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第八話

「魔王ちゃあああん! 今お姉ちゃんが嗅ぐ……助けるからねぇ!」

「不穏なこと言ってんじゃねえ! ソラさん急げ! 魔王の貞操が危ない!」

「はっはい!」

 俺たちは宿を飛び出した魔王を追いかけ、夜の平原を駆け抜けていた。

「くそっ。にしても魔王はどこだ!? 暗くなってきて全然見えねえ!」

「私に任せろ! 魔王ちゃんの匂いは記憶している!」

「猟犬かよ!」

「いや、正確にはパンティの香りだがな!」

「前言撤回だ! こんなクソみたいな猟犬はいねえ!」

「くんくん……あれ!? 結構近くにいるぞ!?」

「マジかよ!」

「だずげでえええええ!」

「ワンワンっ! グルルルル!」

 声のした方向に顔を向けるとそこには子犬のようなモンスターにマントを噛まれて涙目になった魔王がいた。

「き、貴様ぁ! ウルフの分際で魔王に噛み付くなど、千年早いぞ! というか呪文詠唱させろ!」

「がぶっ」

「ぎゃー!?」

「こ、子犬に負けている」

「魔王ちゃんマジかわゆ」

 子犬に噛まれて完全に負けている魔王。ソラさんは急いで魔王へと駆け寄った。

「しっしっ!」

「キャインキャイン!」

「ソラはウルフを追っ払った。レベルがいちあがった」

「姉さん変なアナウンス入れないで!」

「うう。ごわがっだよぉ」

「よしよし。もう大丈夫ですよ」

 ソラさんは魔王を抱きしめ、その頭を撫でる。なんか親子か姉妹みたいだな。

「魔王ちゃんを抱きしめる我が妹。美しい光景だな姉弟」

「誰が姉弟だ! まあとにかく魔王が無事でよかったよ」

「ぐすっ。脆弱な人間どもめ、わしに恩を売れたことを喜ぶがいい」

「まだ何か言っている」

「パンティの刑に処す?」

「処すな! まあいいや、とりあえず宿に帰ろうぜ」

 俺は立てた親指で宿を指さしながら魔王へと提案した。が、魔王はその言葉を聞いた途端鬼のような形相に変わった。

「誰が貴様らと馴れ合うか! だいたい貴様のせいで我が魔力がカラになっているのだろうが!」

「と言いつつソラをぎゅっとする手は離さない魔王ちゃんであった」

「はっ!? ぶ、無礼者! 離さぬか!」

「あ……」

「無理に離れんなよ魔王。こえーんだろ?」

「ふん、何を馬鹿な。魔王を舐めるな」

「膝が笑ってんぞ」

「うっうるさいうるさい! さっさと帰れぜい弱な人間どもめ!」

「ウウウウウ……」

 なんか、唸り声が聞こえる。その声に誘われるまま魔王から視線を上げると、巨大なモンスターの影が見えた。

「ま、魔王。うしろ」

「馬鹿め。そんな手にひっかかるか」

 魔王はふふんと得意げな顔で両腕を組む。いやほんとにやばいんだけどな。

「おっきいブタさんかわいーい♪」

 変態はほっぺに両手を当てながらいやいやと体をくねらせた。どういう趣味してんだこいつ。

「ブタっていうか、これはオークってやつじゃないか。だいぶでかいな」

「パンティは履いてなさそうだ」

「いや二人とも冷静すぎません!? 魔王さんが危ないのに!」

「さっきから何を言って―――おわっ!?」

「オオオオオオオオオ!」

「ぎやあああああああ!?」

 ようやく背後の巨大オークに気付いた魔王は両手両足を総動員してソラさんに飛びついた。

「きゃっ!?」

「こ、こわ。こわわわわ」

「あらあら魔王ちゃんったらソラにくっついて震えちゃって。かわいーんだ♪」

「さっきからどういうキャラだよ鬱陶しいな! いいからお前らは下がってろ!」

 俺はみんなを下がらせ、オークの目の前に立つ。見上げたオークは先ほどよりずっと大きく、荒い鼻息が顔にかかる。やばいめっちゃこわい。

「グオオオオオオ!」

「ぎゃああああああ!?」

 オークが右手に持っていた棍棒を振り回し、俺は面白いくらい吹っ飛ばされる。その後もオークの執拗な攻撃は続いた。

「よし、そのままボコられてるんだコウちゃん! 隙を突いて私がパンティをかぶせる!」

「それに何の意味が!? ぐっはオークの棍棒痛え!」

「ど、どうしよう。なんとかしなきゃ……」

「借りを返すチャンスじゃ! わしの魔法で吹っ飛ばしてやる! 貴様は下がっていろ!」

「魔王さん!?」

 魔王はソラの前に出ると右手を突き出して呪文のようなものを唱え始めた。

「炎の神フレイダルよ、今、眼前の敵にその一撃を。”ファイアボゥル”!」

 呪文詠唱は終わったが、魔王の右手からはぷすぷすと煙が出るだけだった。

「あ、あれ? 煙が出ただけ?」

「炎を出すには魔力が足りぬ、じゃと。こんな初級魔法すら使えぬのか……」

 魔王はがっくりと膝を折るが、同時に俺も地面に四つん這いにさせられオークにケツを蹴られていた。

「ぐっはあああああ!? ケツ蹴んなケツ蹴んな!」

「安心しろコウちゃん! このオーク意外とパンティ似合うぞ!」

「パンツかぶせんな! オークさん余計怒ってるじゃねえか!」

「なんとか、しなきゃ。魔王さん、さっきの呪文で魔法が使えるんですよね」

「は? そうじゃが、素人が簡単に―――」

「炎の神フレイダルよ、今、眼前の敵にその一撃を。”ファイアボゥル”!」

「へっ?」

「「ほぎゃーっ!?」」

「グオオオオオオオッ!」

 突然やってきた爆炎に吹き飛ばされるオークと変態、そして俺。

 多くの木々を倒しながらふっ飛ばされた先では完全に気絶したオークが良い匂いを発しながら丸焦げになっていた。

「あ、あの巨大オークを一撃で吹っ飛ばした……だと」

「あっ!? ご、ごめんなさい! 二人も吹き飛ばしちゃった!」

 驚愕に体を震わせる魔王と、わたわたと両手を動かして焦るソラさん。

 俺と変態は木々をかきわけて二人の場所へと戻った。

「だ、大丈夫大丈夫。服は焦げたけど」

「私のパンティも無事だ。安心しろ」

「誰もお前のパンツは心配してねえ!」

「なぜしんぱいしないの?」

「こいつ。曇りのない目で……!」

「ま、まあとりあえず、宿に戻りましょう? ねっ?」

 ソラさんはぽんっと両手を合わせて宿への帰還を提案する。確かにそうだな、もう疲れたし休みてぇわ。

「お主、とんでもない魔法の才能があるな。歴代魔王を超えるぞ」

「ふっ。ソラは学年主席だからな」

「いや、そういう話じゃなくね?」

 ドヤ顔で腕を組む変態だったが、言ってることは微妙にズレている。学校の成績と魔法の才能は全く関係ないだろ。多分。

「……はぁ。もうよい。貴様らごときに反抗するのも馬鹿らしいわ」

「えっじゃあ……」

「とりあえず一緒に行ってやる。だが勘違いするな。魔王城に着いたら最初に貴様らを焼き殺す」

「わぁ! ありがとうございます!」

 胸元に手を当てて喜ぶソラさん。魔王はつまらなそうに口を一文字に結んでいた。そして変態もまた嬉しそうに飛び上がる。

「やったぁ! ついでにパンティください!」

「ついでのお願いがエグい! いいからさっさと行くぞ!」

「いやん。ゴムが伸びるゴムが伸びる」

 俺は変態のパンツを掴んでずるずると宿屋に引っ張っていく。こうでもしないと一生宿に帰れないからだ。

「……なんというか、貴様も大変じゃな」

「あ、あはは。とにかく行きましょうか」

 こうして俺たちは魔王という最弱の仲間を得て、ようやく宿へと戻っていくのだった。


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