第十六話
前チャンピオンを倒した俺たちは無事街道に戻り、旅を続けていた。
「これからどうするんじゃ? 魔王城に向かうならもう出発した方がいいぞ」
「結構距離があるんだな。次の街はどんなとこなんだ?」
「冒険の街トレジャーベースじゃな。その名の通り冒険者が多く滞在し、周辺にいくつも存在するダンジョンの探索が盛んな街じゃ」
「へぇ。なんか面白そうな街だな」
「私は魔王ちゃんのトレジャーを探索したい」
「自重しろ変態! お前はまともな思考を探索しろ!」
「私はコウちゃんのトレジャー探索でも全く構わないが?」
「あ、ダメだ。こいつの中にまともな思考は一ミリもねぇ」
「まあまあ。とりあえず出発しましょう? 時間もないですし」
ソラさんは困ったように眉を顰めながら笑い、提案する。確かに話の軸がズレちまったな。
「よぉし! トレジャーベースにレッツらゴー!」
「なんでお前が仕切ってんだよ! てか先に行くな!」
こうして俺たちは一路次の街へ向かってしまった変態を追いかけて、そそくさと街道を進み始めた。
野宿をしながらしばらく歩いていると、ようやく次の街トレジャーベースに到着した。砂漠のような砂地に建てられた砂色の建物は地面と見事にマッチしていて、砂漠の街って感じだ。
「ここがトレジャーベースか。確かに冒険者がっぽい奴らが多いな」
「ち、ちょっと怖いですね」
冒険者と一口に言っても学者風のやつから戦士風のやつまで様々だ。しかし町全体に流れるアウトローな雰囲気は確かに警戒したくなるな。
「まあここも治安は良いから大丈夫じゃろう。砂っぽいから口と鼻には気をつけ―――ふぇっくち!」
「魔王ちゃんそれギャグ?」
「違うわい! この体は何かと不便で―――ふぇくち!」
「魔王さん、はいちーんしてください」
「ちーん」
「コウちゃんも下半身のちーんを出してくれていいのよ?」
「“遠慮しないで?”みたいな顔すんな! 普通に逮捕案件だろ!」
「私はコウちゃんのちーんで幸せになれるのに?」
「ああ神様。どうかこの変態を一生不幸にしてください」
「神など殺しそうな顔して何を言う」
「ひどくね? そこまで言うことなくね?」
「とりあえず、宿を探しませんか? 完全に悪目立ちしてますし」
ソラさんは困ったように笑いながら発言する。言われてみれば周囲からの視線が痛い。まあ変態がいるんだからそれも当然なんだが。
「冒険者の視線が痛い。興奮してきたな」
「すんな!」
「まあとにかく、安い宿を探すぞ。魔王城までの旅路を考えれば路銀に余裕はないからな」
「確かにそうだな。お金ってあとどれくらい残ってたっけ?」
「えっと……あれ?」
「どしたソラさん」
ソラさんは持っていた荷物をごそごそと探るが、その顔からは段々と血の気が引いていった。
「ない、です。お金が少しも」
「なにぃ!? どゆこと!?」
「コウちゃんコウちゃん」
「なんだよこの非常事態に!」
「さっきロックフォードの街を出るとき、恵まれない旅人への募金団体がいただろう?」
確かに言われてみれば、街の出口で募金活動をしている団体がいたな。路銀に余裕がないからスルーしていたが。
「おい。まさか……」
「路銀全部投入してきた」
「アホかぁああああああ! なんで全部!?」
「恵まれない旅人が可哀想だろう」
「募金した俺たちが恵まれない旅人になってんですけど!?」
「マジで? 私ファインプレーじゃん」
「オウンゴールじゃねえか! ああもう、どうすんだよ」
「そうそう。募金団体の皆さんもそんな顔でポカンとしていたな」
「そりゃそうだよ路銀全部募金してんだもん! ある意味その団体全否定してるわ!」
「ここまでのアホはわしも見たことがないぞ……」
「ですわよね! ソラさんもなんか言ってやって!」
「ぽっぷしゅ」
「わぁダメだ! ソラさんが壊れた!」
「落ち着けソラ。パンティ嗅ぐ?」
「かぐ」
「嗅がないで! 落ち着いてソラさん目を覚まして!」
俺はソラさんの肩を掴んでがくがくと前後に揺さぶった。頼むソラさん目覚めてくれ。
「はっ。ご、ごめんなさい。綺麗な川が見えてました」
「死にかけていらっしゃる! どうすんだよバカマスター!」
「失礼な。私はパンツマスターだ」
「訂正前との差がわかんねーよ!」
「とにかく、路銀を稼ぐしかあるまい。幸いこの街にはダンジョンの案内所もあるし、宝探しするしかないじゃろうな」
魔王の言う通り、それしかないんだろう。楽しそうな街だなーなんて吞気なことを考えていた自分を呪いたい。
「うう。なんでこんなことに……」
「ガンバ♪」
「お前が言うな!」
こうして俺はフラつく足取りでダンジョンの案内所へと向かった。