第十三話
「―――で、なんで俺は武術大会に参加してるわけ?」
気付けば俺は巨大なコロシアムの中心で、大量の声援にさらされていた。一体何がどうしてこうなったんだちくしょう。
「頑張れコウちゃん。路銀を稼ぐにはこの大会で優勝するしかない」
「他にもっとないかな!? 地道に働くとかさぁ!」
背後の観客席で呑気に座っている変態に声をぶつけたが、割り込むようにして魔王は腕を組んで口を開いた。
「それでもいいが、それじゃと魔王城に着くのは一年後じゃぞ」
「わぁい! 僕頑張るぞぉ!」
もはやヤケクソだった。
「航太さん……怪我には気をつけてくださいね」
「それはちょっと無理かなぁ? 対戦相手ハンマー振り回してるし」
俺は光を失った目で遠くにいる対戦相手のチャンピオンを見つめる。正直この決勝に来るまでの怪我がひどくて全身が痛いんですけど。
「どうしたコウちゃん。目が死んでいるぞ?」
「これから死ぬかもしれないんだから無理もないよね!?」
「そうだな。対戦相手が心配だ」
「俺へのその信頼なんなんだよ!? こちとら喧嘩もしたことねえよ!」
「ご冗談を。五、六人は殺してるだろ?」
「だから喧嘩もしたことねーって言ってんだろ! 何その嫌なステップアップ!」
「そうじゃぞ変態、言い過ぎじゃ。せいぜい二、三人じゃろうて」
「だから殺したことねーって! 顔で判断すんな!」
「でも、この決勝戦まで来れたじゃないですか。きっと大丈夫ですよ」
「死ぬ気で来たんだよ! ていうか相手が根負けして降参しただけじゃねーか!」
どんなにボコられても立ち上がる俺に対戦相手はことごとく降参し、ここまで来た。こんな勝ち上がり方前代未聞だろ。
「いやーさすがはコウちゃん。魔王に勝った男」
「そう言うとカッコいいけど実際はブレスで焼かれてただけだからね?」
「てめぇぇ! チャンピオンである俺を無視すんな!」
変態とばかり会話していた俺にしびれを切らしたのか、チャンピオンさんが怒ってらっしゃる。やだもう。
「うわぁめっちゃキレてる。ひくわー」
「ひくなよ! ていうかパンツ被ってるお前にひく資格ねえからな!?」
「いくぞおおおおおお!」
「おびゃあああああ!?」
チャンピオンはついに俺との距離を詰め、自慢のハンマーで俺をボッコボコにする。痛い痛い痛い。やばい死ぬわこれ。
「おお……コウちゃんがボコボコにされている」
「いたそう」
「君たちもうちょっと真剣に心配してくれる!?」
「航太さん危険です! 走り回って攻撃を回避してください! 汗をかくくらい必死に走って!」
「ありがとうソラさん! 言葉の裏に邪心が見えるのは気のせいかな!?」
「くっそ! 馬鹿にすんじゃねー!」
「いってえええええ!? チャンピオンのハンマークソ痛ぇ!」
チャンピオン怒涛の攻撃を受けた俺は精神も体もどんどんズタボロにされていった。
「高凪さんの服がボロボロに!?」
「いいぞー!」
「よくねええええ! 今喜んでんのお前だけだからな!?」
「えっと、航太さん! その状態で走りながら攻撃を受けられますか!?」
「前言撤回! もう1人いたわ!」
「しかしチャンピオンのやつ、不憫じゃのー」
魔王は肘置きに肘をつきながら呑気にため息を落としている。後であいつはジャイアントスイングしよう。
「くっそ。なんなんだてめえ、は」
「お、俺だって好きでこんなとこにいるわけじゃねえよ」
疲れた様子のチャンピオン。悪いが負けるわけにはいかねぇ。路銀がかかってるからな。
「しかしのぅ。このままでは勝負がつかんぞ」
「仕方ない……コウちゃん! 必殺技だ! 必殺技を撃て!」
「はぁ!? ねえよ必殺技なんて!」
「ないなら作れ!」
「無茶すぎません!? 今ボコボコにされてんですけど!?」
「クソがぁぁぁぁ!」
チャンピオンはいよいよ堪忍袋の尾が切れたのか、振り回したハンマーで何度も俺を吹っ飛ばした。
「こ、航太さんが闘技場内を縦横無尽に……」
「いたそう」
「痛いよ!」
「いいかコウちゃん! 何か技名を叫びながら攻撃するんだ! それが必殺技になる!」
「なんだそのてきとうな教えは!? そんなん通用するわけねえだろ!」
「やらないと痛いのがずっと続きますけど」
「やります!」
仕方ない。なんだかわからないがやるしかねぇ。えーっと必殺技名を叫びながら攻撃だよな。って必殺技名なんてすぐ思いつかねえよ。
そうして考えを巡らせているうちに、チャンピオン渾身の一撃が俺に迫ってきた。
「うおああああああ!」
「くそっ! えーっと……ぎ、ギャラクティカアッパー!」
「ぐぎゃあああああああ!?」
てきとうな技名を叫びながらアッパーカットを放つ俺。星空のような背景と共にそのアッパーはチャンピオンの顎にヒットし、チャンピオンは吹っ飛んだ。
「か、勝った! チャンピオンさん吹っ飛んだ!」
「というか闘技場の壁に刺さっておるな」
「やったぜコウちゃん! いやギャラクティカちゃん!」
「うっせー! 二度とそのネタ言うんじゃねえぞ!」
こうして俺は大切な何かと引き換えに、優勝賞金という路銀を手に入れたのだった。