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「ここは一体どこなのでしょうか?」

「……」


ギギギ……。

その問い掛けにアリアはそっぽを向いた。


終ぞ開かれた口から出て来た言葉を、極力理解しないようにしようと全く違うことを考えようとするが……


「目を逸らさないで下さい。私には分かっているんですよ。お嬢様は都合が悪くなった時は大抵そっぽを向いてやり過ごそうとするんですから」


そう言って逸らしていた顔をアルマリアに掴まれて首を正面に向けられる。


完全に逃げ場がなくなったことを認識した。

実はつい先程気付いたことなのだが……。


アリアは話し込んでいるうちに道を間違えたらしく、全く知らない辺境の地に来ていたことに先程ようやく気が付いたのだ。


本人は気が付かないフリをしていたのだが、そんなものはアルマリア達には全く通用しないらしくあっさりと気が付かれてしまったらしい。


悔しさ反面申し訳なさが胸一杯に溢れた。

どうやら自分は方向音痴の癖があるらしい。


「ここは……あれよ‼きっと隠しマップみたいなところよ‼」


必死に言い訳を考えて言葉にしてみた。

そうよ。


出なければ、この場所に辿り着いたことの説明がつかないもの‼


そう自分に言い聞かせ――――


「で、来る場所を間違えたんですね?」

「それを言わないで‼」


アルマリンに率直な意見を言われて隠そうとしていた自分が馬鹿らしくなり、心を撃ち砕かれた。


「駄目な主を持つと本当に苦労するんだな……」

「止めて‼そんなくずを見るような目で私を見ないで‼」

「方向音痴にもほどがあるだろう」

「うるさいわね‼仕方ないじゃない‼そもそも二人が喧嘩なんて始めるから道が分からなくなっちゃったんだよ‼」

「挙句の果てには責任転嫁とは……心底恐れいるな」


そうよ‼

二人が悪いんだわ‼


これは決して私のせいなんかじゃないわ‼


もはや絶対に自分の責任にしないと固く決意している始末である。


この状態のお嬢様に何を言っても無意味だと痛感しているアルマリアは、今自分達がいる場所を正確に測ろうとした。


そっと目線を水平にする。

やがて辺りを見渡して現在地の把握に勤しんだ。


数秒黙り込んだアルマリアを側で二人が静かに見つめる。


アルマリアの邪魔をしないためだ。


そして、暫く辺りを見渡していたアルマリアが視線を逸らしてアリアの方を向く。


「座標からして大体北西に進んでますね……」


そう口にした。


アルマリアは地形に詳しく、辺りを数秒見渡しただけで今自分達がいる場所を知ることが出来るのだ。


北西に進んでいるという彼女の情報に対して、


「私達の故郷、マイヤーポルトから北西に進んだところって言うと―――」


最初のアリアがいた地点から計算していく。


アリアもアルマリアほどではないにしろ地形をある程度理解しているつもりだった。


故に少し考えて地形を割り出そうとした。


だが、彼女より早く、少し離れたところで二人の様子を見ていたユースティスが言った。


「恐らくーーーもう少し北西に進んで行けば、ホルノマリン街という街があるな」

「ホルノマリン街?聞いたことのない街ね……」

「お嬢様はマイヤーポルトから出たことがないからな」

「むむ……。本当のことだから否定出来ないわね……」


悔しさにユースティスを睨んでみるが、ユースティスの言っていることは本当なので、迂闊に否定することが出来ない。


正直言って父が殺されたあの日が、外を出た初めての体験なのだ。


外に出ても、至る所に無人がいて走り回っていたりしたのだが……。


それでも外に出るという体験は非常に貴重な経験だった。


いつもと違う街の風景。

人々が逃げ惑い、もぬけの殻となった家。


廃墟と化した建物が沢山あった。

レンガで建てた家や、コンクリートで建てた家。


頑丈な造りで建てたはずの家達は、いとも簡単に壊されていた。


無人に破壊されていく家を見つめて、アリアはアルマリアに引っ張られていく。


生まれてから変わらなかった街並みが驚くべき変貌を遂げている。


その事実にアリアはただ困惑するしかない。


貪り取られていく街。

遂には原型すら留めなくなった街がそこにはあった。


再びアリアが戻ってきた時には、閑散とした風景が広がっていた。


何も無くなった街が、閑古鳥が鳴くかの如く。


砕け散った外壁に、血塗られた地面。

あちこちに転がっている死体の山がそこにはあった。


瞳を震わせてその真実を受け入れる。

昨日まで栄えていた街は、一気に奪われた。


強盗に襲われたとか、窃盗にあったとか。

そんな生温いものではなかった。


それこそ、全てを奪われたと言ってもいいほどの感覚だ。


むしろ清々しいほどの奪われかたに、アリアは笑うしかなかった。


ここからアリアの心はおかしくなっていった。

何をしても常に笑っている。


そんな状態が続いていた。


笑っていることに関して言えば、さして悪いことではないのだが。


常に笑っているという異常にも近しいその状況で、アリアは空を眺めていた。


そこには無機質な空が広がっていた。


酷いくらいに輝いた青い空が、アリアの目を焼き付けようとする。


久しく見ていなかった輝かしい空にアリアの心はますますすり減っていった。


自分は今、何の為に生きているのか分からなくなってしまった。


今までの日常を奪われた時、人は本当に無関心になるのだと思った。


本当に生きていることすらおこがましく感じ始めてきた。


「お嬢様、食事は如何ですか?」

「いらない」

「ですが……、もう三日も食べていないではないですか。流石にお体に触りますよ?」

「別にいい」

「しかし……」

「ーーーッ‼︎もうほっといてよ‼︎」


アリアはアルマリアが持ってきてくれた食事を地面へと零した。


「私はアルマリアみたいに強くないんだよ‼︎突然家族を奪われて……家も、お父様も、お金だって失った‼︎これだけの物を一度に失って正気を保てって言うの⁉︎冗談じゃないわよ‼︎」


怒号の嵐が飛ぶ。


彼女ほどの人間ですら耐えることの出来ない現実が押し寄せていた。


彼女の不満をアルマリアが親身になって受け止める。


それを受けた彼女は、地面に溢れた食事を手で拾いながら言った。


「確かに、私には人より感情というものが少ないかもしれません。それこそ、数々の同胞が無人によって食われていくのを私は何もしないままじっと見つめていました」

「だったらーーー」

「ですが、それとこれとは話が違います。私は貴女のお父上に頼まれました」

「父に……?一体何をーーー」

「貴女を守るようにと、最後の命を受けました。そして、お父上が死んだ今、その命は未来永劫のものとなりました。何故なら、証明しようにも見てくれる者がいなければ意味がないですから。ですから、貴女のお父上に授かった命をこの身が死ぬまで果たす。それが私がここにいる理由です」


アルマリアの真っ直ぐな瞳が、アリアの瞳を穿つ。

やはりアルマリアは強いなと改めて実感した。


これほどの人が一体何故自分について来てくれるのか不思議でならなかった。


だからこそ、アルマリアという人間について、もう少し触れてみたいという感情が芽生えた。


彼女の頑なに曲げない意思に、アリアが折れるのは時間の問題だった。


「ごめん……」

「いいですよ。私もお嬢様と同じ年齢の頃はよく反抗したものです」

「そうなの?」

「ええ」


満面の笑みを浮かべてこちらを見てきた。

自分と似たことをアルマリアがしていたという。


全くもって不思議でならなかった。


アリアが目の前にいるアルマリアという人間の大きさを実感していたその時ーーー。


突如笑顔を浮かべたアルマリアが思い出したかのようにいった。


「それはそうというお嬢様」

「何……?」

「食べ物を粗末にするのは感心しませんね?」

「うッーーー‼︎」

「罰として今日の晩御飯は無しです」

「そんなッ⁉︎」

「新しいもの持ってきますね」


笑みを零しながら食べ物を取りに行く彼女の後ろ姿に、少しだけ憧れじみたものが芽生え始めた。


「……」


その様子を遠くから眺めていたユースティスが、アルマリアの姿に見惚れている彼女の元へいく。


そして、足音を立てずにアリアに近づいて言った。


「あいつにも困ったものだな」


ぼそりと呟いた言葉に反応したアリアが惚けていた顔を元に戻して彼に振り返った。

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