第二十一話
先に着替え終わった俺が浜辺で待っていると、水着に着替えたソラさんと魔王が戻ってきた。
ソラさんは花柄のビキニで胸の所にヒラヒラが付いているタイプのかわいいやつ。魔王はワンピースタイプでこれまたヒラヒラが付いているタイプだった。
「ソラさん花柄似合ってるな」
「あ、ありがとうございます。ちょっと恥ずかしいですね」
ソラさんは頬を赤らめながらもじもじと両手で体を隠す。こうしてれば普通の女の子なんだけどなぁ。
「魔王はなんつーか、持ってる浮き輪が似合いすぎる」
水着よりむしろ浮き輪のが気になるわ。
「褒めるか貶すかどっちかにしろ！ それよりあの馬鹿はまだか？」
「呼ばれて飛び出てぽぽぽぽーん」
「うわっ！？ いきなり背後に立つな！ ……ん？」
「どうしたコウちゃん」
背後に立っていたのは、黒い水着を身に着けた変態。しかし変態のくせに出るところは出ていて、俺は咄嗟に目を逸らした。
「い、いやなんでもねぇ」
「ははーん。さては私の豊満なバストに魅了されたな？ まあ無理もないだろう」
「ぐっ。強く言い返せない。悔しい。こんなに悔しく、そして恥ずかしいのは初めてだ」
「そこまで言うことなくない？」
変態は若干ショックを受けた様子で俺の顔を覗き込む。パンツをかぶったその顔を見た俺は何故かほっとしていた。気が狂ったのかもしれない。
「…………」
「ん？ どうしたソラさ―――いっでぇ！？」
突然の蹴りが俺のケツを襲う。
「どうしました？」
「そっちこそどうしました！？ なんで今ケツ蹴ったの！？」
「蹴ってませんよ」
「目撃したのに否定されたすごい！」
「じゃあわしも」
「いでふ！？ スネはやめろスネは！」
魔王の身長では無理もないが、スネはマジで痛いから勘弁してくれ。
「よし。じゃあ私はパンティをかぶせてあげよう」
「やらせねえよ！？ これ以上平和な浜辺に変態を増やすな！」
「おしゃれさんは増えるけど変態は増えないだろう？」
「ケツとスネを痛がってるパンツかぶった男は変態でしかねえよ！」
「じゃあ私はセーフだな」
「アウトだよ！ 浜辺くらい頭のパンツ脱げ！」
「やだ！」
「二文字！？」
「ま、まあまあ。とりあえず冷たいものでも飲みましょう？」
「そうだな。馬鹿にツッコミ入れて喉乾いたし」
この炎天下だと日射病も心配だし、魔王も何か飲ませておいたほうがいいだろう。
「コウちゃんが喉乾いたってことは、処女の生き血の出番ですね」
「飲まねぇよそんなの！ 俺完全にやべーやつじゃねえか！」
「えっ、違うの？」
「えっ、俺やべーやつなの？」
「まあ浜辺で怒鳴り散らしてる顔面凶器野郎はやべーやつじゃろ」
「そこまで言う事なくない！？ わんわん泣くよ！？」
「それはそれで怖い」
「どう転んでも怖いのかよ！」
地団太を踏んだ俺の足元から砂浜の砂が舞い上がって口に入る。まさに踏んだり蹴ったりだ。
「諦めろコウちゃん。君に普通は似合わない」
「お前が言うと説得力がすごい！」
「とりあえず行きましょう。日射病になっちゃいますよ」
ソラさんは困ったように笑いながら売店を指さす。その先には氷水に浸かった冷たそうなドリンクが置かれていた。
「確かに日射病はヤバイな。すまんソラさん」
「水分補給した方が汗もいっぱい出ますし」
「なんかゆってるこわい！」
ソラさんが俺の汗を狙っている事実に気付きながらも、俺は浜辺にある売店へと足をのばした。
