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煌びやかに光り輝いたガラス張りの格子窓。


そこにベッタリと両手を貼り付けて顔を覗かせている一人の少女がいた。


彼女がいる場所は、数々の宝石などで彩られた色鮮やかな店舗が映える店の外ーーー。


店の名前はピュア・ライズ。


太陽のように光り輝く純真さを宝石が有していることからその名を意味する。


だが、少女には名前の意味合いはよく分からない。


分からないが、とてもお洒落な店であることに変わりはないと内心思っていた。


少女は真剣な眼差しで格子の向こう側にある光り輝く宝石達を覗いて溜息を吐く。


宝石を見つめる彼女は、その表情を暗くして低く唸り続けていた。


「う〜ん……」


真剣な眼差しで宝石を見つめる瞳が光りさんざめく。


彼女の明るい眼差しが、宝石の輝きすら飲み干さんとしていた。


窓に張り付く不思議な少女を店の前を通る通行人が、思わず我が目を疑いながら、彼女を視界で追いつつ去っていく。


彼らは少女を訝しげな瞳で見つめる。


その常軌を逸した数奇な行動に出ている彼女に誰もが目を合わせんようにと、通行人達は目線を逸らして彼女を視界に入れないようにしていた。


そんな店の前を通る彼らの服には、何やら証明の証を見せびらかす為の紋章らしき模様が付いたバッチのような物が添え付けられていた。


そう。

彼らこそーーー受け継いだ意志を守り抜く者達。


コード持ちと呼ばれる人達だった。


後ろを通り過ぎていく彼らは、異質な少女がいることに驚いているのか。


全員が彼女を避けるようにして歩いていた。


だが、彼らが見ている少女もまた、そんな彼らと同じ紋章の入ったバッチを服に付けていた。


つまり、それは証明の証を身に纏った人物。

ここにも一人。


意志を受け継ぐ者がいた。


ひらひらのレースに豪華な装飾品を身に纏った少女。

銀髪の髪を翻し、華奢な体が特徴的な小柄さ。


銀色の髪には、邪魔にならないように束ねた前髪を抑える為に使うピン止めを二つほど髪に留めている。


格子の窓に体を当てている少女ーーー


ナカガミ・アリアもまた、受け継ぐ意志を持ったコード持ちの一人だった。


「悩むな〜……」


そんな彼女が店の前でポツリと呟いた。


ピンク色が鮮やかに照らされるピン留めを格子窓に当てながら、アリアは周りの目など気にする素振りすら見せずに、更に前のめりになり体を突き出す。


アリアが今いる場所は誰もが目の前を通れば、その店舗に置いてある物に目を輝かせるであろう宝石店だった。


自らの体に身に付け、自身の輝きをより一層増すことの出来る代物だ。


今じゃ滅多に見ることが出来なくなってきた高価な宝石類の数々。


それを見る度に、アリアは思わず口からヨダレが溢れ出してしまいそうになる。


彼女は宝石を見るのが好きだった。


あの光輝く石を見ているだけで、目に潤いを与えてくれる気分になる。


故に宝石店ともなれば、食いつかない理由が思いつかなほどに好きなのである。


赤や青、緑に黒といった艶やかな色合いを含んだ親指サイズの石の塊。


様々な色が太陽の反射によって虹彩を伴い、元より光り輝いていた物が倍増して煌びやかに光を放つ。


その店を前にアリアは貼り付けていた手を離すと、体の前で腕を組みながら店の前に佇み、それらの装飾品を舐め廻すように見つめ立っていた。


先程より鋭く瞳を輝かせた彼女は自身の素顔がバレないようにする為か。


頭がすっぽりと収まるくらい大きな帽子を深く被り顔を覆っていた。


今更ながら自身の行動を思い出しても、例え顔がバレなくてもその異常な行動は誰の目にも不審者の如く近寄りがたい雰囲気を醸し出していたに違いない。


しかし、何故ーーー彼女がこんな格好をしているのか。


身バレをするのを防ぐ為か。


それとも店の前を食い入るように見つめている姿を極力見られたくないからなのだろうか。


どちらにしろ周りを歩く通行人には分からない。

その真相は当の本人しか知る由もないのだから。


そうしてしばしの時間が経過する。

彼女はしばらく店の前を占領していた。


そう深く見つめる彼女の後ろを多種多様な人間が不信気な表情で通り過ぎていく。


傍から見れば、完全に店の前をたむろしている怪しい人認定されてしまうだろうが、そんなこと知ったことではない。


他人に自分の自由を邪魔されること自体がおかしな話なのだ。


仮に自身に声を掛けてくるようなものがいようならば、論破して見せよう。


そのままアリアは店の前に展示してあった商品を物欲しそうに見つめていた。


何度もよだれが出そうになる口元を手で抑えて、食いつくばかりに再び前のめりで羨望していた。


彼女は既に目星の商品に目をつけていた。

手前にある商品が欲しいと彼女は思う。


彼女が見つめている先にあったのは、赤色に光り輝くルビーの指輪。


その美しさに一目見た瞬間―――身体中を電気が走ったみたいな衝撃が襲って来た。


恐らく直感的なもの。

本能があの赤い石を欲しいと感じたのだろう。


未だに口元を抑えて見つめている。


喉から手が出るほど欲しいのだが……

アリアはちらりと石の近くに置いてある値段が張ってある紙を見た。


そこには数字が沢山書いてあった。

その値段を見て、アリアは低く唸る。


値札の数字を見て露骨に肩を落とす。

およそ今の自分では決して手に届かない値段だ。


しかし、欲しいのもまた事実。


何とかして手に入らないかと自身が考えうる全ての方法を模索し長考しているとーーー


「……」


不意に集中しているアリアの背後から何者かの気配を感じ取った。


だが、こちらに声を掛けてくる様子は今のところ感じられない。


一体誰が……。

皆目見当もつかないので、取り敢えず行動に移す。


警戒しつつ気配がする方を振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。


彼女は白と黒の色を組み合わせたエプロンドレスに身を包み、フリルの入ったスカートを足元まで覆っていた。


その見覚えのある姿にアリアは唾を飲み込む。


彼女は両手を前に組み、こちらを見つめて言ってくる。


「お嬢様。公衆の面前なのですから……。そんな食い気味に見ていては、はしたないですよ。貴女は立派な淑女なんですから。じっかりとご自覚をお持ちになって下さい」


女性特有の耳朶をくすぐるお淑やかな声が脳に浸透し、耳を透き通る。


すんなりと入ってくる優しい口調と声色で諭してくる。


「そうだな……。宝石店の窓に張り付いて食い付く姿はとてもお嬢様とは思えないな。淑女とも言い難い。見るに耐えんな……」


次に聞こえて来たのは、男性の野太く低い声。

その声は彼女の後ろから聞こえてきた。


蔑むかのような言葉がアリアの耳に飛び込んでくる。

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