序章:始まり(下)
目覚めると、空は黒く月が独特の光を放っていた。
「あ・・・れ?」
「起きたか、リン。」
「きじ?」
「大丈夫かよ、リン。」
「京子ちゃん?」
「どうやら大丈夫なようだな。」
京子ちゃんは、いつもの口調でしゃべる。そういえば、私は、どうして寝てたんだろう?そう考えながら、ぼーっとする。しかしそれも時間が経つにつれて頭が覚醒してくる。ネメアの獅子と戦って、京子ちゃんを逃がして・・・・あ!
「あれ?私なんで生きてるの?」
そうだ、私恐怖で途中で気絶しちゃったんだ。
「それは、祈祷が助けに入ったんだ。」
「え!」
そういえば、祈祷君が居ない。
「じゃあ、祈祷君は何処に?」
「奴ならリンの後ろにいる。」
「き、祈祷君?」
それを聞いて振る向くと、祈祷がかなりの傷があった。右手と右肩に包帯が巻いてあり、どちらも重症。あとは、頭、左足にも巻いてあるが大丈夫そうだ。でも、どうしてこんな事に・・・。
「俺と祈祷は、ライジと戦ってたんだ。」
キジが、焚き火の火を強めようと枝に火の中に入れる。私の顔を見て気遣ってくれたのだろうか?
「その中で、祈祷は足を怪我したんだ。『普通』なら、大丈夫だったんだがライジは、ネメアの獅子の力でかなりの力を増大させていたんだ。それで、祈祷は足にダメージを負ってしまったんだ。」
「・・・。」
「そこで俺は、祈祷に逃げてもらおうと、『巻物』を詠んでくるよういったんだ。その後は、」
俺は、数時間前のこと思い出し始めた。
「グアアア!!」
ライジが大分可笑しくなって来た。そうだな、『魔獣』に近づいてきたと言っても過言ではないだろう。
もう、人間とはいえない。それだけは、分かる。だけど、数十分前に出会ったとはいえ元人間だったのだ。心の中で大きな渦が出来ていることは把握できた。
「ライジ!目覚めろ!」
頭の中が真っ白になっていた。気付いたら、そんなことを叫んでいた。なぜ、叫んでいたが自分でも分からない。今のライジの姿と数十分前の姿が心の中で重なる。目を瞑りたくなるような事実。でも、目を背けてはいけない。前の頃のライジの意思が、違うからだ。俺は、覚悟を決めた。
「お前の心の中の敵を倒してやる!」
俺は、決闘の時に叫ぶように言い放ち、バックから愛用しているトンファーを取り出す。短いく、一見頼りないような刃物は今の俺の命を左右する剣だ。が、俺が構えた瞬間、ライジが頭を抱え、後ろに吹っ飛んだ。
「があああああ!!!」
ライジの悲鳴が、森に響き渡る。
「ぐああああ!!」
ライジは、地面にしがみ付きはじめた。
「げる・・・はぁ!」
ついには、訳の分からない言葉まで発しはじめた。どうしたんだろうか?
「グルル・・・浅はかな娘どもだ。我があの程度で死ぬとでも思ったか!」
どういうことだ?俺は、男・・・そうか!
「リン!」
俺は、気付けば俺は走っていた。勿論、ライジの時に集中力も判断力もかけてしまっていたかもしれない。でも、気付かぬうちに走っていた。俺は、まだまだ未熟だ、と感じながら・・・。しばらく無我夢中で走っていると、リンが倒れていた。理由は、まったく分からない。
「・・・。」
俺は、ただ呆然と何があったが状況把握ができず、ボロボロと涙をながしてしまった。
「くっそ・・・。」
ただ、その一言だけ呟いた。
「その後、京子が祈祷を背負ってここにきてこの状態だ。」
「私はね、『巻物』を詠みきった後にリンの場所に向かったんだ。」
京子は、いつもの口調でいつもどおりに答えた。
「だけど、祈祷が倒れてたんだ。その時には、傷だらけで血が止まらない状態だったんだ。」
「・・・。」
リンの目に生気は、見えなかった。
「多分だが、今の状態では祈祷に明日を生きられる力は見えない。」
俺は、無表情で答えた。
「そ、そんな・・・!」
リンは、この世が終わるような顔を見せた。
「今の状態では、だ。せめて、村さえ見つけられれば話は変わる。」
「じゃあ・・・!」
「この森のどこかに村があるはずだ。」
「え?でも、この森自他一日歩けば抜けられるほど小さいんじゃ?」
「それは、一番短い距離で森から抜けた時の話だ。もしも、ここの森を抜けても、小さな空港しかない。そんな所よりも村の方が助かる確率が確実に高い。」
国というまとまりがなくなった現代では、自分の身は自分で守るのが基本。そんな現代で、医療施設が無いという事は、消滅を意味する。
「30πキロメートルに一つの村があるという原則を元にして、俺らの街を原点とすると・・・。」
そういって、俺は地面に枝を使って円を書いている。
「でもって、この森は、歩きっぱなしで7時間程度で抜けられる。俺らの時速は、だいたい4キロほど。だから、一直線だけでも28キロは最低でもあることになる。で、この森は長方形になっているから・・・。」
「「・・・。」」
「円に入らない部分に村がある可能性が高い。」
「キジ、質問があるんだけど。」
「うん?なんだ?」
「なんで、30πキロに一つの村があるって断言できるの?」
「それはな、一日に村を行き来するにはもってこいの距離だからだ。」
「???」
なおも、頭にハテナマークのリン。
「いいか、30キロの間に村が出来てしまうと如何しても、お互いを干渉してしまうんだ。だから、一日ぐらいは歩いてかかる距離を置いているんだ。」
「でも、あるとは言い切れないじゃない。」
「普通は、そうなんだがな。残念なことにここは『森』だ。いわば、食材の宝庫。そこに人が集まらないなんて不自然だ。」
「でも、人がこの森にきてないかもしれないでしょ?『魔物』がいたわけだし。」
「『魔物』がいるからといって住む場所を選ぶとは思わない。」
「「・・・。」」
いつもの如く俺らは数分睨みあう。いつもいつも、何が気に入らないんだ?
「わかった、キジ。」
今回は、リンが折れたみたいだ。
「でもでも、夜動く事は、自殺行為なんだよ?」
「大丈夫、京子もいるし、それにお前だっている。大丈夫だろう。」
「・・・しかも、見つかるかわからないんだよ?」
「あると信じれば見つかる。」
「「・・・。」」
いつもの如く俺らは数分睨みあう。なんだか、既視感が・・・!
「わかった、キジ。」
「・・・。」
京が不思議そうだった。
「・・・さっきリンが言ったとおり夜動くのは自殺行為。気を鋭くし、集中していこう。」
「「おっー!」」
俺らの捜索が始まった。
夜の森は、予想以上に怖かった。ていうか、怖すぎる。道の中にまた未知な道。いつも通っている森には見えなかった。「怖っ!」って思い切り叫びたいのを我慢して進む。後ろの木々がガサガサっと音を出すたびに振り返ってしまう。キジの提案で、一列に並びながら進むことになった俺たちは、どうも寂しさと恐怖でいっぱいのようだ。やはり、祈祷がいないことで会話が全く弾まない。なんていうか、皆が皆、霊が見えているような恐怖がある。並ぶ順番は、京子、俺、そして祈祷を背負ったキジという順番だ。背後に備えて俺が風の膜をはった。この膜が破れたら、敵の接近が分かる手筈になっている。
「なあ、京子。」
「『なあ』じゃなくて『ねえ』でしょ、京子ちゃん。で、何?」
俺の相方は、なぜか俺の言い方をわざと直してきたが、日常茶飯事なので無視する。
「怖くない?」
「怖い。」
会話終了。どうすればいいか、教えてくれ。だいたい、キジも何か考えたような面しているから、とてもじゃないが話しかけられないし!そもそも、もう何時間か歩いているのに、何も見つからないってどういうことだ!
「・・・ここらで、一休みしよう。」
「ダメよ、キジ。ここで、休んだら助けられない。」
リンが珍しく緊張感のある声を出す。
「俺がすでにやばいんだ。」
そう言って、かなりぐったりしたような顔をする。確かに、やばそうだ。
「わかったわ。」
リンもしぶしぶ、OKした。俺らは、枯葉と木の枝を集め適当に火を起こす。すると、キジが口を開いた。
「リン、夜明けまで、あと3時間程度だ。もしかすると、タイムリミットに間に合わないかもしれない。」
「そんな・・・!」
「重症で、傷は縫って塞いだが、輸血が無い状態。そして、しっかりとした栄養分を与えられていない。このままでは、祈祷の体力でももたないかもしれない。今の状態を見て分かるように、顔が真っ青で、呼吸はしているものの、生きているのがやっとだ。正直、覚悟はしといた方がいいかもしれない。」
「・・・。」
「・・・。」
思った以上にヤバイ。これは、悪い冗談でもなさそうだ。このやばさ、どちらにしても助かる確率は、低い。
「・・・賭けに出てみるか。」
キジが、急にハッとしたようにいった。
「賭け?」
元々、これも賭けでは?
「今から、京子が、『風』を使って俺と祈祷を吹っ飛ばすんだ。」
「!!」
「そ、そんな事したらキジが死んじゃうかもしれないよ!」
「その時は、その時だ。」
「そんな・・・!」
すごい、キジは意外な顔をしていた。なんというか、依頼を成功させよう、と言う顔。そんな感じ。
「幸い、南西に『テンジースアイル』と言う街がある。そこに居たほうが生還する確率が高い。」
キジの目に迷いは無かった。『テンジースアイル』と言う街は、台湾地区の南西にある。商業の盛んな街で発展していて、とても巨大である。アジア最高峰の街で、台湾地区の半分は、その地域になっている。
「「わかった。」」
俺と、リンが同時に言った。その後、俺は爆発させるイメージを頭の中に叩き込む。
「準備完了。」
俺は、静かに冷静を装った。
「・・・いいか、リン、京子。俺らは、ここら一面から吹っ飛ばして、南に飛ばすんだ。そして、リンたちは、空港にすぐに向かえ。出来れば、オーストラリア地区の『レイトール』に向かって欲しい。」
『レイトール』は、小さい街だが近くにたくさんの空港を所持し、オーストラリア地区有数の場所となっている。
「じゃあね、キジ。」
「・・・ああ。」
「元気でな。」
「お前こそな。」
キジは、ベルトで祈祷を固定し、リンと俺はリンの土に固定された。
「破!!!」
俺は、精一杯の力で、キジたちを吹っ飛ばした。それに答えるように森が破壊され、木々が押し倒されていくのが感触で分かった。が、止められなかった。心の中のモヤモヤが、晴れずその憂さを払うために、破壊し続けた。
「京子ちゃん・・・?」
その時のリンの顔は鮮明に覚えている。びっくりしていたと言うよりも、訳の分からないという顔をしていた。
「・・・。」
俺は、終始無言だった。
「どうして・・・?」
リンは、俺に何をしたいのだろう?俺の顔を触ってきた。
「どうして、泣いているの?」
そうリンに問われて初めて分かった。涙が頬を伝っていたのだ。
「・・・。」
その瞬間、このモヤモヤの正体が分かった気がした。
――――この世はなぜ生まれたのだろう。
最初は、そう思った。でも、この世界に生まれて良かったと思った。誰かを救えるかもしれない力が自分の中にあったのだ。それだけで、よしとしようではないか。苦労?そんなものどうした?俺は、決めた。
精一杯、俺の仲間を救おうと。
精一杯、俺の仲間を大切にしようと。
精一杯、俺の仲間と生きようと。
そして、元気な姿で再開しよう!
また、四人で笑いながら・・・。
こんばんは、作者の封雷光です。
今回で、序章は終了です。次から、新章に入ります。
まあ、まだ次の章の構成は全く考えていないので、こまりましたが・・・。まあ、その場で考えますw(←オイ)さてと、次はキジとライジを基準にお話を進めていきたいと思います。