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第二十七話

「―――で、近づいたはいいものの……」

「明らかにやばい雰囲気が漂ってますね」

 目の前は何もないが、足元の辺りからバチバチという音が微かに聞こえる。何より生物としての本能が“一歩でも進んだらヤバイ”という警鐘を鳴らしていた。

「よくわかったな。目には見えんがここにバリアがある」

「くっそー。玄関は目の前だってのになぁ」

 魔王城の巨大な扉はもう見えているのに一歩踏み出せないもどかしさにやきもきしていると、魔王がえっへんと胸を張った。

「どうじゃ。参ったか」

「参ってるのは魔王じゃね?」

 俺が口元をヒクつかせながらツッコミを入れると、「それを言うな!」と言いながら魔王はがっくりと肩を落とす。なんか悪いことしちまったな。

「ふふっ。仕方ない! ついに私の実力を見せる時が来たようだな!」

 俺たちの背後でポーズを取っている変態。その気配をなんとなく察知した俺は無視してソラさんへと話しかけた。

「ソラさん、魔法でなんとかできねぇかな」

「無視しないで! お姉ちゃんのおはなしきいて!」

 変態はついになりふり構わず俺に引っ付いてきた。

「んだぁ鬱陶しい! なんか作戦があんのか!?」

「作戦はない!」

「ねぇのかよ!」

「しかしバリアを突破することはできる」

「マジで!? どうやんの!?」

「パンティバリアジャマ―だ」

「よし。あいつを抜いた三人で作戦を考えよう」

「最後まで聞いて! ほっとかないで!」

 変態はすがりつくように俺の服を引っ張る。俺はゲンナリしながら眉間に力を込めた。

「怖くてほっとけねぇよ! お前はとにかく黙ってろ!」

「仕方ない。論より証拠だ。とうりゃあ!」

「ばっ!?」

「姉さん!」

 変態は突然バリア地帯に足を踏み入れ、予想通り四方六方からの雷にバリバリと貫かれる。これは死んだかもしれん。

「ふはははは! これが奥義“パンティバリアジャマ―”だ!」

「つまり?」

「やせ我慢だ」

「やせ我慢かよ! 痛い?」

「痛いがそれ故に気持ちいい。具体的には濡れ―――」

「ソラさん。こいつここに置いていっていいかな」

「ま、まあまあ。でも姉さん、ここからどうするの?」

「私の股下はバリアが通ってないだろう」

「おい、まさか……」

 嘘だろ。嘘だと言ってくれ。

「私の股下を通れ」

「い、嫌だ! 人としての尊厳は捨てたくない!」

「そこまで言うのひどくない? 私現在進行形でバリアくらってんのに」

「ぐっ」

 確かに、犠牲になっている状態の奴にそれを言われるとつらいな。

「航太さん。今はそれしかないかと……」

「屈辱じゃが他に思いつかぬな」

「ちっくしょう。じゃあせめて順番最後にしてくれ。心の準備をする」

 俺は片手で頭を抱えながらどうにかして変態の股下をくぐる言い訳を考える。

 ……ってそんなん思いつくか。変態の股をくぐる理由ってなんだクソが。

「じゃあ魔王さんから行きましょうか」

「うむ」

 魔王は四つん這いになってわりとスペースに余裕を持って変態の股下をくぐっていく。

「ああ。幼女が私の股下を通っている」

「言葉にすんなよ! お前が言うとなんかこえーよ!」

 なんかハァハァしてるし、とっても嫌だ。

 そうしている内に魔王は通り過ぎ、次はソラさんが通った。

「姉さんごめんね、大丈夫?」

「もちろんさ。たいへん興奮しているぞ」

「ここにきて良い笑顔すんな! ああもう俺の番かよ……」

「かもん」

「つらい……が、行くしかねえか」

 俺は深呼吸を繰り返して覚悟を決めて四つん這いになる。

 そのまま変態の股下をくぐっていると、事件が起こった。

「おっと、尻が滑った」

 変態の尻が落ちてきて(というか腰を落としてきて)思い切り俺に触れる。これじゃ犠牲になった意味なくね? ていうか―――

「いでええええ! バリアくっそ痛え!」

「私のお尻とコウちゃんのお尻が今ひとつに」

「今すぐどけえええええ!」

「やだ!」

 変態はぐりぐりと俺の尻に尻を合わせ、興奮した様子で息を荒くする。

 その様子にツッコミを入れたい俺だったが、痛みでそれどころじゃない。ていうか死ぬ。

「じ、地獄絵図じゃな」

「多分二度と見られない光景だと思います」

「二人とも冷静すぎじゃね!? ええい、無理やり抜け出す!」

 俺は最後の力を振り絞ってツッコミを入れ、そのままの勢いで前方へと飛び出した。

「あっ!? ずるい!」

「うるせぇ! なんで俺の時だけケツ落としたんだよ!?」

「ノリで」

「ノリで!?」

「と、とにかくスイッチのある場所に向かいましょう? そこに侵入者さんがいるかもしれないですし」

「そうじゃな。さっさと行くぞ」

「ちょっとは優しくしてください……」

こうして魔王城に侵入した俺たちは、途中襲い来るモンスターを倒しながらスイッチのある部屋に向かった。


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