第十九話
トレジャーベースに戻ってきた俺たちは街中を駆け回ったが、思ったよりすぐに呪いを外せる術師が見つかった。
“呪い外し屋”と書かれた看板の下に座るローブのおっさんは怪しい笑顔を浮かべる。
「お客さん呪われたのかい?」
「おう。がっつり呪われてるぜ」
「顔面が?」
「ぶっ飛ばすぞ! 俺の頭に被ってるやつだよ!」
「ああそっちか。よぉし任せな」
「よっしゃ。おっさんだけが頼りだ」
おっさんは立ち上がると杖のようなものを俺の頭にかざす。俺は少し頭を下げて祈るように目をつぶった。
「古より紡がれし堅牢な呪いよ。今神の名の元にその束縛を解きたまえ! “ジェイルブレイク”!」
「おおっ!? なんかそれっぽいぞ! 解けたか!?」
「むりぽ」
「あきらめんなよ!」
おっさんは鼻をほじりながら言い放ち、俺はもう力づくでパンツを掴んで引っ張った。
「脱げねぇえええ! クソが!」
「ダメだな。呪いが強力すぎて俺の魔力じゃ足らん」
「ええええ……他に呪い外し屋は?」
「全員遠出してる」
「詰んでるじゃねーか! 魔王は無理なのか!?」
「逆に聞くが、今のわしに出来ると思うか?」
「デスワヨネ」
「えっと、さっきの呪文でいいんですよね? 私やってみましょうか」
「おおっ。ソラさん頼むぜ!」
いきなり炎の魔術を習得したソラさんならなんとかしてくれるかもしれん。いやなんとかしてくださいお願いします。
「おいおい。素人の嬢ちゃんが手を出すもんじゃねえ。その呪いは国家仕えレベルの術士じゃないと―――」
「外れました」
「やったぜ」
「はぁあああああ!? どゆこと!?」
ガッツポーズする俺とソラさん。おっさんは両目が飛び出すんじゃないかってくらい驚いてあんぐりと口を開いた。
「あー、まあほら、ビギナーズラックってやつ?」
「なわけねーだあろ! なわけねーだろ!」
「大事なことなので二回言ったな」
「まあ落ち着けおっさん。こういうこともあるさ」
「ええええ。落ち込むわぁ」
おっさんは右手で顔を抑えてがっくりと項垂れた。
その時魔王がくいくいと俺の服を引っ張った。
「それより、路銀はどうするんじゃ? またダンジョンにもぐるのか?」
「あっ。魔王ちゃんダンジョンが怖くなっちゃったんでしょ」
「ちっ違うわい! わしはただ方針を確認しただけじゃ!」
魔王はばたばたと両手を振り回して否定するが、顔の赤さからいって図星だなこりゃ。
「でもまあ路銀がないってのは確かだよな。とりあえず今日は野宿するしかねえか」
「そうですね……」
「はぁ? 金がないならその装備売ればいいだろ」
「へっ?」
「えっ?」
おっさんは俺の持っているブーメランパンツを指さして不思議そうに疑問符を浮かべている。どゆこと?
「だってそれ、結構良い防具だろ? 売れば路銀くらいにはなるぞ」
「マジで!? これが!?」
嘘だろ。いやでも禍々しい宝箱で守るくらいだからそうなのかもしれん。
「はーっはっは! やはり最後にパンティは勝つ!」
「なんでお前がドヤ顔だよ!? いやこの場合合ってるのか!?」
しかしポーズを取る変態は妙に腹立たしいな。
「しかし、このパンティを売るなんてとんでもないぞコウちゃん」
腕を組んでうんうんと頷く変態。俺はこいつの発言を聞くとソラさんと魔王に目くばせした。きっと二人も意図をくみ取ってくれるだろう。
「ソラさん、魔王。わかってるな」
「うむ」
「わかりました」
「???」
頭に疑問符を浮かべる変態だったが、すぐに二人に取り押さえられた。
その隙に俺は傍にいた承認にパンツを売る。
「いやだあああああ! そのパンティは私のだ!」
「俺にかぶせただろうが! 諦めろ路銀のためだ!」
「やだやだ! そのパンティは私の結婚式で使うんだい!」
「だったら安心しろ一生出番はねぇ!」
「ひ、ひどい」
「しかしまあ正論じゃな」
ソラさんと魔王は納得した様子で頷いてくれた。我ながらひどいと思うが仕方ない。これも生きるためだ。
「まいどありー」
「ううっ。ひどい。ひどいよぉ」
膝から地面に崩れ落ち、泣き続ける変態。
パンツ被った女子が泣いてる様は絵面的に怖いことこの上ないが、しかし―――
「ここまで泣かれるとさすがにちょっと悪い気がするな」
「ひどい。ひどすぎて興奮するぞコウちゃん」
「前言撤回するわ」
こうして俺たちは無事路銀をゲットし、今宵の宿を確保する。
恨みがましい視線を送ってくる変態をなだめるのは大変だったが、翌日にはすっかり忘れていたのでよしとしよう。
そして俺たちは、無事柔らかいベッドで眠るのだった。