15章 衝動
いつものように無人が現れたと偵察を行なっていた者から報告が上がり、市街地付近に現れた無人を倒すべくアルトは仲間を引き連れて討伐に向かおうとしていた。
無人と戦う前に入念な対策を練って出発の準備をする。
何処に現れたのか。
何体出たのか。
何が必要なのかを瞬時に見極め、全員が行動に移す。
集めた情報を全員で共有して、それぞれの仕事と役割を担う。
万全の準備で挑むのが、アルト達のセオリー。
「その日も然りなしに無人が現れ、息子が討伐部隊を引き連れて倒しに行こうとしていました」
いつも通りの装備といつも通りのメンバー。
何一つ不備なんてものはない。
しかし、唯一違和感を覚えたと言えば、その日は雲行きが怪しくなっていたということだった。
その地域では晴れた日の多かった毎日でしたから。
たまに振る雨もいいものだと思っていた。
もちろんリースも連れて行かせたので、何も心配はいらず安心していた。
しかし、その安堵が良くなかった。
タイミングが悪かったと言えばいいのでしょうか。
「私の息子はコード持ちの中でも強い部類に入る方でした。今思えば、アルトの姿を追いかけたリースを止めてあげれば良かったと思っております。息子の姿に憧れさえしなければ、あの子は無理をしなかったでしょう」
「後悔しているの……?」
「ええ。息子はーーーアルトは先走って無人を倒そうとしたリースを庇って亡くなりました」
「そういうことか」
ユースティスが納得したように頷いた。
「彼女はその責任感からか。あの子は無謀にも無人に一人で立ち向かうようになりました。いくつかあなた方と同じような意見は頂きましたが、何分あの子が承諾しないもので……」
「何があったというのですか?」
その答えを知るためにアルマリアが問いただす。
振られたカルーラは、重たい口をゆっくりと開いた。
「あれはーーー」
★☆★
「うっし!今日も無人を倒すぞ!」
「アルトは本当に無人を倒す時だけは格好よく見えるよね」
「おいおいリース。そりゃ酷くねぇか?普段から格好いいだろ?」
何気ないやり取り。
だが、アルトは知る由もなかった。
彼女の頬が赤めいていることに。
その様子に気が付いているのは、周りにいる男共だけだ。
彼女と同じような少女はここにはいない。
リースはそこら辺のコード持ちとは違って肝が座っていた。
他の男共が見ても彼女は一際の迷いない強さを持っていた。
無人を見ても身震い一つせず立ち向かう姿。
見ている男側の方が惚れてしまうような姿がそこにはあった。
「お前ら!今日も無人を討伐していくぞ!」
『任せとけ!』
『お前こそ手ぇ抜くなよ!』
『誰に言ってんだ⁉俺だぞ俺!』
その言葉に笑いが起こる。
「お前らなぁ……」
「ふふっ……」
「なっ⁉リースまで笑いやがって……」
和気藹々とした様子が広がる。
だが、彼らは決して気が緩んでいるわけではない。
むしろ緊張感を和らげることで、いざという戦闘の時にすぐさま体を動けるようにするためだ。
楽しい会話は一転して目的地に辿り着けば、空気の変化を与える。
偵察に向かっていた仲間の一人が静かに接近するよう促してくる。
『アルトこっち来い』
「様子はどうだ?」
誘導されつつ、アルトを含めた数名が木陰に隠れる。
『見てみれば分かる』
そう言って、彼は無人がいる方向に指を向けた。
その指に合わせて視線を向ける。
「さて、今日の敵さんは……」
「目の前にいるあれね」
アルトの隣からリースの声が聞こえてきた。
彼女も同じ方向を見ている。
その視線の先にはこちらの思考では読み取ることが出来ない動きをした無人が数体いた。
「四体か……。予想以上に少ないな」
「偵察の人の報告通りなのに?」
「いや……、まぁ、そうなんだがな」
僅かに覚えた違和感を拭い取る様にアルトは告げる。




