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「全くもって情けない奴だ……」
「はい?ちょっと待って聞き捨てならない‼︎ユースティスは私のことおぶってもくれなかったじゃん‼︎」
「私は自分のことで手一杯でしたので……」
「嘘だ‼︎どう考えてもアルマリアが運ぶより簡単に運べるでしょう‼男なんだしッ‼︎」
「こういう時だけお嬢様っぷりを発揮する癖を直せ」
「ユースティスは従者なのに。ムカつく‼︎」
力強く声を挙げたアリア。
その様子を傍目で見ていたアルマリアは彼女を宥めるように言った。
「私は全然大丈夫ですよ。お嬢様の為なら例え火の中、水の中。何処へだってお連れ致します」
朗らかな笑顔を向けて言うアルマリアに対してアリアは鋭い指摘を入れた。
「アルマリアは優しすぎるんだよ……。本当はもう少しユースティスに預けてもいいのに……」
「いえいえ、私なんかよりお嬢様の無事が何よりですから」
「ふん、お嬢様も少しはこいつを見習ってほしいものだ。優しさとはなんなのか?思いやりとは何なのか?についてな……」
「貴方は黙ってなさい。私はお嬢様に対してだけ優しいのであって、貴方に対して優しくするつもりは毛頭ありませんよ?」
「ほう?言ってくれるなアルマリア……?先刻までの優しい雰囲気が一変したな。遂に本性を現したようだ。お嬢様。こいつは危険な奴だ。裏表がある奴は信用出来ん」
「ここでお嬢様を使うとは卑劣極まりないですね下郎」
ユースティスにこいつ呼ばわりされた挙句、指を指されたアルマリアはスッと目を細めた。
彼の言葉に対して鋭敏に反応したアルマリアの表情が急に曇った。
その二人のやり取りを静かに眺めていたアリアは、己の失態を嘆く。
今のは完全に自分が引き金になってしまったと自覚しながら、自分の愚鈍さを呪った。
二人がゆったりとした動きで互いに距離を詰め、戦闘体勢を取り始める。
「俺を相手に戦うというのか?」
「もちろん。そのつもりでございますよ?言わなくても分かって下さい。察しが悪いですね」
「俺を切れさせたら、どうなっても知らんぞ?」
「いちいち問いが多い方ですね。まどろっこしいのは互いに無しにしましょう」
「……それもそうだな。貴様に何を言ったところで改心するわけでもないしな」
「それは私が性根の腐った奴……、と言いたいんですか?」
「そうは言っていないがな。もし、そう思ったのだとしたら、貴様自身自分のことを一番理解しているんじゃないのか?」
アルマリアからプツンと何かが切れた音が聞こえてきた。
「うふふ……」
「ふん……」
二人の間に不穏な空気が立ち込め、互いに動き出そうとした。
その時———。
「止めて二人とも‼」
二人の喧嘩に割って入るようにして声がかかる。
その声によって動き出そうとした二人の動きが止まった。
アルマリアとユースティスは互いに手を止めると、声のした方を向く。
「何でしょうお嬢様?」
「これからだという時に止めるとは無粋な奴だな……」
喧嘩を止められた二人は邪魔されたことに腹を立てているのか。
心底怪訝な顔でアリアを見つめた。
二人の視線を浴びたアリアは、すっと目を閉じて口を開いた。
「二人が私の為に争うのも無理はないと思うの‼」
「どれだけ自意識過剰何だこのお嬢様は……」
ユースティスが何やら突っ込んでくるが、今は無視することにする。
「二人の力はこんなところで争うために使うものじゃないでしょう‼もっと他にあるのを忘れないで‼︎無人を倒す事が私達の役目なはずだよ‼︎遠い昔に父は言ったわ……ッ。永遠に続くと思われていた戦争も終息したってね。誰もが思ったことが覆ったんだよ?だから―――私は無人がいなくなることもあり得ると思う。だって……あったはずの戦争ですら、父の言うようにあっさり終わりを迎えた。だったら、この戦いだっていつか終わりが来ると信じてる‼だから二人とも……互いに剣と銃を収めて……」
輝かせた瞳で二人を見る。
きっとアリアの思いは二人に通じるはず。
だって、これまでずっと一緒にいたんだもん。
私は信じてる。
しばらく二人を見ていたアリア。
彼女の願いが通じたのか。
互いの獲物を持っていた二人はアリアの熱弁に当てられたのか。
双方が武器を元に戻してアリアに向き直った。
「お嬢様。熱弁ありがとうございます」
感化されたアルマリアがアリアに向かって会釈をした。
次に拍手をして歩み寄った。
その瞳はアリアと同様に光り輝いていた。
意思が通じたと思ったアリアは満面の笑みで迎えた。
「流石、私達が見込んだお嬢様です。これほどまで心に染みた熱弁は、今まで聞いたことがありませんでした。感動しました」
「ふん……」
アルマリアの流れるような言葉にユースティスも思うことがあったのか。
同じく納得のいっている表情でこちらを見てくる。
「私が信じて来た道はーーー間違いではなかったと再認識させて頂きました」
「え?そ、そう……?なんか照れる……」
アルマリアの大袈裟な表現に若干照れ始める。
褒められることは悪いことでもないので素直に喜んでおくことにする。
そうして、納得したアルマリアがアリアの目の前まで迫って来た。
そのまま幾度となく見て来た優しい笑顔を向けてくるアルマリアに応じようと、アリアも彼女に負けないくらいの笑顔を向けて見つめる。
そして、ゆっくりと歩み寄ってくるアルマリアをじっと見つめて……
「ところでお嬢様」
「……?」
不意にアルマリアの口が開いた。
一体何だろうかと勘繰る。
何か言いたいことがあるのか。
瞬きもしなくなった彼女の瞳がやけに突き刺さると感じている中ーーー