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2章 保つ者

「ユースティス……」


いつの間にか背後に現れたユースティスが彼女の後ろ姿を眺めながら言った。


「あまりあいつを褒めてやるな」


ユースティスは少し罰が悪そうな瞳をアリアに向けて言ってきた。


「どうして?私のために一生懸命頑張ってくれるし……、私が落ち込んでいるのをいち早く察してくれるのに褒めてあげないと割に合わないような気もするけど……」

「だからこそだ」

「……どういうこと?」

「お嬢様自身がこれほどまで伝えないと理解出来ないほど阿呆だと思わなかったな。まぁ、いい。俺が言いたいのはな誰も彼もが本当の自分を見せていると思うな―――ということだ」

「とりあえず一発殴っていい?私が阿呆なのは認めたくないけど、それにしたってユースティスの言いたいことが全然分からないよ」

「ふん。いずれ分かることだ」


彼は一言告げると、アリアの元から去っていく。

その後ろ姿はどこか哀愁の漂う雰囲気を醸し出していた。


彼が一体何を言いたかったのか。

アリアには知る由もなかった。


そんな彼とすれ違う形で別の声がアリアの耳に聞こえてくる。


「お嬢様。お待たせ致しました」


声のする方に体を向けると、食事を手に持ってきたアルマリアが朗らかな笑顔を向けてアリアの元にやって来た。


彼女の顔を見ると、先程のユースティスの言葉が頭を過る。


それに影響されてか。


「……ありがとうアルマリア」


アリアの声は不自然に小さくなった。

アルマリアはアリアの違和感に気が付きながらも、お礼の返事を返した。


「これもお嬢様の為ですから」


その言葉に彼女の優しさを肌で感じ取る。

不意に彼女の瞳を覗き込む。


こちらを真っ直ぐと見つめてくるアルマリアの優しい瞳に思わず吸い込まれそうになる。


一人肩身が狭かった自分の今があるのは、きっと他人の優しさなんだと思った。


残されたアルマリアとユースティスだけがアリアにとって唯一の救いだった。


きっと自分一人だったら、当の昔に心が折れてしまっていたかもしてない。


それほどまでに無人の襲撃というのは印象深かったのだ。


死にかけてしまうほどの恐怖が目の前に襲ってきた時に二人の存在によってその恐怖は和らいでいった。


それこそアルマリアはお姉ちゃんのような温かさで。

ユースティスは兄のような存在だった。


ユースティスの方は亡き父の代わりに厳しく鍛えてくれた。


楽しい時も。

辛い時も。


悲しい時も。


どんな時も二人は傍にいてくれた。

片時も傍を離れないでいてくれた。


やがて、二人の存在はアリアに影響を与えた。

強く生きようとした二人に生かされたかのように。


強くなろうと決心した。

全ての人間を守れる力を得ようとした。


そこから二人による無人討伐のための特訓が始まった。

強大な敵である無人を倒すには、精神的に成長するだけでは足りない。


肉体の強化が必要だった。


何度倒れても、幾度の怪我に見舞われても、決して折れることのない心に追いつくための体がアリアにとって必要なものだった。


ユースティスとアルマリアの特訓は厳しいものだったが、アリアはめげることなく特訓を休むことはなかった。


何故ならアリアには明確にしなければならない確かな気持ちがあったからだ。

絶望的な力を目の当たりにして正気を保つということは容易ではない。


目の前で奪われるということがどれほど辛い事なのかを彼女は既に経験している。


奪った者は知らない。

奪われる者を気持ちを。


こちらが味わった屈辱を彼らが知らないのは不公平というものだ。

だから、奴らに教えてやるのだ。


人間の強さというものを。

生きるための誇らしさを。


奪取される儚さを。

人間の成長速度を知らない拙さを。


二人の特訓によりアリアはある程度の無人は倒せるくらいに成長を遂げた。

お嬢様という枷が外れた彼女には十分過ぎる成長を遂げたと言えるだろう。


しかし、まだまだ幼い所があるため二人は内心心配だった。

故に二人はどこまでも付いていくことにした。


かつて自分達の頂点に君臨していた偉大なる王の血を引く者。


従えていた王が私達に託した者を。


きっと我らが王が見たかったはずの景色に二人は立っていた。


二人はアリアが成長した姿を彼女の父に見せてあげたかったと思いつつ、二人はしっかりとした足取りで進んでいく彼女の後ろを付いていくことに決めた。


その影が昔の自分達が見てきた王の後ろ姿にそっくりなことに内心笑って―――。


彼女の後ろをついていき―――早十年の月日が経った。


彼女は立派に成長した。

本当に見違えるほどに。


幼かった彼女はもういない。

ここにいるのは幾千の試練を乗り越えて心身強くなった少女一人だけだ。


ここまでたくましくなったアリアに二人はある提案をした。


『お嬢様』

『何?アルマリア』

『そろそろお嬢様も無人を倒せるようになりましたし、外の街に旅に出てみませんか?』

『旅に?』


アルマリアの提案が脳裏を支配していく。


彼女がどういう気持ちでそんなことを言っているのか。


アリアには到底計り知れなかったが、彼女がそういうと言うことは何かしらあると言うことだ。


『でも、どうして急に?』

『そうですね。一番の理由としましてはお嬢様も立派に成長為されましたし、そろそろ旅に出て色々な景色を見せていきたいとと思い、提案に至った次第です』


彼女の提案にアリアは唸って悩んだ。


『う~ん……』


確かに今の自分は無人を倒せるまでに成長したが、それでもまだ僅かばかりの不安は残る。


しかし、外の世界を経験しておきたい気持ちも少なからずあった。


だからこそ、アリアは非常に葛藤した。

彼女はひたすら悩みに悩んだ末ーーー


『旅に出ることも出来ないお嬢様に仕えてしまったのか』というユースティスの憐めな目で言われたことをきっかけに旅に出ることを決めた。


ユースティスの言葉で決心したのは正直不本意だったが、アリアに旅に出たいと思わせるには十分な一言だった。


そして、三人は外の世界に触れるための旅に出た。


勿論外の世界を見て見たいという気持ちもあったが、それ以外にも目的があった。


それはーーー


『無人を殲滅すること』だった。


アリアと同じような経験をしている人間がこの世界のどこかにいるはずだとアルマリアが言った。


確かに考えてみれば、彼女の言う通りだった。


アリアのように無人からの襲来を受け、路頭に迷っている人間がいるかもしれない。


自分はまだアルマリアやユースティスがいてくれたから良いものの、他の人達は自分のように寄り添ってくれる者がいるかどうか分からない。


ならば、自分がその人達を支えるような人間になりたいと思った。


アルマリアのような優しさを持った人間になりたい

ユースティスのように芯のある人間になりたいと。


そこからアリアの旅が始まったのだ。


三人は手始めに無人に困っている街を探索しようとしていた。

幸いアルマリアとユースティスは、外の世界の知識を持っていたので、行き当たりばったりということはなかった。


だが、中々行き先が決まらなかった。

その結果、適当に歩くことにしたのだが―――それがまずかった。


当然道には迷うし、体力を奪われる。

先程のように突然の自然の脅威に会うことも度々あった。


「そう言えば、ホルノマリン街ってどんな街なの?」


ふと思ったアリアが、後ろを歩くユースティスに向かって言った。


ユースティスは足元を見つめ言い返す。


「簡単に言えば、無人がいない街だ」

「無人がいない街?そんな街が存在するのッ⁉︎」


もしそれが、本当の話ならばとても驚くべきことだ。


「さぁな?俺も噂でしか聞いたことがない」


ユースティスは首を傾げて言った。


どうやら詳しい内容はユースティスも知らないらしい。


二人が話し込んでいると、目の前に大きな建物が聳え立つ街並みが見えてきた。


「どうやら着いたらしいな……」

「もうヘトヘトだよ……」

「大丈夫ですかお嬢様?街に着いたら休息出来る宿屋でも探しましょう」


そうこうしているうちに三人は街らしき場所に着いた。


大分歩いた分の影響なのか。

疲労が目に見えて取れた。


そして、今に至る訳だ。

旅に出て無人を掃討しようとした矢先の出来事。


迷った挙句に辿り着いた街が無人に襲われていない街だったなんて誰が思うだろうか?


旅の疲れを癒すにはうってつけであり、幸運にも身の安全を確保するにはもってこいの場所だ。


しばらくはここに身を潜めてもいいかもしれない。

しかし、無人が寄ってこない場所が存在したなんて。


驚きを隠せないアリアとは裏腹に後ろを付いてくる二人は冷静に分析をしていた。


「もし地下に何かあるとして……、一体それは何なのでしょうか?」

「難しいな……。推論しようにも情報が足りない」

「そう言えば、来る時変な匂いがしたよね?」

「変な匂いですか?」

「アルマリアは気が付かなかった?私だけに感じた匂いとかでもなさそうな感じがしたんだけど……」


アリアの言葉にアルマリアが顎に手を置いて記憶を遡る。


しかし、そんな匂いなど自分は気が付かなかったことに思い至り、アルマリアは考えるのを辞めた。

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