閑話⑤ ナイト・キララの日記より(抜粋その1)
ミトラス、ナイト。片想い男子がお気に入りです!
俺には日課がある。そう、航海日誌と自分の日記を書く事だ。
思えば小さい頃から自分の日記をつけさせられていた。初めは絵日記で、字を覚えてからは毎日書いてたな。兄貴達ももうこの世にはいない親父も漁師で、だから当たり前のように漁師になった。母親は俺を生んですぐに死んだらしい。だから顔も知らない。
赤ん坊の時から船が家みたいに育ったので、学校にも行ってないし同じ年頃の友達もほとんどいない。
字や共通語は親父や他の船乗りから教えてもらった。大人達に囲まれて育ったためか、自分と同じ年頃の奴や子供はなんかは苦手だ。
そんな俺の唯一同じ年で友達なのが、モリー船長。マリオンだ。初めは女だとは知らずに遊んでいた。でもある時俺にあって、マリオンにはないものをしつこく兄貴達に聞いた事があった。それからしばらくして一緒に風呂に入る事も水浴びをすることもなくなったんだよなぁ。
12歳になった時、正式にマリオンの世話係に任命された。元々性別については公にしてなかったこともあり、一部にしか知られていなかったので幼馴染の俺が適当だと選ばれたらしい。
マリオンの父親であるゼン船長こと『ゼン・モリー』から、”マリオンを頼む”と直接言われて改めて俺はあいつは守るべき存在だと自覚した。でも本人は全く守ってもらおうなんて気はなくて、いつも俺が追いかける形になってるけどな。
15歳の時、水浴びをしているマリオンの見張りをしていた。本当に!!見るつもりはなかったんだが、偶然あいつの裸が見えてしまった。まぁ、豊満とはいえないが健康的で引き締まった美しい身体とほどよく膨らんだ胸が、水面の反射でキラキラしていて目を奪われた。初めてあいつは女なんだと意識した瞬間だった。
それから、マリオンの華奢な身体や、布を巻いてほとんど平らな胸元がチラチラ見えるたびにどうしようもない衝動に襲われて、一時期はおかしくなりそうだった。自分を抑えるのに精一杯で、兄貴達に相談するとからかわれるし、娼館に連れて行かれそうになり大変だった。
俺は他の女を見ても何とも思わないが、マリオンを見ると色んな感情が溢れてくる。兄貴達はそれは恋愛感情だと教えてくれた。そして、俺がマリオンに惚れているんだと。いまいちそれが本当かわからないので、17歳のとき一度誘われるままに知らない女と寝たことがあった。
いや、未遂だった。全然勃たなかったんだよなぁ。でも、目の前の女がマリオンだと考えた時に急に体が熱くなって、でもその女には悪いがヤる気が失せてしまい金を払って帰った。
ライト兄が”据え膳喰わぬは男の恥”という古代語を教えてくれたが、あの時はなんか萎えてしまってできなかった。 兄貴は”純粋だな”と言ってたっけ。
ゼン船長と奥さんが難破して行方不明になった時、初めてマリオンが大声で泣き叫ぶのを聞いた。泣き疲れて眠るまでずっとあいつを抱きしめてたっけ。あの時絶対こいつを守るって決めた。
船長としてマリオンが落ち着いたら、結婚を申し込もうと思ってたのに。最近妙な奴が現れた。
『メイ・パロット』という俺の部下で、新人。年下のクセに妙に落ち着いてるし、マリオンに馴れ馴れしい。マリオンは世話好きで、これまでも下っ端のヤツに構うことはよくあったが、なんか今回は胸騒ぎがする。
2人は気が合うのか、特に会話もなく夜の海を眺めていたり、ゴウって獣人のヤツも一緒だがなんかメイの方が気にかかる。
近くで観察してみたが、今のところマリオンに対して邪まな感情はないようだ。いやいや!あいつも男だ。子供とはいえ、俺がマリオンを意識したのもあの年頃だったしな。まぁでも、時々ぼーっとしてなんか抜けてるところもあるし、仕事は初めて船に乗ったにしてはできる方だ。警戒はするが、部下としては多少評価してやってもいいか。
明日も一日、良い日となりますように。やおよろずの神よ、我らをお守りください。