第十二話
「はー食った食った。魔王、ごちそうさん」
「ごちそうさまでした」
俺たちは魔王のおごりで朝食を食べ終わり、満足そうにお腹をさする。
そんな俺たちを見た魔王はぐぬぬと悔しそうな表情を浮かべた。
「貴様ら食い過ぎじゃ! わしのお金が半分になってしまったわ!」
「私は魔王ちゃんをいただきますしたかった」
「貴様は黙っておれ!」
「しゅん」
「まあまあ、とりあえずこれからどうするか決めようぜ」
俺はじたばたしながら怒る魔王をなだめて話を始める。
その言葉を聞いた魔王は両腕を組んで偉そうに胸を張った。
「当然、魔王城に向かうぞ」
「そのためにはまずこの街を出ないとですかね」
「うむ。ならば隣町のロックフォードに向かうのが妥当じゃろう」
「ロックフォードってどんな街なんだ?」
「武術や剣術が盛んな街じゃ。主な産業は武器製造じゃな」
「な、なんか物騒な街だなおい」
その製造された武器で斬り殺されたりしないだろうな。
「安心せい。それなりに治安は良いそうじゃ。まあ魔王たるわしには関係のない話じゃが」
「子犬にも勝てないのに?」
「やかましい! じゃからそれは貴様のせいじゃと言っておろうが!」
「魔王ちゃん旅の途中で疲れて動けなくなりそうだよね」
「へ、変態に馬鹿にされた!? 貴様ぁ復活したら最初になぶり殺してやるからな!」
「落ち着いてください魔王さん。疲れたら私がおんぶしますから。ねっ?」
「馬鹿にするなぁ! 隣街くらいあっという間に到着してやるわ!」
魔王はふんふんと鼻息荒く怒りをぶつけ、ソラさんはそんな魔王を困ったような笑顔でなだめている。
そうして俺たちはなんとなーく目的地を決め、街を出発するのだった。
「疲れた。もう動けん」
「はえーよ! さっきまでの威勢はどこに!?」
「やかましい! 魔力の欠乏と共に体力も欠乏しているのじゃ! まいったか!」
「いやそんな胸を張られましても」
「えっへんしてる魔王ちゃんマジ可愛い。食べよう」
「願望じゃなくて決定事項だと!? 落ち着け変態!」
「やだ!」
「二文字!?」
「えっと。じゃあ魔王さんは私がおんぶしますね」
「ふん。まあ許そう。あの二人よりはマシじゃ」
「俺が変態と同列、だと」
「ようこそ変態の森」
「うるせぇ! 肩をぽんってすんな! 誰が仲間だ!」
俺は噛みつくように変態へと反論するが、変態はまったく俺の話を聞いておらず「あーパンティたべたい」とかほざいている。パンツで圧死しないかなこの子。
「あ、でもほら。うっすら街の輪郭が見えてきましたよ」
ソラさんが指差した前方を見ると、確かに薄っすら街のようなものが見える。無骨な建物に乾燥した大地。イメージしてた姿そのままだな。
「おお、あれが次の街か。さっさと行こうぜ」
「よぉし競争だ! ビリの人はパンティを寄越すこと!」
変態は妙に早いスキップをしながら街へと進んでいった。
「ていうか罰ゲームがエグすぎるだろ! 勝手に行くな!」
「ヒャほおおおおおお! 魔王ちゃんのパンティもーらい!」
変態はスキップで時折大ジャンプしながら街へと近づいていく。モンスターかあいつは。
「クソが! あいつにパンツはやれねえ。とにかく行くぞソラさん!」
「あっ、は、はい!」
俺とソラさんは変態を追いかけ、乾いた大地の上を全力で疾走した。
「負けた」
「結局お前が負けるのかよ! 意外と足遅いな!?」
「途中魅惑的なご婦人が多くいてな。パンティを懇願してたら遅れた」
「あ、わかった。お前バカなんだ」
「馬鹿とは失礼な! せめてメス豚にしろ!」
「そっちのがいいの!? いや呼ばねえよ注目浴びちまうだろ!」
「注目されてるのはもう今更な気はしますけどね」
「あ、うん。ソラさんはちょっと離れて貰えるかな。全力疾走で汗臭いから」
「だから近づいてるんですが?」
「開き直らないで! あなたが最後の良心なのよ!?」
マジで勘弁してくれ。パーティに一人くらい心の拠り所が欲しいんです。
「なんでも良いが、とりあえず宿を確保するぞ」
「いや。まずはパンティの確保だな」
「なんでだよ!? 宿のが先だろ!」
「私は街ごとにパンティを変えるおしゃれさんなのだ」
「おバカさんだろ! 聞いたことねえよそんなおしゃれ!」
俺がツッコミを入れると、変態はやれやれといった様子で一軒の洋服店を指差した。
「例えばだな、あの店で売っていたこの最高級パンティは素晴らしいぞ。履いてみたが肌触りも最高だ」
「へー。そういや満足気な顔してんな」
「そうだろう」
確かに言われてみれば心なしか気持ちの良さそうな顔をしている。まあ心底どうでもいいんだが。
「……ん? てかお前そのパンツどうやって手に入れた?」
「ああっ!? わしの財布がない!」
「てめええええええ! まさか全財産パンツに使ったのか!?」
魔王の財布が無い状況とあいつが新しいパンツをかぶっている事態。それらを鑑みれば真実は一つだった。
怒号を響かせる俺に対し、変態はぐっと親指を立てた。
「安心しろコウちゃん。支払いはピッタリだったぞ」
「心配してるのはそこじゃねえ!」
「まずいですね。今からでも返品できないでしょうか?」
「無理だな。このパンティはすでに私が履いてしまった」
「なんでこういう時に限って正しい使い方すんだよクソが!」
「ど、どうしましょう高凪さん。本当の本当に無一文です」
「わああああん! わしのお金が変態に! 変態のパンツになった!」
「何故泣くんだ魔王ちゃん!? やっぱり色は黒の方がよかったか!?」
「黒のがよかったぁぁぁぁ!」
「あ、はは。あははは……」
錯乱する魔王を見つめながら、俺はただ口元をヒクつかせることしかできなかった。