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第十五話

 街道横にある廃墟には月明かりが入り、ところどころ置かれた松明の光がどこか不気味に壁を照らしていた。

「ここがソラさんの言っていた廃墟か。なんか出そうな雰囲気だな」

「出るって汗がですか? 汗であれ」

「今冷や汗がどっと出たよ! とりあえず自重しようか!」

「よく来たなてめぇら! このガキは預かってるぞ!」

「離せ無礼者! 人間ごときがこのわしを抱えるとは何事じゃ!」

 前チャンピオンは唐突に現れ、魔王とハンマーを抱えた状態で仁王立ちしている。

 俺とソラさんは同時に手をメガホンのようにして声を張り上げた。

「そうだぞ落ちつけ前チャンピオン!」

「離してあげてください前チャンピオンさん!」

「前チャンピオン言うなぁ! 俺はてめぇらが来るまでずっとチャンピオンだったんだ! それをあんなふざけた技で終わらせやがって!」

「ギャラクティカアッパーですね」

「その名は言わないで! なんか恥ずかしい!」

 俺は咄嗟に両手で顔を隠した。なんかもう死にたい。

「恥ずかしい技なの!? その恥ずかしい技で倒された俺の立場は!?」

「ああー、そっか。……ごめんな」

「ごめんで済むかぁ! とりあえず賞金全部置いていきやがれ!」

「それはちょっと強欲じゃねえか?」

「うるせぇ! 逆らうとこのガキの命はねえぞ!」

「二人とも、こんな雑魚の言うことを聞くでないぞ! わしなら平気じゃ!」

「いや、何一つ平気じゃねえだろ」

「何一つ平気じゃないですね」

「このわしを馬鹿にするな! 子犬くらいなら勝てるわい!」

「いやいや、さすがに前チャンピオンも子犬よりは強いだろ」

「そうですね。多分?」

「貴様らぁああああ! もう許さん! 賞金渡さなかったらこのガキをボコボコにするし、渡してもてめえらにはボコボコになってもらう!」

「お、怒らせてしまった。メチャクチャなこと言ってるぞあいつ」

「まずいですね……」

 ここでようやく俺たちの間に緊張が走る。前チャンピオンはその雰囲気を察したのか、魔王を抱えている腕の力を強めてその細い首を締めた。

「さあ、早く決めろ! 俺も気が長い方じゃないんでな!」

「ぐっ。苦しい……!」

「おいやめろ! マジで死んじまうぞ!」

「まずいですね。私の魔法を使いますか?」

 ソラさんの右手に炎が宿る。だが―――

「駄目だ。あれだけ接近してちゃ魔王に当たる。しかし、どうしたものか……」

「ほらほら! どんどん締め上げるぜ!」

「ぐ、う……!」

「!? やめろ! 賞金は渡すからボコるのは俺だけにしてくれ!」

「ダメだね! てめぇら二人ともボコる!」

「くっそ。もうダメなのか……!」

 俺は自身の無力さに絶望し、奥歯を噛みしめる。

 その時廃墟の奥から声が響いてきた。

「ところがどっこい、そうでもない」

「!? だ、誰だ!」

 廃墟の奥へと視線を送る前チャンピオン。奥からは変態が側転しながら現れ、やがて変身ヒーローのようなポーズを取った。

「天下に轟くそのパンティ! 誰が呼んだかパンツマスター! そう私こそ、パンツマスターキリサキ!」

「ぱ、パンツマスターだぁ? ふざけるんじゃねえぞ! ただの変態に何ができる!」

「どうかな? 君の腕を見てみたまえ」

「なっ!? が、ガキがいつのまにかパンツに!?」

「残念。それは私のおパンティだ」

「いつのまにか魔王さんが姉さんの隣に!?」

「どういうスピードしてんだあいつ。やっぱ変態だな」

「これだけの活躍をしているのに評価が変わらない!? 姉さん逆に凄い!」

「くっそがぁぁあ! てめえだけでもぶっ飛ばしてやる!」

「姉さん、あぶない!」

 前チャンピオンは激昂し、振りかぶったハンマーを変態に振り下ろす。

 しかし変態は動揺することなくポケットの中から鋭利なパンツを取り出した。

「グレートパンティスラッシング!」

「びゃああああああ!?」

「前チャンピオンが一瞬でパンツ一丁に……」

「しかも気絶してますね」

 ふっ飛ばされた前チャンピオンはパンツ一丁の状態で地面に頭から突き刺さる。普通死にそうなもんだが、まあ頑丈そうだし生きてるだろう。社会的には死んでるけど。

「ふっ。彼は今パンティに囲まれる夢を見ているのさ」

「悪夢じゃねーかやめてあげろよ!」

「グッナイ♪」

「聞いちゃいねえ!」

「パンティに助けられた。パンティは、強い?」

「まずい! 魔王が洗脳されかけている!」

 魔王は変態に助けられた事実を受け入れられないのか、目の中の光を失った状態でふらふらと変態に近づいていった。

「ほーらおいで魔王ちゃん。パンティを授けよう」

「あ、ああ……」

「まずい! ソラさん止めてくれ!」

「はい! 魔王さん目を覚ましてください!」

 ソラさんは急いで魔王に近づき、その体を抱きかかえた。

「はっ。わしは一体なにを?」

「ちっ」

「あからさまな舌打ちすんな!」

「私は救いの手を差し伸べたのだぞ?」

「明らかに邪教への勧誘じゃねーか!」

「おい、一体どういうことじゃ?」

 魔王は首を傾げながらソラさんに尋ねるが、ソラさんは困ったように眉をひそませた。

「えっと。一言で説明するのは難しいのですが……姉さんが魔王さんを助けてくれました」

「なに!? そうか……おい、変態!」

「なにかね?」

「その、一応助けられたわけじゃからな。えっと……あ、ありがとう」

 地面に降ろしてもらった魔王は、ぺこりと頭を下げる。こうして見ると本当にただの幼女だな。

「はわぁああああ! 魔王ちゃんマジかわゆい! ほっぺスリスリしちゃう!」

「ぎにゃああああ!? パンツが当たるからやめろぉ!」

「とりあえず一件落着、ですかね?」

「そう……だといいなぁ」

地面に突き刺さったままうなされている前チャンピオンを横目に見ながら、俺は遠くにある星空を見上げた。

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