マニュアル人間
佐江内人生は仕事ができない。
佐江内人生は覚えが悪い。
佐江内人生は言われたことすらできない。
佐江内人生は空気が読めない。
人にはそれぞれ才能がある。
そうでないと理屈が合わないのである。
この地球というステージで活躍するために。
何か一つはあるはずだ。
あったはずだ。
それを忘れてしまわなければ。
だがしかし。
奴にはどんな才能があるか。
わたしにはわからない。
それは当然、本当に。
わたしが知る由も無い。
本人だけが知っている。
本人だけがわかっている。
本人だけがわかっていた。
そうわかっていたのだ。
だが、人はいつの間にやら能力を失う。
あらゆる可能性があったのにいつの間にやら失くすのだ。
そんな能力を失った人間に自分の才能がなんであったかなんてわかるはずもない。
そんな能力を失った佐江内くん。
君の存在は一体なんだろう。
だがしかし、そんな存在の佐江内くんについて。
わたしにもわかることがある。
それは佐江内人生という人間には、この仕事は向いていないということ。
本人だけがわかっていない。
本人だけが気づいていない。
本人だけはわかっているフリをする。
それはセンスがないということ。
センスがある人だけがわかること。
センスがあるからこそないということがわかるのだ。
人は本来わかっている。
わかっていないなら。
それはもともと持っていないということ。
「佐江内くん。聞いているかい。僕は君に言っているんだよ。なぜ、君みたいな存在がいるのかね。
考えたことがあるかい。きっと君はいつも通りにわからないというんだろうね。
だから、君という存在が生み出されるんだよ。そう無個性という存在だ。
君という存在がどうやって生み出されたか。教えてあげよう。」
マニュアル人間。
指示待ち人間。
自分の頭で考えることをやめてしまった人間。
「佐江内くん。結論から言ってしまおう。
そう君という存在を作ったもの。それはこの日本という国の教育だよ。
ねえ、不思議に思わないかい。なんで平等と言うのだろう。そんなものは存在していないのに。
平均。道徳。学校という教育システムが作り出した君という存在。
確かに君はいい人だと言える。
だが、それは本当にいいことなのだろうか。
いい人=いいこと。
この方程式はあっているのだろうか。
あっていると思うかい。」
無言。
「あっていないよね。いい人はいいことではない。
君のいい人は周りと衝突しないという消極的な行動から来ているいい人だ。
君は絶対人と争わない。
だから、君には芯がない。
信念がないものは存在が気薄だ。
だからこそいてもいなくてもどうでもいい。
なんで、僕には信念がないかってそれは。
人の言うことをなんの疑問も持たずに聞いてきたからだ。
自分に都合のいいロボットのような反抗しない存在。
それが君だ。
得意なこともあれば、不得意なこともあったはずなのに。
全てを平均にしようとして、君の中の得意なものが薄まった。
本来、得意なものを伸ばせば良かったのにね。
おかしいと思わないかい。
学校という特殊な環境から抜け出せば、平均というものはなんの価値もない。
社会が求めるものは特異性だ。
そう得意性だ。
誰よりも優れているもの。
誰よりも得意なこと。
それが価値になる。
誰もができることなんてなんの価値もない。
だって、需要と供給のバランスがあるから。
人はレアなものを欲しがる。
ノーマルキャラほど需要がない。
そんな当たり前のこと誰だって知っているのに。
なぜ、そんな簡単なことがわかっているのに。
人は平均であろうとするのだろう。
そうそれが常識という劇薬だ。
みんなが言っていることが全て正しい。
誰も彼も疑わない。
日本という狭い中での偏った考え方。
世界を見れば、いろんな人種が、いろんな価値が存在している。
そんな当たり前の事実から目を背ける。
君は常識に縛られた日本という国だけに通用する価値に蝕まれた哀れな存在。
昔の価値が今では通用しない。
そう君の価値は地に落ちた。
暴落したのだよ。バブル崩壊だよ。
株券が単なる紙と化したのだ。
今更、君という存在を変えようとしても君を変えることは難しいね。
プログラムを変えようとしても君の場合、魂に食い込んでいて、書き込みができない。
アンインストールするしかないね。」
その日、佐江内人生という存在が消滅した。
デリートした。
「さあ、君はもう一度、宇宙にお帰り。あの世のね。そこで新しくインストールされればいいよ。
いつ転生されるかわからないが、君という存在は供給されすぎて価値がないのだよ。
まだ、地獄心中の方が価値がある。異常性という。
ノーマルキャラは今の時代、いらないのだよ。次は最低レアにでもなりな。
もう僕の声も聞こえないか。宇宙の一部と化した君には。」




