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アルマリアは考える素振りを見たユースティスが彼女に向かって言う。
「やめておけ。時間の無駄だ」
彼に諭されてアルマリアは奇しくも彼の考えに賛同した。
「それもそうですね。まずは、情報を得るためにここの住人達。街の人に話しでも聞きましょうか」
アルマリアがちらりと横目で見れば、視線の先には街行く人達がいた。
老若男女の人々がそれぞれの目的地に出向きながら、全員が活気ある表情で歩いていた。
「取り敢えず、声をかけてみましょうか」
そういうとアルマリアは、徐に歩いていた人に話しかけようとする。
「おいーーー」
彼女の行動を阻止しようと、ユースティスが止めに入るが既に遅かった。
残念ながら彼の声は届かず。
アルマリアは真っ直ぐ進んでいくと、目の前を歩いていた女性の肩に手を乗せて声を掛ける。
「すみません。ちょっとお話よろしいですか?」
声を掛けられた女性がこちらの存在に気が付いてアルマリアの方を振り向いた。
振り返る最中で女性の目がすっと細くなるのをユースティスは見逃さなかった。
正面を向き直った二人がしばらく無言になる。
女性がアルマリアをじっと見つめている。
その目から伝わってくる。
彼女の疑心暗鬼の表情が手に取るように分かった。
しかし、そんなことで動じるアルマリアでもなく、躊躇なく話しかけようと口を開こうとする。
だが、アルマリアが話しかけようとした途端ーーー女性は何も喋ることなく、こちらから視線を切ってそのまま何処かに去ってしまう。
「……?」
無視されたアルマリアはキョトンとした顔でアリア達の方を見た。
単に女性が忙しかっただったのかもしれないと思ったアルマリアは、再度目の前を歩いてくる人に話しかける。
今度は街で商売をしようとしている男性に声を掛ける。
「すみません、ちょっと宜しいですか?」
先程の女性のように声を掛けて反応を見る。
だが、結果は変わらず。
こちらに気付きはするが、無反応で軽くあしらわれてしまう。
他の通行人にも同様に話しかけようとしたのだが、誰に話しかけてもアルマリアは無視されるばかりである。
話しかけることが無意味と悟ったアルマリアが、観念してこちらへと戻って来た。
「これは一体どういうことでしょうか?」
そんな彼女の姿を見たユースティスが「ほら見ろ」と、言わんばかりの表情で彼女を見る。
次いで首を横に振って口を開いた。
「人の話は最後まで聴くものだ。俺は止めろと伝えようとしたが、貴様が聞かずにそのまま行った結果がこれだということが身に沁みたはずだ」
「お嬢様。彼の頸椎を狙ってもいいですか?」
「もう少し粘って……」
「暴力は何も生まないぞ。そもそも貴様の知識には入っていないのか?他の街は余所者を嫌う習性があるんだ。加えてこの街は厄介だ。何しろ安全な街であることが明確に現れている。唯一無人に狙われていないことが災いを呼んだな。余所者を完全に無視することで関わりを持たない関係を保つというのが根付いているのだろう。貴様が無視されたのは、恐らくそういったところが関係しているだろうな」
彼らはこう考える。
余所者をこの街に入れること自体はさしたる問題ではないと。
しかし、関わることで何らかしらの影響を受けて無人に襲われるのではないのかと。
だが、見た感じホルノマリン街と言えど、他街との交友無しにやっていけるほど大きな街ではない。
余所者を嫌うが、余所者を頼らなければ、循環していけない小街。
他の街との協力がなければホルノ街といえど食糧不足などが祟り、街としての形成を成り立たなくさせてしまう。
故に彼らは、余所者を受け入れることで少しでも生活の足しにしようと考えた結果、今のような受け入れはするけど深い関わりは持たないという体制が出来たのだ。
「難儀ですね。この街も……」
とても難しいことをしているとアルマリアは思った。
他の街との深い交流をしないことで無人に襲われないとは限らないのに。
だが、彼らの気持ちも少しは分からなくもなかった。
確かに他の街に行けば恐らく大量の無人がいる。
その街は無人と戦いながら必死に拙い生活を送っているだろう。
この街はその無人に襲われていない分、生活には十分満足していると言えるだろう。
しかし、それだけ食料の不足は大いに早い。
何せ他の街は人は減るが、食料の確保は大分出来るはずだ。
他の街と比べると、ホルノ街は人口が減らない分食料の確保が人一倍多くなければならなくなる。
外の街に頼ろうにも彼らは無人との戦闘で食料の確保もままならない。
自分達の食料だけで十分な彼らと、対等にやっていくには、自分達の食料を与える代わりに無いものを他の街から供給してもらうというものだ。
そうすることで、需要と供給のやり取りを上手くやっているということだ。
唯一の得と言えば、無人に襲われていないということだけ。
いつ失われるかも分からない食料の延命治療に耐えながら彼らは今日も今日とて生きるのだと。
アルマリアがそう思っていると、ふとアルマリアの足元に小さな女の子がやって来た。
彼女は自分の二倍以上はある背丈のアルマリアに顔を向けた。
不思議そうな顔でこちらを見てくる彼女に、アルマリアは首を傾げて応じる。
きっと彼女も他の人同様にこちらの存在には気にかけているものの深い関わりを持つなと言われているのだろう。
こんな幼児でもかとアルマリアは思った。
そうして軽く無視しようとかと考えていると、驚くことに耳を疑う出来事が起きた。
「あんた達余所者?」
何と、彼女の方から声を掛けてきた。
三人は驚きのあまり声が出ない。
何せユースティスから聞いていたことが早速覆ったのだ。
深い関わりを持つなという言伝を守らない少女がいたことに、ユースティスは驚愕する。
アルマリアの方を向き問いかけて来た少女は、こちらに鋭い睨みを利かせて圧をかけて来た。
「そうですよ。マイヤーポルノという街から来ました」
「そんな遠くから来たの?随分と長旅。大変だね」
少女はさも分かったような口振りで言った。
どうやら、ある程度の地形は理解しているようだ。
下手をすれば自分より知っているのではないかと。
内心ヒヤヒヤしながらアリアは、彼女を見つめて恐る恐る言う。
「貴女……、私たちと喋っても大丈夫なの?」
そう口を開いたアリアの考えは正しかったと言えるだろう。
何せ他の街との関わりを嫌うホルノマリン街に住まう少女が、余所者と話しているのだ。
こんなところを他の人に見られたら、彼女が一体何をされるか分かったもんじゃないはず。
しかし、目の前にいる少女はアリアの問いが可笑しかったのか。
ふんっと鼻を鳴らし笑顔を見せて答えた。
「平気だよ。あんた達と話したところで何が変わるわけでもない。大人達が幾ら関わりを持とうとしなくたって何も意味がない……そんな馬鹿みたいなことやったって無意味だってこと知ってるからさ」
淡々と連ねていく言葉の数々。
その言葉を聞いた三人は三度驚いた。
どうやら目の前にいる少女は、ここにいる誰よりも現状を分かっているようだ。
そうーーー。
この子の言う通り、例え他の街から来た者達と関わろうが関わらまいが。
何をどうやろうがーーー無人に襲われないとは限らないのだ。
それは無人がいなくなるまで永遠に証明出来ない。
難しい事柄だ。
だからこそ、この目の前にいる少女のような間違えないための選択が正しいと言える。
無意味なことをやったて時間の無駄。
なら、意味のあることをして時間を使うのが賢いやり方だ。
しかし、アルマリアやユースティスのように程度の年齢を過ぎた人間が至る領域なら分かるが……
目の前にいる少女はどう見ても十代半ばをいっているかどうかすら怪しい。
にも関わらず、少女は三人を驚かせる発言をした。
そのことに世界の広さをアリアは垣間見た気がした。
そんな世界の事柄を分かりきっている彼女が、こちらに深く干渉するようにして更に問い続ける。
「ねぇ、無人ってどんな奴なの?」
少女から溢れた問い。
そんな問いに、アルマリアとユースティスは戸惑うしかない。
何故なら目の前の少女がした問いは、あまりにも返答に困る内容のものだったからだ。
数年と自分達が過ごして来た中で無人など腐るほど見て来た。
悍ましい姿を忘れたことなど一度もなかった。
妬みや恨みが募るばかりの不快な形。
足が沢山あり、長く無機質な機械のような体は異様な雰囲気を伴っていた。
そんなこの世の物とは思えない代物を。
幾度となくこの世から抹消してやろうかと考えていた無人の存在を。
だが、目の前にいる彼女は無人を知らない。
それがどんな形なのか。
それはどんなものなのか。
何も知らない。
何も情報がない。
外の世界を知らない彼女だからこそ……知りたいのだと。
そう瞳で訴えているようだった。
貪欲なまでの……こちらを食らいつくさんばかりの瞳を向けて訴えてくる。
その表情からは、終ぞ無人の正体を知りたいと言ってくる。
「どんな奴……ですか?」
「そう、とても気になるのよね。あたし、今まで生きて来た中で一度も見たことがないからね。他の大人達は無人が現れたとかで騒いでいるみたいだけど、見たこともない相手にどうしろというのよ。困ったものだわ大人っていうのも。子供達に見せまいと必死みたいだけど……、そんなことしたら逆効果。子供の好奇心を煽るような真似、馬鹿みたいじゃない。だったら素直に見せればいいのに……」
「あれはーーー見るもんじゃないな」
つらつらと不満が出てくる少女に、ユースティスは頭で考えていた言葉がそのまま口から出て来た。
自分でも口に出したことに驚いた。
正直、自分という人間は他人に対してあまり干渉しないようにしているつもりだった。
忠告を聞かない奴はそのまま消えていく運命なのだからと。
そう思っていた。
だが、今回は違った。
目の前の少女をどうしてもほっといておくことが出来なかったのか。
口から出た言葉を飲み込むかのような体勢で口を覆うユースティスを、アリアは見つめた。
彼の言葉にピクリと少女が眉を動かした。
「見るつもりじゃないってどういうこと?それは、恐ろしいから見ないほうがいいってこと?じゃあ、貴方は何時迄もこの檻のような街から出るなって言いたいの?冗談じゃない。あたしは何時迄もここにいるつもりはない。こんな鳥籠みたいな場所じゃなくて、大空を羽ばたくように広い外に出たいんだ。外に出て色々な景色をこの目で確認して見てみたい」
少女はキラキラとした瞳で言う。
まだ何も知らない。
外の景色を見てないからこそ出来る純真無垢な目で。
そんな純粋なことを呟いた。
きっとこの世界を知る前の自分がしていた瞳なんだと……。
アリアは瞬時に理解してーーー。
その少女に感化されるように。
かつての自分も……そうであったようにして。
アリアが口にした。
「私も……同じ気持ちだったよ」
「本当‼︎あたしと同じ気持ちになるよねやっぱり‼︎じゃあ、外は一体どんなところなのッ⁉︎」
少女の言葉を聞いたアリアが突然表情を暗くさせる。
それを感じ取った少女もまた、暗い顔になった。
アリアはゆっくりと深呼吸すると、少女の瞳をじっと見つめて言った。
「ーーー地獄みたいなところだよ。ここみたいに人が住んでるのかも分からないような街が沢山ある。至る所に無人がいて、常に気を張り巡らせていないと彼らに食べられちゃうから……本当に大変なんだよ」
少女が息を呑んだのが分かった。
「生きていくのも馬鹿らしくなってくる。目の前で人が食われているのをただじっと見ていることしか出来ない……。無人はね、人を襲うのが好きみたいなの。それはなんでなのかまだ分かってないみたい。今日もきっとどこかで人が襲われている。私達がこうやってお話ししている最中にね……」
少女を諭すかのように、ゆっくりと確実に耳に残るような静かでドスの効いた声で言う。
まるで映像が目の前に現れてきそうな。
そんな雰囲気を醸し出して。
「これを聞いてもまだ、外に出て見たい?」
アリアは少女の瞳を覗き込み、試すように言った。




