をあけて座れたりと余裕があり、ちょうど中央に更に豪華な空間が見えたので、恐らく王様とかがあそこに来るんやろうなぁ。
念話でネイマやテテュスにコンタクトを取ろうと思った瞬間、ウォー!!キャー!!ワー!!と会場が揺れるくらいの歓声が上がった。
王様や王妃達など王家のご登場。
馬車に乗ってるのは王様と王妃達。その後ろに王女達。馬に乗ってるのは王子?・・・あ、フレッドがおった!
やっぱり兄ちゃん達は大きいなぁ。
フレッドがめっちゃ子供に見える。いや、子供やねんけどまだ背丈が小さいから余計にね・・・。
声援に応えるように王家の方々も手を振っている。
私もダメ元で「フレッドー!!!」と叫んで手を振ってみた。
また周りから冷ややかな視線を受けつつも、懸命に手を振って合図した。
フレッドも気付いてくれたのか、こちらへ向かって手を振ってくれているようにみえた。
特別席の中央はよく見ると下が階段になっており、少し上がると王家の魔法使いが風魔法で王族を席まで誘導していた。
そして、今日の主役と対戦相手の兄王子達は、馬を預けてコロッセオの中央に集り、剣を天に掲げた。
国王の声が風魔法で、会場全体に響いた。
「これより、フレデリック・マレ・リベロの成人の儀を執り行う!」
歓声が上がり、拍手のあと静寂が訪れた。
「第1試合 ウィンデル・マレ・リベロ!前に!!」
「は!!」
3人とも剣を下ろし、フレッドと次男が向かい合った。長男は離れた場所で2人を見ている。
「始め!!!」国王の声を皮切りに、次男がフレッドに斬りかかっていく。
フレッドは剣を受け止めるのに必死で、防戦一方。静まり返ったコロッセオに剣のぶつかり合う音が響く。
「うっ!うわ!!」フレッドの声が小さく聞こえる。
客は小さいフレッドと明らかに技量差のある次男王子との試合を固唾を呑んで見守っていた。
一瞬、動きを止めて剣を持ち直した次男王子にフレッドが斬り込んでいくが、弾き飛ばされてスッ転んだ。
「うぅ・・・。」フラフラと立ちあがり、すり傷ができていたが、容赦なく再び高速で斬り込んでくる次男王子。
必死に受け止め、耐えている姿があまりにも悲痛で会場内は「フレデリック様ー!」と応援する声が出始めていた。
カンカンカン!キィンー!
カンカンカン!ガッ!!・・・「くっ、はぁ!!」ドサッ
一撃の重みに耐えきれず吹っ飛ばされる場面が増えてきた。
フレッドは泥だらけになり、傷から血が出ている。
「ハァ、ハァ・・・。」
次男王子は息は上がっていないものの、弟のボロボロな姿を見るのが苦痛で顔を歪めていた。
“どうして立ち上がるんだ・・・。もういいだろ?!”
ほとんど反撃できないフレデリックを見て、早く決着をつけたいと更に速度を上げていくが、不思議と剣を受け止められる。
“フレデリック・・・。やるじゃないか!”
兄のウィリアムと剣の練習をしているときのような感覚になっている事に驚きと喜びを感じていた。
この速さに対応できるとは思っていなかったので、ついてきているだけでも大したものだと感心していた。
しかし、体力の限界がきている相手の怯んだ瞬間を見逃さず、フレッドの頭の上に剣を軽く当てた。
「そこまで!!」国王が告げると、会場は拍手に包まれた。
フレッドは座り込み、動けない。
次男王子が腕を抱えて起こし、いつの間にか長男王子も側に来ており、2人でフレッドを闘技場内の端に設置されていたテントに運んでいた。
「次の試合は1時間後となります!しばしお待ち下さい。」王家の魔法使いがアナウンスし、休憩時間となった。
“フレッド大丈夫かな?!あぁ~・・・水薬届けたいんやけどなぁ”
周りをキョロキョロ見ていると紳士オーラ漂う男性が「如何されましたか?」と声をかけてくれた。
「あの、フレッド・・・じゃない、フレデリック様の知合いなんですけど!」
渡してほしい物があると伝え、水薬を託した。
「承知致しました。申し遅れましたが、私、フレデリック様の執事のサキシタでございます。この度はフレデリック様にご協力頂き、誠にありがとうございました。」
「いえいえ!僕ら応援団なんで!頑張ってと伝えて下さい。あと、急いでそれを飲ませてあげて下さい。」
「かしこまりました。失礼致します。」
サキシタを見送り、念話でネイマとテテュスを呼び寄せた。
『ここ、すっごくいい席ねー。』
『うわぁ!ゆったり座れて楽チンだね。』
“ゴウやロゼさん、いた?”
『うん。興奮してたよ!ショーも楽しかった♪』
『屋台も沢山あってね。ネイマと後で食べたいものを選んでたのよ。』
“楽しめて良かった!この試合を見届けたら、美味しいものいっぱい食べよー!”
『『やったぁ!』』
“そういえばモリー船長やナイト見なかった?”
『私は知らないなぁ。』
『僕も見てないよー。』
この席に居るのがバレないようにしないと!またややこしい事になるから、ゴウにも後で口裏合わせをお願いしておこう。
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テント内では、用意されていた回復薬を長男王子がフレッドに少しずつ飲ませていた。
「兄様・・・。フレデリック、けっこうやりますよ。」ウィンデルが嬉しそうに話した。
「その割りに、息は上がってないな?まぁ頑張ったんじゃないか。お前相手にあれだけ粘れるとは正直思っていなかった。」
フレッドはボーッとしながら兄達の会話を聞いていた。ほとんど内容はわからなかったが、きっと一撃も出来なかった事に失望しているのだろうと落ち込んだ。
数分経つと、目を開けることができた。ウィンデルが“次の試合頑張れ”と、頭にポンッと触れた。
「ウィルソン兄様が傷の手当てをしてくれたんだぞ?」とウィンデルが教えてくれた。
ズキズキとあちこち傷が痛かったが、起き上がって礼を言おうとすると、ウィルソンが“もうすぐ試合だから横になっておけ”と、気遣ってくれた。
「ウィルソン兄様・・・。ありがとうございます。次は・・期待に応えられるよう頑張ります・・・。」
疲れは少し楽になったが、思っていた以上に傷を作ってしまい痛みが辛かった。
目を閉じて、練習した事を反芻する。
次・・・機会を伺ってあの技が使える瞬間を見逃さないようにしないと・・・。
「失礼致します。」サキシタの声がしたので驚いた。
成人の儀の間、試合をする者以外闘技場に入ることは、原則禁止されているからだ。
「ウィルソン様、ウィンデル様少し宜しいでしょうか?」
テントの入り口に集り小声で話しているためよく聞こえなかった。聞き耳を立てていると、ウィンデルが近付いてくる足音がして、身体を起こしてくれた。
「友人からの差し入れだそうだ。父様の許可も頂いたとサキシタより伝言があった。さぁ、これを飲め。」
痛みが鈍く身体を包んでいた。兄の手には、身を覚えのある回復薬の容器があった。
「あ!・・・ふふ。やっぱり友達は頼りになるなぁ。」弟が急に柔らかい表情で笑ったので少し驚いた。しかし、この後更に兄2人を驚かせる事が起こった。
「ん・・・よし。」起き上がり、話し込んでいる兄達の所へ向かう。
「あの、ウィルソン兄様。ウィンデル兄様も先程はありがとうございました。次の試合、よろしくお願いします。」
振り返ると、先程までボロボロだった弟が試合前のように傷もなく、元気な姿に戻っていた。
「「フレデリック?!」」
「はい。痛みもないので、ウィルソン兄様もご心配なく。ご期待に添えますよう全力で挑ませて頂きます!」
2人の兄は、とりあえず傷の癒えた弟の姿を見て安堵したと同時にさっきの回復薬は何だったのか気になった。
問いただそうとしたが、試合に集中しなければいけないと思い直し、今はただその時を待つことにした。