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砂埃が立ち込める。

嵐のように吹き荒れる暴風が逆巻く。


その中に存在感を現した荒廃した街並みが風の力によって少しずつ崩れ落ちていく。


時間の経過を大いに感じさせてくれる街。

その光景に思わずその場にいた全員が圧倒される。


吹く度に強くなっていく強い風が自身に襲い掛かってくる。

アリアは時折風によって靡かれる髪を手で抑えて懸命に前に進んでいった。


辺り全体に砂が敷き詰められた光景が広がった。

足元を覆い尽くさんばかりの砂に足を取られる。


その重くなった足を必死に踏みしめる。


足腰にくる負担を少しでも減らそうと前かがみになりながらも足音を立たせていった。


足跡が砂に痕跡として残る。

しかし、吹き荒れる風によって痕跡は影も形もなくなり、すぐさまその上を隠滅されるように砂によって掻き消されてしまう。


巻き荒れる砂が目に入ってやられないように目元全てを覆い隠したゴーグルを装着していた。


ゴーグルが風でずれないようにするために手を当てて、隙間が出来ないように逐一確認しつつ歩き続けて行った。


風に巻き荒れる砂と言えど、暴風の力を頼ればそこそこの威力を備えている。

音を立てて自身の体にぶつかってくる個数は相当のものだ。


深めに被ったフードで頭部に刺激を与えないように防御している。


しかし、四方を囲むように吹荒れる風は簡単にフードの防御を看破してこようとする。

油断すれば、脅威の如く頭に被ったフードの中に風が入り込む。


激しい音を鳴らして制御出来ないくらい暴れ回る姿は暴れ牛を想像させる。


次第に風が巻き上がり、勢いを増していく。


気を休めてしまえば、自身の体が浮いてしまうのではないかとさえ思ってしまう勢いだ。


荒れ狂う風に吹き飛ばされないように地に足を踏ん張り、しっかりと砂場に足跡を刻んでいく。


荒廃とした土地で不気味に動く人影。


砂に足を取られながらも、その影は懸命に歩みを進めていく。

その内の一人。


小柄な少女がフードを深く被って顔を出さないようにしている。


口に砂が入らないように手で口元を抑えながら、必死に前へと進んでいく。


砂が絡みついた足は重いが、進めない程じゃない。


少女はゆったりとした足取りでその歩を確かなものにしていった。


吐く息が次第に多くなり、呼吸する時間は次第に早くなる。


砂による影響で体力を奪われていく。

だが、彼女は決して足を止めなかった。


何故なら―――足を止めたら最後。

二度とここから出られなくなるのではと。


恐怖にも似た感覚に襲われてしまう。

そう錯覚して少女は、極限の集中状態へと陥る。


ふと、地面を見ると、下は砂が一面に敷き詰められていた。


その砂の中には建物の一部に使われていたコンクリート片があった。


顔を上げれば、彼女の視界の先には楽園にも似た緑が生い茂っている。


その緑の先にはとある街がある。


その街にはかつて人がいた。

何千もの人で賑わっていた街。


栄えていた街だった。

人の笑い声が絶えない活気ある街。


綺麗で、麗しくて、清らかな繁栄のある街並み。

老若男女がそこにいた。


楽しく、賑やかで、晴れやかな栄えていた街並み。

だが――――その街は、今はもう見る影もなかった。


少女は思う。


きっとこの時代に生まれてこなければ、こんな思いをしなかったのではないのかと。


いや、遅かれ早かれこうなっていたのかもしれない。

少女は思う。


こんな時代だからこそ。

自分は立ち上がったのではないのかと。


そうして思い続けていると、少女の後ろから音が聞こえた。


振り返れば、自分の後ろをぴったりと歩くように付いてくる男女がいた。


一人はメイド服に身を纏い、涼しい顔で手を前に組みながら歩いている淑女。


もう一方は無表情を保ちつついつものように告げてくる文句を珍しく一つも言わずに付いてくる燕尾服を着た男がいた。


こちらの視線に気が付いた二人は互いに距離を作り、少女を挟むようにして歩いていた。


何のつもりかは知らないが……。

彼らなりにアリアを守る形を取っているのだろう。


確かに少女一人で歩くよりは少しばかり風避けがあった方が楽になるのだが……。

そんな気は持ってほしくないと思うのがアリアの胸の内である。


(それにしても……)


アリアはちらりと左右を見る。

本来なら二人ともこの程度の風くらいものではないので、大抵会話で繋いでくれているのだが―――


「「………………………………………」」


今回は会話が全くない。

砂が入らないように口を閉じているなどの理由があれば、アリアとしても気が晴れるというものだ。


先程から黙りっぱなしの二人に居心地の悪さを覚えながら彼女は歩く。

と、ここでようやくアリアが待っていたことが起こる。


「お嬢様。歩きずらくは無いですか?」


唐突に開かれたアルマリアからの言葉に、


「大丈夫よ。心配ありがとうアルマリア」


と、力強い言葉で返す。

心配してくれたアルマリアに感謝しつつ、空気が和らいだことを確認する。


ユースティスも余裕が出て来たのか。

逐一辺りを確認しながら、前に進むくらいの行動をして見せた。


これでいつも通りの常が戻ってきたと思ったが、


「お嬢様。お疲れではないですか?」

「疲れてないわ」

「お嬢様。足元はお辛くないですか?」

「このくらいの砂何ともないよ」

「お嬢様。そろそろ休憩を取りましょうか?」

「ちょっとアルマリア‼さっきから心配し過ぎだよッ‼」


問答の繰り返しで苛立ちを覚えたお嬢様と呼ばれたアリアがアルマリアに向き直りながら言った。


「ですが……、お嬢様の生命管理もメイドである私の役目ですし―――」

「だ・か・ら‼私はもうお嬢様じゃないって何度も言っているでしょう‼」


メイドであるアルマリアからお嬢様という単語が仕切りなしに飛んでくる。


慣れ親しんだ敬称も今は無き表現だ。

何分全身が痒い気分になる。


何しろ自分がお嬢様と呼ばれるにふさわしかった暮らしをしていたのは随分昔のことだ。


それこそ人々がまだ無人に襲われる前の穏やかだった頃の話になる―――。



♦︎♢♦︎

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