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第二十八話

 薄暗く石造りの無機質なその部屋は城の一番奥にあった。

 俺はモンスターの攻撃でボロボロになった体を引きずりながらその部屋の扉の前に立った。

「ここがバリアのスイッチがある部屋か。なんかこえーな」

「ちびる? ねえちびる?」

「ワクワクすんな! ちびんねぇよ!」

「しゅん」

「うっわ本気でがっかりしてるよこの人」

「よし。では扉を開けるぞ」

 魔王は扉に両手を乗せながら俺たちに確認する。俺は唾を飲み込んでから頷いた。

「何がよしなのかわからんが、とにかく行ってみるか」

「ドキドキしますね」

 ソラさんは胸元に手を当てて緊張した様子だ。俺も同じく緊張して魔王の挙動に注目していると、魔王はゆっくりと扉を開いて中に入った。

「ただいまー」

「ゆるっ」

「魔王よ。その言葉はゆるすぎる」

「しょ、しょうがないじゃろわしの部屋なんじゃから!」

 魔王は場違いな発言だったことに気付いたのか恥ずかしそうに両手を上下に振り回す。

 その時魔王の動きを遮るようにソラさんが「しーっ」と口元に指を置いた。

「何かうめき声が聞こえませんか?」

「おいおい、怖いこと言うなよソラさん」

「魔王ちゃんの部屋ってことはパンティあるかな」

「怖いこと言うなよぶっ飛ばすぞ」

「扱いの差がエグい!」

「静かに! 確かに誰か泣いているようじゃぞ」

 魔王の言葉を聞いて口を塞ぐと、確かになにかうめき声が聞こえる。

 マジかよ話にあった侵入者か? 殺されるの俺たち? めっちゃ怖いんですけど。

「っく。っく……」

 うめき声のする方にゆっくりと歩みを進める。大きな天蓋つきのベッドの陰でその声の主はうごめいていた。

「う、うっすら見えてきたな。ってええええ!?」

「その声……高凪!? 高凪か!?」

「先生!? こんなとこで何してんスか!」

 涙で濡れた黒髪とだるだるのジャージ。顔は涙でぐしゃぐしゃだが間違いない、先生だ。

「だがなぎぃいいいいいい! こわがっだよおおおおおお!」

「おわーっ! 鼻水が凄い鼻水が!」

 先生は俺に飛びついてきて、その拍子に大量の鼻水が俺の服につく。

 俺がなんとか先生を引き剥がすと変態が近づいてきた。

「大丈夫か先生。ほらこのパンティにちーんしな」

「ちーん」

「すんな!」

「というか先生。本当にどうしてここに?」

 ソラさんは困惑した様子で先生に問いかけ、俺も内心同じ質問をぶつけていた。

「っぐ。ひっく。が、学校の廊下からいきなりふっ飛ばされて、気づいたらこの部屋に突っ込んでたんだ」

「それは災難だったな……あの儀式に巻き込まれたのは俺たちだけじゃなかったのか」

「先生もこちらの世界に来ていたんですね」

「いやー奇遇奇遇」

「呑気か! それより先生、ここにはヤバイやつがいるらしいから気を付けたほうがいいぞ」

「ヤバイやつ? 高凪より?」

「ぐへー。俺よりヤバイやつだよ! バリアのスイッチを下ろして魔王城を乗っ取った奴だ!」

「あ、それは私だ」

「……は?」

 ちょっと待て。チョットマテ。なんか、何言ってるかわからない。

「ここに落下した拍子にな、なんかスイッチを下ろしちゃった」

「下ろしちゃったじゃねええええ! あんた何してくれてんの!?」

 魔王が追い出されたの先生のせいかよ! それでも先生か! いや先生は先生って名前だから先生は先生でどうでもいいわとにかくふざけんな!

「ま、まあまあ。先生もわざとじゃないですし」

「わ、わしはこんなのに城を乗っ取られたのか……」

 魔王は膝から崩れ落ち、四つん這いになって落ち込む。無理もない。

 変態はそんな魔王の肩を優しくぽんっと叩いた。

「そう落ち込むな魔王ちゃん。あと涙ください」

「なんかゆってる! いいからお前は黙ってろ!」

「沈黙は金。ちんちんの下も金」

「最低かよ! そこに正座してろ!」

「はい」

 言う事を聞いて正座して大人しくする変態。一時的でも言う事聞くのがこいつのいいところだな。聞かない方が多いけど。

「と、とりあえずバリアを外しましょう。えいっ」

「わぁ。凄くあっさりバリアが取れた」

 ソラさんのちょっと間抜けな掛け声と共にバリアのスイッチが上げられ周囲の禍々しい雰囲気が失われる。

 その様子に気付いているはずだが、魔王は四つん這いになったままだった。

「…………」

「よ、よかったなー魔王。城が戻ってきたぞ?」

「わあああん! こんな戻りかた嫌じゃ! しょぼすぎる!」

「贅沢言うんじゃありません! 戻っただけいいでしょうが!」

「わしは、わしは壮大なラストバトルを思い描いて、描いて……わぁぁぁんソラぁ!」

「ああ。よしよし」

 泣きながらソラさんに抱き着く魔王。結局そこに落ち着くんだな。

「しかしまあ、これで魔王の目的は達したな。あとは俺たちの目的だ」

「儀式道具、ですね。姉さん、どの辺に落ちたか覚えてない?」

「覚えてない」

「そこは覚えといてくれよ……」

「覚えてないが、ある場所ならわかるぞ」

「そうそう。ある場所ならわか……はぁぁ!?」

「先生の後ろに思い切り落ちてる」

「えっ!? あ、ほんとだ!」

 先生の背後にはチョークやら怪しい本やらの儀式道具が落ちている。マジかよ魔王城にあったのか。

「え? てことは俺たち帰れるの?」

「そうなるな」

 あっけなく頷く変態。いやあっけなさすぎるわアホ。俺ぽかんとしちゃったじゃねえか。

「えっ……帰る、のか?」

「魔王さん……」

 魔王は少し驚いた様子で目を見開く。別れが来るのはわかっていたが、ここまで早いとは思っていなかったんだろう。俺だってそうだ。

「魔王……寂しいのか?」

「そっそんなわけなかろう! さっさと帰るがいい!」

 魔王はばたばたと暴れてソラさんの手から逃れると、腕を組んでそっぽを向く。まあ、そうだよな。

「素直じゃないにゃあ。たべたい」

「台無しだよ! いいからお前は儀式の準備しろ!」

 変態の一言で台無しになった雰囲気を抱えて指示を出す俺。変態はぶーぶー言いながら儀式道具へと近づいていった。

「魔王さん。私魔王さんと旅ができて楽しかったです」

 ソラさんは魔王と視線の高さを合わせ、涙をこらえる。

 そんなソラさんの様子を横目で見た魔王は相変わらず視線を外したままだ。

「ソラ……わしも、その、悪くなかった」

「素直じゃねえなぁ」

「う、うるさいうるさい! 貴様は顔面をどうにかしろ!」

「ひどくね!?」

 最後までひでぇ。まあ俺たちにはこのくらいのノリがいいのかもな。

「準備できたぞー」

「おう! ほら先生、帰りますよ」

「ううっ。ごわがっだよぉ」

「よしよし。ほら立って」

 俺はどうにか先生を立たせ、魔法陣の中央へと連れていく。

 俺たち全員が魔法陣に乗ったことを確認すると、ソラさんはぱたぱたと魔王に手を振った。

「じゃあ、魔王さん。お元気で」

「…………」

 魔王はそっぽを向いたまま反応しない。そしてあの地獄のような儀式が始まった。

「ではいくぞ! はぁーっ! オラのパンティはよぉーっ! ゴムが伸びちまってよぉ〜!」

「ハイッ! ハイッ!」

「レースが食べてぇずるずるっといきてぇ! そんな俺たちパンティフレンズ!」

「ハイッ! ハイッ!」

「相変わらず呪文がひどすぎる……おわっ!?」

 黄緑色に輝いた魔法陣の中心に渦が発生し、俺たちを吸い込んでいく。

 先生は瞬間的に俺にすがりついた。

「た、高凪ぃ!」

「大丈夫っス先生! このままなら行けます!」

「天国に!?」

「縁起でもないこと言わないでください!」

 嫌なことを言うなこの人は。

 俺が先生の相手をしていると、ソラさんは魔法陣に吸い込まれながら右手をメガホンのように使った。

「魔王さん! ちゃんと歯を磨いてくださいね! あとごはんはよく噛んで食べるように!」

「…………」

「魔王ちゃぁん! 最後にパンティくださ」

「あばよ魔王! 元気でな!」

「ひどくない? 最後のカットすることなくない?」

 すがりついてくる変態。ええい鬱陶しい。くっつくんじゃねえ先生も重いんだから。

「うう……っ。やっぱり行くなばかぁ!」

「あっおい!? 今魔法陣に入るな!」

 魔王は突然振り返り、魔法陣の中のソラさんへ飛び込む。

 その瞬間魔法陣の色が黄緑色から赤色に変化した。

「光の色が変わった!?」

「おわあああああああああああ!」

 俺の雄たけびを最後に、渦の中へと吸い込まれていく。

 俺は渦に吸い込まれながらきりもみ回転し、段々と意識を失っていった。


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