第二十三話
とりあえず俺たちは浜辺に繰り出し、遊ぶ。借りたパラソルを浜辺に突き刺すと、その陰にシートを引いて寝転がった。
ほどよい海風と日陰の涼しさが最高だ。
「あー。やっぱパラソル借りてよかったな。すげぇ快適」
「そうですね。適度に涼しく汗をかけて、芳醇な香りがします」
「ソッスネ」
にっこりと笑いながら変態発言をするソラさん。俺は引きつった笑いを返すことしか出来なかった。
「それにしてもあの二人はさっきから何やってんだ?」
前を見ると変態と魔王が浜辺でなにやら砂をいじっている。
そのうち魔王の怒号が響いてきた。
「馬鹿者! そこは庭にする予定なのじゃ! 勝手に銅像を建てるな!」
「ええー。じゃあ私の偉大さはどこに残せばいいの?」
「ないものを残すのは不可能じゃ」
「ひどひ!」
「魔王さん“ここに魔王城を建てる!”って意気込んでましたからその作業かと」
「なるほど」
ソラさんの説明で納得した。要するに砂のお城を作ってるわけね。
「ああっ!? なんじゃこの砂はすぐ崩れるぞ!?」
「まるで魔王ちゃんの権威のようですね」
「嫌な例えをするな!」
「……しょーがねぇ。手伝ってやるか」
あのままじゃ一生完成しそうもない。快適なパラソルの下を手放すのは嫌だが、魔王の泣き顔も見たくないし行くしかないだろう。
「ふふっ。私も行きますね」
「??? なんか俺変な事言った?」
クスクスと笑うソラさん。俺には思い当たるところが何もなく、ぼりぼりと頭を掻いた。
「ごめんなさい。なんだかんだ言って手伝ってあげるんだなって」
「!? い、いいから行こうぜ。どうせ暇だしよ」
「はいっ」
俺は赤くなった顔を隠しながら魔王たちのもとへと歩き出す。
こうして俺たちは全員で魔王城建設に着手し、いつのまにかヒートアップした結果日が沈み始めていることにまったく気付かずにいるのだった。
「ってうおおおい!? 日が落ち始めてるぞ!」
「完成じゃ! これぞ我が魔王城!」
「言ってる場合か! シルバーウルフが来ちゃうでしょうが!」
むふーと笑いながら満足そうにしている魔王。ダメだこの子完全にシルバーウルフ忘れてるよ。
「完全に忘れちゃってましたね……おかげで超大作ができました」
「細部まで拘った後世に残したい一品じゃ」
「このままだと俺たちが後世に残れないんだけど!? 早く宿探そうぜ!」
「待て。せっかくじゃから写真を撮ろう」
「へぁ!? う。んー、まあいいか」
魔王の要求を飲んでスマホを構える俺。こんなことしてる場合なんだろうかという迷いをよそに、魔王は砂の城の横に立って誇らしげに胸を張った。
「しっかり撮れよ」
「はいはい。チーズ……ってこんなことしてる場合じゃねえんだって!」
「忙しい奴じゃのう」
俺は写真を撮ると急いでパラソルとシートを片付けて二人に声をかけた。
「そうじゃな。とりあえず浜辺を出るか」
「急ごうぜ。……あれ? あの馬鹿はどこ行った」
「そういえば見当たらないです」
さっきから変態の姿が見当たらない。これはチャンスだ。
「よっしゃ。ほっといて宿探そう」
「よっしゃ!? 落ち着いてください高凪さん! 姉を見捨てないで!」
「やだやだ! あんなんもうシルバーウルフさんにボコられちゃえばいいんだ!」
「よ、幼児退行するほど嫌がっている」
「無様じゃな」
「だってあいつのせいで今までひでぇ目に遭ってきたじゃん! ちょっとくらいお灸をすえてもらった方がいいだろ!?」
「まあ、それは……」
「それを言われると反論できんな」
「よし決定! 変態は放置!」
「私がどうかしたか?」
「ヒェッ!?」
背後から響く変態の声にびびった俺は恐る恐る背後を振り返る。そこには腕を組んだ変態が仁王立ちしていた。
「姉さん! どこ行ってたの!? 心配したんだよ!」
「??? もちろんパンティを探しに行ってたんだが」
「あっもういいです」
「そ、ソラさんの目が死んだ!」
「謝れ変態!」
俺と魔王は口々に変態を罵倒するが、変態はまったくこたえていないようだ。
「まあまあ落ち着きたまえ。常夏の街だけあってきわどいパンティが沢山売っていたぞ」
「うわよく見るとパンツいっぱい持ってる! こわっ!」
「確かにこれだけのパンティだと盗まれるのが怖いな」
「パンティ抱えて立ってる変態がこえーんだよ! ……ん?」
「どうした?」
「いや、なんかお前の背後にでかい影が見えるんだが」
気のせいであろうか。気のせいであれ。
「ああ、このモンスターか? 買い物中に襲ってきたので倒した」
「倒したの!? というかこれシルバーウルフではないか!」
「はぁ!? こいつが!?」
銀色の毛並みをした巨大な人狼は、変態の後ろでボッコボコの状態になって気絶していた。しかもパンティをかぶらされている。
「ひ、ひでぇ! こんなひでぇやられ方した中ボス見た事ねぇ!」
「じゃろうな」
「まあ私にかかればこの程度のモンスターなど一発だ」
はっはっはと笑い声を響かせる変態。笑いごとじゃねえだろひどすぎるわこんなん。
「一発。我が魔王軍ナンバーツーが一発だと……」
「わぁぁ! 魔王さんが膝を付いた!」
「謝れ変態!」
「よし。みんな集まったことだし宿に行こうか」
「なんで今だけまともなこと言うんだよ! もうちょっと中ボスをしのばせろよ!」
「高凪さん高凪さん。まだ死んでないです」
ソラさんはぶんぶんと手を横に振りながら俺にツッコミを入れる。いやでもあれ社会的には死んだも同然なんじゃないか?
「よし! とにかく宿屋に向かってれっつごー!」
「いや話聞けや!」
こうして俺たちは世界で最も悲惨なやられ方をした中ボスを横目に、街の宿屋に向かって歩みを進めるのだった。