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第二話

 魔法陣に吸い込まれたと思ったら、気付いた時には見知らぬ場所で倒れていた。

 俺はひとまず近くに倒れていたソラさんを抱き上げる。地面に寝かせたまんまにはできないだろう。

「うう。一体何がどうなったの?」

「…………」

「ひぁっ!? お、おお、お姫様抱っこ!?」

「と、とりあえず降りてくんねーか。そろそろ腕がやべえ」

「は、はいっ」

 ソラさんをゆっくり立たせるようにして降ろし、腕をぷらぷらさせる。いかんな。最近わりと運動不足だったからかなり腕がつらい。

「あ、あの。私が起きるまでずっと抱っこしてくれてたんですか?」

「んー? まあな。だって地面に寝かしとくわけにもいかねえだろ。この辺岩だらけで冷たそうだし」

 周囲を見渡すと、乾いた大地にところどころ大きな岩が突き刺さっている。どう考えても横になって快適な場所とは思えなかった。

「…………」

「あん? なんだよ。俺の顔がそんなに気になるか」

「ひぁっ!? い、いえ、その、ごめんなさい」

「チッ。慣れてるから別にいいけどよ」

 いくら顔が怖いからってそんなにじっと見つめることないだろ。泣くぞ。

「あ、そ、それより、姉さんはどこにいるんでしょう」

「そうだな。ここが何処かも大いに気になるけど、まずはあの変態を探すか」

「その必要はないぞコウちゃん!」

「誰がコウちゃんだ! ってうおお!?」

 声がした方向に顔を向けると、変態が地面に突き刺さっていた。しかも頭から。

「姉さん大丈夫!?」

「大丈夫だ」

「いや大丈夫じゃねえだろ! それ息できてんの!?」

「ほぼできてない。できてないが、これはこれで……イイ」

「どういうプレイだよ馬鹿! ソラさん、とにかく引き抜くぞ!」

「は、はい!」

 俺とソラさんは二人で変態の足をがっしりと掴んで引っ張った。

「「うんとこしょ、どっこいしょ!」」

「それでも姉は抜けません」

「うるせえよ! お前もちょっとはやる気出せ!」

「そうしたいところなんだがな。指一本動かせない」

「元気モリモリでボケる余裕があるならイケるだろ!」

「あっ!? 抜けそうです!」

「よっしゃ! うおらぁ!」

「ハッピーセッツ」

「抜ける時の掛け声おかしくね!?」

「喜びを表現してみた」

「例のセットしか思いつかねえよ! つうか呼吸もできないのによく生きてたな!?」

「頑張りました」

「頑張ったとかそういう……いや、もういいや。なんか疲れた」

「おつかれ」

「腹立つけど怒る気力もねえや。それよりここはどこなんだ?」

「見たところ学校……ではないですね」

 周囲を見渡す限り、俺の記憶のどことも合致しない。つまり見ず知らずの場所にいきなり移動させられたってことだ。

「まさかテレポートってやつか? パンツ被った女子が踊り狂ったんだ、ちょっとやそっとじゃ驚かねえぞ」

「何その自信。ウケる」

「ウケんな! 元はと言えばお前の変な儀式のせいじゃねえか!」

「そうだ姉さん。もう一度あの儀式をしたら元の場所に戻れないかな」

「それだ! さすがソラさん!」

「ふむ。残念だがそれは無理だな」

「なんでだよ! ナイスアイディアだろ!?」

「儀式に使う道具が吹っ飛ばされてしまった」

「どこに?」

「あの古城に」

「はぁ? 古城なんてどこに……あった!?」

「な、なんだか禍々しいですね」

「魔王城のようだな」

 確かに変態の言う通り、物凄く遠くに巨大な城のようなものが微かに見える。黒い外壁は禍々しく、魔王城と言われても否定できなかった。

「いやーそんなまさかハハハ。魔王なんてこの世にいるわけねえだろ」

「魔王のパンティって何味かなぁ」

「魔王に邪な想いを馳せるんじゃねえ! てかただの城だって!」

 ただの変な城だよな? 変な城であれ。

「まあとりあえず目の前の丘を上がってみようじゃないか」

「そうだね。開けたところに出れば状況もわかるかもしれないし」

 変態の提案に頷くソラさん。まあ確かにそうだな。いつまでもここにいたってしょうがないか。

「よし! では皆の者このパンティに続け!」

「続くかボケェ! いい加減パンティから離れろ!」

「どうせ続くならパンティのが続けられるだろう」

「こっちのメンタルが続かねえんだよ! いいからいくぞ!」

「あーれー」

 俺は変態の頭のパンツを引っ掴み、そのままずるずると地面を引きずって歩いた。

「姉さんの頭のパンティが伸び伸びになってる……」

「コウちゃんのえっち」

「うるせえよ! 話が進まねえから黙ってろ!」

 そうしてしばらく丘を登っていくと、視界がだんだん開けてきた。

「もう少しで丘の上に出ますね」

「だな。一体ここはど……こ……」

「うそ……」

「わぁ。中世ヨーロッパのような素敵な街並みじゃないか」

「いやそんなこと言ってる場合か!? もっと見るべきところがあるだろ!」

「手前の民家に干されているパンティが赤くて派手だなって」

「赤は赤でもそっちじゃねえよ!? そうじゃなくて、街の上空を飛んでる赤いドラゴンのことだよ!」

「赤い、ドラゴン……」

「グオオオアアアアアアアア!」

 俺たちの目の前には確かに中世ヨーロッパのような街並みが広がっている。しかし問題はそれではなく、その街を現在進行形でドラゴンが襲っているということだ。

 赤い炎は容赦なく街を焼き、逃げ惑う人々の悲鳴が微かに聞こえてくる。

「街を、襲ってやがる」

「元気だねー♪」

「呑気か! いや、こんなんどうしろってんだよ……」

俺は呆然と口を開き、生まれて初めて目にしたドラゴンの強大な力を恐れることしかできなかった。

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