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★☆★



それはまだリースが幼い頃の話―――

幼少期の頃のリースは、とても無邪気で誰とでも仲良くなるといったように今とは正反対の性格をしていた。


そんな彼女がいるのは、無人指定区域外という無人の脅威が最も高い危険区域に位置する厄災市街地と呼ばれる場所だった。


そこは決して安全とは言えない場所に構えられていた。


無人の無法地帯の間近に存在する市街地にリースは足を運んでいた。

では、なぜ彼女はこの場所にいることが出来るのか。


その答えは彼女がいる場所は、安全とは言えない環境故に無人を討伐出来る人間が多数存在しているということだ。


それにより例え幼子であってもその場所に出入りすることが出来るということだ。


危険区であると知りながら、その恐怖を未だ知らない彼女の瞳はキラキラとしていた。


瞳がキラキラしているのには理由があった。

彼女には憧れ慕うべき人間がいた。


少女が憧れるにはあまりにも筋違いな、見当違いな人間ではあった。


しかし、同時に少女ですら憧れるカリスマ力を持ったその人物は―――相当の人間であったということだ。


その人物の名は―――


「ねぇねぇ!おじさん!」


それは珍しく晴れた日の朝。

空に照り付ける太陽は燦々と煌き、市街地を太陽の輝きが襲う。


その暑さにやられないように水撒きをする人間がいる。

他にもこの暑さの中で鍛錬する者もいた。


暑さにも負けず刀を振るい続ける姿は感嘆を覚える。

だが、リースはそれらに一切見向きもしない。


彼女の目的は一つ。

その日、リースはある人物に会うべくカルーラと共に市街地へと足を運んでいた。


元気な少女の声が一人の巨躯な男の背後から聞こえてくる。


「おう⁉なんだリース!来てたのか‼」


男はリースに気が付くと、その小さな体を軽々と持ち上げて抱っこする。

まるで、我が子のように高い高いをする。


「あっははは!」


その高い高いにリースは喜ぶ。

男が来ただけでその顔は更に喜びを表す。


頭にタオルを巻いてタンクトップに身を包んだガタイのいい男。

その男がしばらくリースを高い高いしていると、


「こらっ。リースちゃんが危ないだろう。止めるんだアルト」


と、注意を入れる者がいた。

男よりも年の老いた老人がそう告げる。


「おぉ!親父。今日も無人を狩ってきたぜ!」

「全く……、相変わらず無茶しおって」

「へへ、そう言うなって」


その男は無邪気に笑う。

今にして思えば、笑顔を見たのはあれで最後だったな―――。


「あの子はきっと憧れていたのでしょうな。少女が憧れるには少々大き過ぎましたがね」

「もしかして……」

「えぇ、もう一人いたのですよ。私達を守ってくれるコード持ちが……。リースが一人で無人を狩るようになったのは、恐らくそいつが原因でしょうな」

「それで……その人って?」


リースが憧れた人物。

その正体が気になったアリアが聞く。


カルーラはややあって重い口を開いて答えた。


「……私の息子のアルトです」

「―――ッ」


その言葉を聞いた瞬間―――アリアの全身が凍て付くようだった。


「やはりな……」


だが、隣で話を聞いていたユースティスは話の内容を聞いて一人納得していた。

聞こえてきた彼の言葉にアリアは問う。


「やはりなって……気付いていたの?」

「あぁ、薄々はだがな……」

「アルトの背中を必死に追っていたリースに私は何も言えませんでしたな……。何しろ彼女の瞳はあまりにも眩し過ぎたのですから……彼女がやりたいことをやらせるのが親の代わりの務めだと思っておりました。それが間違いだったということに気付かずにですが……」


それからというものリースは日に日に体も大きくなり見違えるように成長していった。

次第にコード持ちとしての素質が分かると、アルトと一緒に無人討伐に出かけることが多くなっていった。


だが、それは決して悪い事ではなかった。

何しろアルトは他のコード持ち達と比べれば強い部類に当たっていた。


彼の背中を見て育つにはちょうどいいと思ってました。

強い人を見て成長するのは、リースにとても影響を与える。


彼女の生活は無人が現れては倒しての繰り返しに変わっていった。

しかし、普通と苦痛ではなく、むしろ生き生きとした表情で毎日討伐に行っていく。


「無人に対して恐怖を感じていなかったということか?」

「それが当たり前の日々でしたからな」

「素直に褒められたものではないな」

「……」


その後、リースはみるみる力をつけていきました。

それこそアルトに続く強さにまで辿り着こうとしていた。


そうして、アルトの背中に追いつこうと数年の歳月が過ぎました。


一人前のコード持ちとして無人を討伐していくリースに私は感動を覚えました。


娘のように見てきたリースが立派に活躍している姿に喜ばない親はいないでしょう。


これなら当分は大丈夫だと―――そう鷹を括っていました。

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