第4話 はじめてのお異界
少し長いですがお許しを!
「………朝ね!」
「朝なのか」
太陽がなく意味不明な時計しかないこの空間だが、今朝なのか。
「それにしても、あなた大分目覚めが良くなってきたわね」
当たり前だ。あんな毎回毎回変なもじゃもじゃの鳴き声で起こされてたら、嫌でも臨戦態勢をとるようになるわ。
「……それはそうと、起こしてくれるのはありがたいんだが、何回も言ってるけど布団を剥ぐのだけはやめてくれないか?あれされると精神的にも、肉体的にもやばいんだ」
「あ!時間ね!」
「聞けよ!」
次やったら布団で縛って吊るし上げてやる!
俺たち二人は、奇妙な光を放ちだしたあのばかでかい時計の前へ立つ。
「前にも言ったけど、もう一度確認しておくわね。『異界』へ行く目的は2つ。1つは、膨大すぎるエネルギーの塊、『主原』の排除。そしてもう1つは、天使が人間に授けてしまった特別な能力、『アビリティ』の回収。どのくらいかかるかわからないけど、一緒にがんばりましょ!」
「……ああ」
そう。『主原』の排除と『アビリティ』の回収。この2つが、以前ミールに言われたこと。この2つが完了すれば、『異界』を完全に戻すことができるらしい。
主原は見たらすぐわかるらしいが、アビリティの判断は難しく、回収も極めて困難らしい。
どちらにせよ、戦いは避けられない。ミールは嫌がってアビリティくれないし、チート持ちの奴らに俺は本当に勝てるのだろうか?
装備はミールが用意してくれた完全感覚モン狩の初期装備の模倣。武器は、木刀のみ。ミールもちゃっかり長袖のワンピースに着替えてるし。
欠陥だらけの状況に、感情は自己循環され、不安がどんどん煽られる。
息が切れる。手汗が止まらない。
「なあ、ミ――」
「だいじょうぶ!!」
「っ!!」
「あなたならきっと、だいじょうぶよ!」
ただの気休め。それでしかない言葉なのに。
そうか。そうだったな。
一度死んだ身であり、生き返れる可能性がある選択。
そう、この問題を一刻も早く解決して、主界へ戻る。
妹のためにも、潤に心配かけないためにも、そう心に誓っていた。
不思議と気持ちが落ち着き、緊張がほどけていく。
「……ありがとな」
にこーっとした笑顔で返すミールに、心が洗われるのを感じた。
「それじゃあ、準備はいいわね?」
こくりと無言で頷き、息を呑む。
緊張で、猛烈に尿意を感じてたことは忘れておこう。
「よーし!しゅっぱーーつ…… しんこーー!!」
「うおおおっ!?」
急に腕を引っ張り、時計に飛び込むミール。
何か開くとか、ワープするとか思ってドキドキしてたのに、少しちびっただろーが!
まさかの時計ダイブに、怖くて一瞬目をつぶる。そして風を切る感触。
……………………え?
「空かよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「あははー、想定外っ」
「キャピルン☆っじゃねええよおおおお!どうするんだこれぇ!」
両手両足を広げ、落ちていくことで股間が寒くなるのを感じながら必死に助かる術を探した。
くそ!昨日の夜死亡フラグ的発言をしたせいか!?このまま出落ちなのか!?
「まーまー、なんとかなるからー」
気づくと既に、地面との距離が近くなっていた。
「この、クソガキィィィィィィィィィイ!!」
やばい……!このままだとマジで木に刺さる…!
「うわあああああああああ…… あれ? ……うおおおっ!?」
木に当たる直前、一瞬フワッとなると、再び自由落下を始めた。
………十中八九ミールだな…。
「……こうなるなら先に言えよ… ハチャメチャが押し寄せてきただろーが」
結局、木の枝が刺さりまくって普通に痛かったが。
「ごめんごめん、うまく言葉にできなくて」
てへへと笑うミールも、あちこちに傷をつけている。
「まあいいけどさー。しっかしこの森、静かすぎるなー。あっちのジャングルとあんまし変わったとこなっ……」
周りをぐるっと見渡そうとして、ミールの前で止まる。
「そうそう、さっき空中で止めたのでねー。力がほとんど残ってなくなっちゃって、だからおぶぶぶっ!」
ガチンッ!
「!? なになに!?」
……間一髪だった。ミールの後ろにいたのは、高さ4メートルほどの、恐竜。
ギリギリのとこで助けれたが、こいつ、やばい……!
凶暴な牙もそうだが、なにより圧倒的速さ。
攻撃が全然見切れなかった……!
「くっ………………!」
ミールを腰にかかえ、咄嗟に背中の木刀を構えるが、全く、勝てる気がしない。
「グルロォォォォ………… ガアアァッ!!」
「ええ!? ええっ!?」
奴が動き出すと同時に、斜め後ろへとステップを踏み距離をとる。
「くそっ…!埒があかねえ! …逃げるぞ!後方確認よろしく!」
「ちょっ、後方確認って、てええええええ!?なにこの化け物ってはやっ!!」
今まで反対を向いてたミールが、ようやく状況を掴む。
そして俺は、修行で鍛えた足で、全力で森を駆ける。
くそ、やっぱりついて来たか…!
ちょくちょくミールの悲鳴が聞こえるあたり、距離はすぐそこだ。
前方を見る限り、この森の終わりは見えてこない。
まずいな、森を抜けるまで体力がもつか―――
「おいそこ!目を閉じろ!!」
「!!」
「え!?なになに!?」
「はやく!!」
どこからか聞こえる、少年の声。
考えるより先に目をつぶり、一瞬足を止める。
すると、急に辺りが白くなると同時に、恐竜が悲鳴を上げる。
「閃光玉か……!」
「ぎぃいやああああああああああああああああああああ!!」
「お前もくらったんかい!」
「こっちだ!!」
まだ少し眩しかった目を薄く開け、人影が見える方へ走っていく。
「…ありがとう、ホントに助かったよ」
「話はあとだ、とりあえずここから出るぞ!」
……少し気難しそうな子だな。コミュ障の俺には少し骨が折れる。
「…ミール、大丈夫か?」
「…目が……目が……… あっ、翼もげた…」
「お前ホントに大丈夫か!?」
ミールの翼が木の枝にひっかかり、もげた。
…まあ、ミールが思ったより平気そうだったので、このまま少年を追いかけることにした。
おつかいとは無関係です!