第十八話
「だいぶ歩いたが、魔王ちゃんはまだかな」
「見当たらないね」
「ていうか前がみえねえ」
俺はボコボコになった顔面でかろうじて歩いていた。
「ワオ! イケメンになったなコウちゃん」
「どういう意味だよ!? こちとらずっとボコられてるんじゃい!」
「あっ!? あそこ! ぼんやり別の明かりが見えます!」
ソラさんの指さした方向を見ると、確かに薄ぼんやりとした灯りの中に魔王の泣き顔が見えてきた。
「っく。ひっく。そら。こーた。へんたいぃ。どこいったんじゃあ」
スマホを抱いて泣いている魔王。ソラさんはすぐに魔王へと駆け寄った。
「魔王さん! 大丈夫ですか!?」
「そらぁ! どこいってたんじゃ!」
ソラさんに飛びつくように抱き着いた魔王はボロボロと泣き始めてしまった。
「ごめんなさい……はぐれてしまって」
「魔王ちゃんは泣き虫さんだなぁ」
「だっ誰が泣くか! わしは魔王じゃぞ!?」
魔王はマントでぐしぐしと涙を拭い、変態を睨みつけた。
「うんうん。泣いてない泣いてない」
「あのーハートフルな場面で申し訳ないんですけど、俺も助けてもらえませんかね?」
こうした場面で言うのもなんだが、俺現在進行形でボコられてるんスけど。
「助けるのは無理だな」
「無理です」
「無理じゃ」
「諦めんのはえーよ! もうちょっと粘って!?」
「お、おいあれ! 呪いの宝箱じゃないか!?」
「本当だ! みんな逃げろぉ!」
俺をボコっていた冒険者たちが一斉に撤退を始める。彼らの視線を追ってみると確かにおどろおどろしい宝箱がぽつんと置かれていた。
「魔王さんが背もたれにしてた箱。宝箱だったんですね」
「なんか禍々しいオーラを感じるな」
「そうですね。開けない方が懸命です」
「じゃな。絶対に開けないでおこう」
一つの意思の元結束する俺たち。宝探しも始めたばかりだ。いきなりこんな危険なもんに手を出す必要もないだろう。
「だってよ変態。お前が一番開けそうなんだから気をつけろよ」
「え? もう開けたけど?」
「開いてるぅ!? 何してんのお前!」
「宝箱を開けている」
「行動を尋ねてるんじゃねえよどういうつもりか聞いてんの!」
「時にリスクをおかしてでも箱を開けなければ、宝は手に入らない」
「な、なんか微妙に良いこと言ってる?」
「ていうか中身気になるじゃん」
「あ、違うわ。ただのバカだこいつ」
「で、中身は何なのじゃ?」
「気になります」
呆れた様子の魔王と目をキラキラさせているソラさん。まあ確かに開けちまったんなら中身は気になるな。
「責任とって見てみろよバカマスター」
「パンツマスターだ。では……とう!」
「いきなり手を突っ込んだよこいつ。ミミックだったらどうすんだ」
「その時は全力で逃げましょう」
「ソラさん……」
「おおっこれわ!?」
「なんじゃなんじゃ?」
「パンティだ」
「はぁ!? いや、パンティっつうかブーメランパンツって感じだな。水着の」
「ああ。あの隙間に札束ねじ込むやつ」
「偏見がエグい! 普通に男が履く水着でいいだろ!」
パンツマスターの手には男物の黒いブーメランパンツが握られている。考えてみればなんだこの状況。いや今更なんだけども。
「しかし、何故そんなのが宝箱に?」
「さあ。もしかしたら凄い装備なのかもな」
一応すげぇ宝箱に入っていたんだし、見た目より良い装備なのかもしれない。
「じゃあコウちゃんにあげるね。ほいっ」
「うぉおおおおい!? いきなり頭にかぶせんなアホか!」
「とっても男前だぞ」
「うるせーよ!」
「それよりさっさと脱いだらどうじゃ?」
「確かに。……んっ? 脱げねえぞこれ」
どんなに引っ張って脱ごうとしても、まるで固定されているように動かない。なんか嫌な予感がしてきた。
「あーもしかして」
「な、なんだよ変態」
「呪われた装備なんじゃね」
「それいきなりかぶせんのひどくね!?」
「うーっ。確かに引っ張っても脱げません」
ソラさんに手伝ってもらうが、どうにも脱げそうにない。これで変態が二人になりましたねはははっ。マジ死にたい。
「こりゃ完璧に呪われとるな」
「くっそがぁ! どうすんだよこれ!」
「まあ落ち着けコウちゃん。装い新たにスタートすればいいじゃないか」
「装い新たに変態が増えてんだよ!」
「ますますいいじゃないか?」
「ダメだ話が通じない」
「今更じゃな。というか冒険者の街なんじゃから呪いを外す術士くらいおるじゃろう」
「それだ! とっとと行くぞバカマスター!」
「あー伸びる伸びる。パンティ伸びる」
「ま、待ってください! 魔王さん、手をつなぎましょう!」
「う、うむ!」
こうして俺たちは……というか俺は変態のパンツを掴んで引きずりながら、逃げるように洞窟を後にして街の術士を探し回った。