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『いや、ここでやるのはさすがにまずい……』
『でもよぉ……』
二人はユースティスに聞こえないくらいの小さな声で話していた。
『後でバレたらどうするんだ‼︎』
『もうバレてるよ‼︎』
話し合いに夢中になっている二人にユースティスが話しかける。
「何ブツブツ話している」
『うるせぇ‼︎』
『もうやっちまおうよ‼︎どうせこの場所見られたらまずかったんだし……』
彼らが話しているのをユースティスは無視して二人の脇をすり抜けて奥へと突き進んで行く。
目の前に現れた扉を前にそっと手を掛けたユースティスに遅れて気付くこと数秒。
男達二人が慌てた様子で声を出した時には、既に時遅し。
重い扉を開けてユースティスは中へと入って行った。
「入るぞ」
『え、あっ……ッ‼︎おい‼︎』
『げぇ⁉︎』
鈍い音を立てて開く扉。
中に入った瞬間、背後から聞こえてくる男二人の喧騒などすっかり耳には入らず。
扉の先にあった光景に目を向ける。
ユースティスは殺伐とした中の様子に見せられる。
「誰ですかな?」
その瞬間、不意に耳に飛び込んでくる声に驚いた。
その奥地にひっそりと息を殺して潜む者の姿にユースティスは息を呑んだ。
「……ッ」
それは見紛うはずもない一人の老人。
そう。
最初に自分達に無人討伐の依頼をしてきた村長の姿がそこにあったからだーーー。
♦︎♢♦︎
アリア達と別れたアルマリアとロンドは、淑女が見たというトンネルに向かっていた。
街の中心街から抜けた二人は、向かって行く最中で億劫について話し合う。
「もうすぐで着きますよ」
「それはお早いことで」
彼女の後ろをついて歩くロンドに、アルマリアは視線を向ける。
その視線に気が付いていたロンドは、彼女を見つめ返す。
「何で人の顔そんな見つめてくるんだ?」
「大した理由はありませんよ。不思議な方だと思っただけですので……」
「不思議?何でだ?」
「ええ、何しろ私達に付いてくる時点で、薄々おかしな方だと感じ始めてました」
「それは酷いな⁉︎」
辛辣な言葉を吐き散らす彼女の言動に、さすがのロンドも度肝を抜かれる。
毒舌を吐くところがまた想像もつかない容姿なのにも関わらず……。
そんな彼女の痛烈な言の葉を受けたロンドは、彼女を一瞥してから常々聞きたかったことを聞いてみた。
「それにしても聞いてみたかったことがあるんだがーーー姉ちゃんはどうして毎回メイド服を着ているんだ?」
突拍子も無い言葉が彼の口から漏れ出す。
確かに、側から見れば異質にも思えるその服装に、違和感を覚えないわけがなかった。
ここ数日一緒に行動しているロンドでさえ、終ぞ彼女のひらひらとしたレース姿が目に付いて集中出来なかったのだから。
彼女の服装についての疑問に顔を歪めていたロンド。
そんな彼の疑問を真摯に受け取ったアルマリアは、前方を見据えながら答えた。
「それは私が、お嬢様に仕えるメイドだからです」
真とした言葉、凛とした態度でそう告げた。
「メイドねぇ……」
「仕える身としての証なのですから、着ていても何も問題はないでしょう」
「……ふっ」
アルマリアは淡々と述べる。
彼女の論説に対してロンドは鼻を鳴らして笑う。
「何がおかしいのですか?」
「いや、別に何でもねぇよ。姉ちゃんが純粋だってことがよーく分かったくらいだ」
「そうですか」
会話を終えた二人は、それ以上話すことはなく無言のまま目的地まで歩き続ける。
次第に街の雰囲気とはかけ離れた場所へと訪れたロンドは、彼女の後ろをついていきながらその風景に目を当てていた。
辺りは建物から一変して鬱蒼と生い茂る木々が点在する森林となり、昼間だというのにその場所は一切人の気配など全く感じられず、殺風景な景色が閑散としていた。
そうして辺りの空気の不気味さを覚えていたロンドに、前を歩くアルマリアが声を出した。
「ここです」
彼女の声に少しだけ驚きつつも、アルマリアが指し示す指の方角に目をやった。
遠目からではまだ正確に把握することは困難であったため、二人は更に近づいてその全貌を明らかなものにした。
やがて、辿り着いたロンドの前に、確かに人が通れそうなほどの大きさ穴が存在していた。
二人が行った先にあったのは、いかにもという不気味な感じを漂わせたトンネルが存在感を放っていた。
ただならぬ気配を宿した怪しげなそのトンネルに、
「なるほどな。ここが姉ちゃんの言ってた場所か……確かに何かありそうだな……」
と、顎に手を置いて言った。
「えぇ……。情報源の方が話していた場所です。今のところ不審な人物は見当たらないようですね」
「そのようだな」
二人は互いに左右を見やりながら辺りを見渡した。
自分達以外人だけがまるで感じられない。
「このままここで待機します。彼から連絡が来た際に行動に移します」
「はいよ。張り込みでも始めますか」
アルマリアの指示に従いじっとその時が来るまで待つことにした。
無音状態が延々と続くかのように。
退屈な時間が流れて行く。
恐怖へと誘うような異様な静けさが木々の隙間を抜けて辺りに立ち込める。




