第六話
宿での初めての食事の後、俺とソラさんは二人で皿を洗う。手伝わなくていいと言ったんだが、どうしても手伝いたいという。マジでいい人だ。
「水は普通に使えるし、これなら皿洗いもすぐ済みそうだな」
「よかったです。私にお手伝いできることがあれば何でも言ってくださいね」
「ソラさん、俺のこと怖がってなかったっけ?」
「はい。確かに最初は怖くて“絶対何人か殺してる”って思いました」
「ひどい!」
「でも、航太さんはさっきわたしを落ちてくる瓦礫から庇ってくれました」
にっこりと微笑むソラさん。俺は少しドギマギして手元の皿を落としそうになった。
「あ、あれはまあ当然っつーか。目の前で人が死にそうになってりゃ助けるもんだろ?」
「ふふっ……そうですね。でも、それができない人だってたくさんいます」
「まあそりゃ仕方ないつーか、そうかもしれんが」
「とにかく、ありがとうございます。航太さんのおかげでわたし、助かりました」
「お、おう。まあ気にすんな」
いかん、顔が熱い。てか恥ずかしい。
「航太さん、もしかしてお礼言われるのに慣れてないんですか?」
「なっ、う、うるせーな! いいからソラさんはそこのコップ洗ってくれよ!」
「はいっ」
「ふぅ……」
「…………」
「…………」
おかしい。なんか良い匂いがすると思ったら、ソラさんが妙に近い。洗い場はそれなりに広いはずなんだが。
「……あのーソラさん? なんか距離が近くねえか?」
「気のせいです」
「いや、肘当たってるし明らかに近―――」
「気のせいです」
「アッハイ」
「ふふっ」
ソラさんはどこか嬉しそうに笑いながら、手慣れた様子でコップを洗う。俺は熱くなる顔を隠すようにしながら手元の皿に集中しようとしたが、無理だった。
「いかん、なんか勘違いしそうだ」
「何をですか?」
「えっあっすまん。なんでもない」
「???」
「はぁ。調子狂うぜ」
こうしてソラさんと洗い物を済ませた俺は今後について話し合いをすべく、食卓に全員を集めた。