第二十二話
浜辺の売店に到着した俺たち。ソラさんは早速店主らしきおっさんに指を四本立てた。
「おじさん。ジュースを四人分ください」
「あいよ! そこの冷蔵庫から持っていきな! ……ていうか嬢ちゃんたち誘拐されてるのか? 大丈夫?」
「大丈夫だよ! 聞くまでもないけどそれ犯人俺だよね!?」
「いや。そっちのパンツかぶってるやつも怪しいなって」
「ごもっともすぎて言葉も出ねぇ」
悲しいが、このおっさんが疑うのも無理はなかった。
「まあまあ。ほらジュースです。この街の特産みたいですよ」
ソラさんは困ったように笑いながらジュースを手渡してくれる。俺は炎天下の下乾いた喉にジュースを流し込んだ。
「あー、美味いなぁ。乾いた喉にしみるわ」
「ジュースで大丈夫かコウちゃん。私の生き血吸う?」
「その覚悟が怖い! 大丈夫だから気にすんな!」
「なんだかわかんねーけど、誘拐じゃなさそうだな」
「当たり前じゃねーか。俺たちは―――」
「変態ご一行様だ」
「ちげーよ! ただの旅人だよ!」
「やはり変態か」
「納得しないでおじ様! それ濡れ衣!」
腕を組みながら睨んでくるおっさんに対し涙ながらに弁解する俺。必死な俺の様子におっさんも納得したのか、世間話をふってきた。
「変な奴と言えば、この街には夜になると凶悪なモンスターが出るらしいぜ」
「凶悪なモンスター?」
「コウちゃんじゃなくて?」
「それはもういい! おっさん、詳しく教えてくんねーか」
凶悪なモンスターとは穏やかじゃない。是非知っておきたい情報だ。
「ああ。この街の警備隊は屈強揃いなんだけどな? そのモンスターにもう何人も病院送りにされてるらしい。一般人の被害も深刻で、夜間外出禁止令の発令も検討してるみたいだぜ」
深刻な表情で話すおっさんの表情を見るに、どうやら本当のようだ。この規模の街を守る警備隊なら相当強いんだろうし、そんなやつを蹴散らすモンスターなんて危険極まりないな。
「しかしそりゃ相当やばいモンスターだな……魔王なんか知らねえの?」
「夜に活発になるといえばシルバーウルフじゃな。あやつの戦闘力は魔王軍の中でもわしの次に匹敵するぞ」
「魔王軍のナンバーツーって、かなりやべーやつじゃねえか! 絶対夜は外に出ないでおこう」
「それが無難じゃな。魔王城までそれほど距離もない。こんなところで命を落とすのは馬鹿らしいぞ」
「いわゆる中ボスってやつか……絶対出会いたくねぇな」
俺は荒い息を吐き月をバックに血に濡れるシルバーウルフの姿を想像し、背中に冷たいものが走る。
ソラさんはそんな俺の様子を察してくれたのか、ぽんっと両手を合わせた。
「まあとにかく。時間には気を付けて行動するようにしましょう。そうすれば大丈夫ですよ」
「ん。そうだな」
確かにソラさんの言う通りだ。気を付けて行動するようにしよう。
「おおいみんな! こっちにパンティ型のボートがあるんだけどみんなで乗らないかい!?」
「―――とりあえず、あの馬鹿には厳重注意だな」
「……はい。お手数おかけします」
俺たちはいつのまにか売店を後にしていた変態を追いかけ、その後三十分かけてシルバーウルフの恐ろしさを説明した。