侍女と授業
明けましておめでとうございます。
遅くなって申し訳ないです。
今年は頑張ろうとおもいます。
「おはよう刀夜」
「んーおはよう唯」
俺はまたあの長い時間のかかる廊下を歩いて行き、広間で朝食を食べている。日本の食事と比べるとやはり少し質が落ちるが、それでも工夫の凝らされた料理が多く、それなりに美味しいのでクラスメイト達も不満はないようだ。……まぁ、たまになんだかよくわからない肉料理とか虫を使った料理を見かけるが、それらも勇気ある一部の生徒が食べている。きっと彼らはこの世界でもしぶとく生き残れるだろう。
「ねぇ、刀夜って今日なにするの?」
「……何って? 」
今日は何か予定があっただろうか? 騎士団長や王様は今日のことはなにも言っていなかったはずだが……侍女に聞いたのだろうか?
「なんか今日から戦闘訓練が始まるらしくて、聞けば魔術の制御だとかスキルの使い方とか練習するらしいんだ」
「ほーん、結構早いんだな。もっと勉強してからだと思ってたけど」
「うん、だからその勉強と並行してやっていくんだって。朝は授業、昼から訓練って感じで」
「それはまたハードスケジュールだなぁ」
俺は鍛冶師だから訓練というか鍛冶をするのか? 始めはナイフあたりからだろうか。以前、依頼でナイフが壊れた時に伝手を頼って自分専用のナイフをオーダーメイドで作ってもらったことがある。その時、鍛冶の現場を少しだけ見せて貰ったことがあるが、実際にやるとなるとどうなるか全くわからないというのが現状だ。
「だけどやっぱり早く帰りたいから。頑張らなきゃ」
「……そだな。っと、そろそろ授業なんじゃないか? 」
話していたらいつの間にかに皆朝食を食べ終わり、昨日授業を受けた部屋に向かっている。驚いたことに虫料理は全てなくなっていた。……美味しかったのだろうか?
「ほんとだ! 急がなきゃ、いこう刀夜」
唯に手を引かれて椅子から立ち上がり、部屋に向かおうとすると俺の部屋へ案内をしてくれた侍女に道を塞がれる。
「申し訳ございません。刀夜様は移動が手間ですのでこれからは割り当てられたお部屋で授業を受けてもらいます。もちろんこれからお食事などもお部屋に運ばせていただきます」
まぁ、当然といえば当然なのか? 確かに移動の手間もあるし、1人でいられる時間が増えるのは俺にとっても悪くない。それどころかいろいろと動きやすくなるのは良い。でも食事をここから持ってくるとなると食べるときには冷めてそうだな。ただでさえこの世界━━この国以外は知らないが━━は日本よりも……いや、日本と比べるのが間違いか? とにかく娯楽の少ない世界だから食事は大事なんだが。仕方ない。
「わかりました。それで授業は貴女が? 」
「いえ、別の侍女が専属で就きますので彼女にやってもらいます。それと授業だけでなく、身の回りの世話も彼女にやってもらいます」
専属の侍女が身の周りの世話か……少々動きにくくなるのは厄介だが、まぁ魔王を倒す勇者として召喚されたから例え非戦闘職でもそれなりに優遇されるのか。それに監視の役目もあるんだろう。
「えっと……わかりました。部屋で待っていればいいですか?」
「はい、後程侍女を向かわせます。それでは失礼します」
「へぇ、凄いね。専属で身の回りの世話とか全部してくれるのか〜」
「ん? 唯達はないのか? そういうの」
俺だけってことはないはず。少なくとも戦闘職の勇者の星野くらいにはいないとおかしいだろう。それとも後からそういう話がでてきたりするのか?
「そういうのは星野君が断っちゃったからね、皆さんの手を煩わせるのは悪いからって」
ああ、なるほど。あいつなら言いそうだ。俺もそうすればよかったかもしれないが、過ぎてしまったことはしょうがない。それに専属なら気になったことがあれば随時聞けるだろうしその辺りはプラスになるか。
「じゃ、そろそろ行くね、勉強とか頑張ってね」
「おう、そっちも頑張れよ」
さてと、それじゃあさっさと戻りますか、部屋に着くまで時間がかかる。それと不知火君だっけ、彼にも話を聞いておかなければいけない。他にもやらなければならないことがたくさんあるからな。
♠♤♠♤
俺が部屋に着いてから約10分後くらいに、最初に俺をこの部屋に案内した侍女がやってきた。その後ろには、歳は同じくらいか少し下で背は俺より少し低く、案内をしてくれた侍女よりも少しスカート丈の短い侍女服に、服の上からでもわかる大きさの双丘。こちらを興味深そうに眺める碧眼と長く青い髪を首の後ろで束ねた、顔立ちは少し幼さを感じさせる綺麗というより可愛い系の、おそらくこの世界でもかなり上位の容姿を持つ女性。……簡潔に言うとロリ巨乳の美少女がいた。
「彼女がこれからクロギリ様の世話をする、メリルです。何かあれば彼女にお申し付けください。それでは私は失礼いたします」
そう言って名も知らない侍女さんは帰っていった。部屋に残されたのは俺とメリルさんという女性。というか少女と二人だけ。……だが動じない。俺は唯という美少年のおかげで耐性がついている。アニメや漫画のような変にこじらせた童貞共とは違うのだ。しかしながら仕事柄美人や美少女というのはよく見るのだがその中でも彼女は群を抜いていると思う。この部屋に来るまでにも何人か他の侍女さん達を見かけたがやはり彼女ほどの容姿の人はいなかった。これは他の戦闘系勇者達に侍女をつけることが出来なかったからせめて俺にでも宛がってなにか情報を得ようという腹積もりだろうか。ふっ、私がそう簡単に色仕掛けに引っかかると思うなよ?
「えと、メリル・スフィリアです。よろしくお願いします」
あ、はい。引っかかります。彼女なら全然OKです。身長が低いからちょっと上目遣いで遠慮がちな挨拶。なによりもその天使のようなアニメ声が素晴らしい! 何度も死にかけたけど、この異世界に転移出来て、こんな可憐な侍女が専属で付くなんて、本当に今まで生きてて良かった。おっと、返事しなければ。
「こちらこそよろしくね、メリルさん」
そう言って手を差し出す。仲良くなるためにはまず最初にどれだけ近づけるかが鍵だ。最初から名前で呼ぶことでこちらから一気に距離を詰める。そして握手でパーソナルスペースにも踏み込む。だが、露骨にしてはいけない。あくまで自然に挨拶の流れでの握手だ。
「それで、あの侍女さんからはメリルさんが勉強とか身の回りのことをやってくれるって聞いたけど……」
「はい! 私も同じようなことを侍女長から言われているのですが……」
食事はさっき広間で食べたばかりだし部屋もまだあまりつかってないから汚れてはいない、となればもう勉強しかない。昨日の授業ではこの世界には魔術があることや、様々な人種が存在していることなど基本的だと思われることを大まかに説明してもらった。
「なら、早速で悪いんだけど授業をお願い」
「はい! 昨日はどこまで説明をお聞きになられましたか? 」
「ああ、最後は確か━━━」
♤♠♤♠
俺の授業は途中で昼休憩を挟みつつ、外が夕日に照らされてオレンジ色に染まるころに終わった。端的言ってメリルさんの授業はわかりやすく、時間が経つのを忘れたようで気がつけばお昼、気がつけば夕方といった具合だった。いや、騎士団長の授業中に早く終わらないかなとか時間経つの遅いなとか思ってたわけじゃなく、やはり筋骨隆々な男性よりも可愛らしい女性ほうがモチベーションは上がるのだ。カワイイは正義なのだ。
基本的にこの世界では日が出ているうちは仕事などをして沈むころには寝るという生活をしている。故に現代日本のような残業ばかりのブラック企業は数少ないのである。まぁ一部どこかの城の文官とかはランプに火を灯し書類と格闘するらしいが。とにかくこの世界ではすでに遅い時間であるため、晩御飯を運んで来てもらい、食べたあとメリルさんには今日はもう寝ると言って下がってもらった。明日からは本格的に朝から晩まで付きっきりだ。すでに隣の空室に荷物を運んでいると言っていた。朝も起きれないようなら起こしてくれるとも。天使である。まぁ、明日以降のことはとりあえず置いといて。
メリルさんの授業はこの国や諸外国の大まかな歴史の話からだった。西の帝国は昔から軍事に秀でていて魔族達との戦争中も国土を拡大していったとか、商人達のよく集まる街が貿易都市となりそのまま独立した国があるとか。
そして、この国では王があれだけ若いせいなのか前王の政治と現在の政治は大きく変わっているらしい。例えば、前王はかなりの選民思想を持ち、獣人の排斥などを唱えていたらしいが、あの若き王は全くそのようなことはなく亜人達を積極的に受け入れようとしたり、街のスラムや孤児達のための公営事業も考えているらしい。ちなみに亜人族というのは獣人も含め、エルフやドワーフといった者達の総称のようなものだ。魔族や亜人達と争っていると聞いていたが、亜人は一部の者達だけだそうだ。大変立派である。獣人といえばモフモフと相場は決まっている。排斥などとんでもない。私はケモノスキーなのだ。っとこんなことを考える暇などない。
これは偏見かもしれないが、親の思想をそのまま受け継ぐというのはよくあることだが、その全く逆というのはかなり珍しいだろう。以前依頼でお金持ちのお嬢様を護衛したことがあるがその娘は……普通だったな。うん。親はかなりアレだったけど思ったより逆ってそんなに珍しくないのか。反面教師ってやつだな。それで、なに考えていたんだったけ? ……まぁいいや、この世界にまだ体が慣れてないのか考えもまとまらないし。地球ではすぐに適応できてたんだが、大気中の魔素とやらが原因だろうか? 地球より濃度が濃いとかなんとか。なかなか寝付けないからこのまま考察を続けよう。そしたらいつの間にか眠っているだろうし……。あ、不知火って人のとこに行くの忘れてた。
ちょっと読みにくかったかな?そうだったらすまない。