第二十六話
「ここが魔王城か……なんか重い雰囲気だな」
俺たちはついに魔王城の前にたどり着く。重苦しい雰囲気に俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「陽気な魔王城というのも聞いたことないがな」
「確かに」
魔王の言葉にうんうんと頷く変態。魔王はまだしもあいつに言われると腹立つな。
「いや、それにしたって空が暗すぎるだろ。これって仕様なの?」
「雰囲気を出すために魔力で常に操作しておる」
「意外と涙ぐましい努力があるのね!?」
まさか魔王城の空が人工物だったとは、さすがに知らなかった。
「それで、魔王さんは何故魔王城を追い出されてしまったんですか?」
「そういやそんな話だったな」
「忘れてた」
「忘れるな! あれはわしが日課の散歩をしている時じゃった―――」
「あ、その話長くなる? なるなら寝る」
寝っ転がる変態。自由かこいつ。……いや最初からずっと自由だったなこいつは。
「聞けぇ! この魔王城には緊急時のみ使用するバリア装置があるのじゃが、わしが散歩している間に何者かが魔王城に侵入し、そのバリアを起動してしまったのじゃ!」
「そのバリアのせいで魔王城に入れないと。なんというか、こう……」
言いにくいなー。言っていいのかなこれ。
「魔王ちゃん間抜けですね♪」
「せっかく人が飲み込んだセリフを躊躇なく言うなよ!?」
さすが変態デリカシーがない。まあパンツ頭からかぶってるやつにデリカシーを求める方がおかしいのかもしれん。
「うぅ。間抜けという点については反論できん。しかしな、この魔王城のセキュリティも伊達ではない。わしが留守中だったとはいえ侵入するのは至難の技だったはずじゃ」
「相当ヤバい奴が魔王城に侵入したってことか……ていうか、魔王城の中のモンスターはどうなってんだ?」
魔王城だから当然モンスターもいるはずだ。その侵入者今頃ボコられてるんじゃねえのか?
「バリアを起動した者が城の主になるように設定していたから、城内のモンスターは侵入者に従っているじゃろう」
「な、何故そんな厄介な仕様に……」
「仕方ないじゃろう!? いつか後継者が現れたらカッコよくバリア起動スイッチを紹介するつもりだったんじゃ!」
「聞けば聞くほど間抜けだね♪」
「言ってやんなよ! かわいそうだよ!」
「同情が一番つらいわい! ううっ……ソラぁ!」
「ああ、よしよし。魔王さんは悪くないですよー」
魔王はソラさんに抱き着き、ぽろぽろと涙を流す。それにしても懐いたなぁあいつ。
「魔王ちゃんの涙ぺろぺろしたい(魔王ちゃんの笑顔のためにも頑張るぞ!)」
「多分だけど本音と建前逆じゃね?」
「ふん。魔王城を包むバリアはこの世界最強。いくら貴様らでも突破できまい」
魔王は涙をぐしぐししながら変態へと言葉をぶつける。いやそのバリア出しちゃったのお前じゃん。
「魔王今それどんなテンションで言ってんの?」
「まあまあ。とにかく近づいてみましょう」
確かにこの場にいつまでもいたって仕方ない。俺たちはソラさんに促されるまま魔王城に近づいていった。