部屋と工房
眠れなかったので勢いで書いて勢いで投稿。後から修正する可能性大。
━━カーン、カーンと鉄を叩く甲高い音が部屋に鳴り響く。その部屋に入った瞬間、熱気が体を包み、ほんの数秒で全身から汗が流れ落ちる。
俺は今、この工房で一人、一心に鎚を振り、不純物の混じる鉄を叩く。額から流れ落ち、目に入った汗に悶えつつ、ある一つのことだけを考える。
━━━選択、ミスった。
俺の脳内をその言葉が支配していた。
事の始まりは昨日の晩。この異世界に召喚されてスキルやこの世界のことを少しだけ教わった後だ。
「あ、そういえば刀夜のステータス見せてもらってない!」
「そういえばそうだな。悪いな、唯のは見せて貰ったのに」
騎士団長はクラスメイトのステータスプレートを見つつその内容を紙に書き写しているので列の進みは某遊園地の人気アトラクション並みに遅い。それに本当にスキルが発動しているかわかるし、発動していなくても唯なら口止めをしておけば他の人に言うことはないから安心だろう。
「んー? 鍛冶師? 」
どうやら成功しているようだ。使ったスキルは隠蔽。このスキルはその名の通り何かを隠すスキルで、さっきも説明を聞いている間、隠蔽を発動させながら隠し持っていたナイフで指を傷つけ壁に血文字を書いていたが、誰も気づかなかった。もしくわ気づいてはいたがそれが自然のことのように思っていたのかはまだわからないが。とにかく今俺のステータスはこう表示されている。
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黒霧 刀夜 男 16
【ジョブ:異世界の暗殺者 レベル ***】
【セカンド】ジョブ: 鍛冶師
筋力:80【1500】
体力:70【3000】
敏捷:50【7500】
魔力:40【2500】
耐性:100【5000】
ジョブスキル
・鍛冶・彫金【・暗殺・暗器・気配感知・暗視・気配遮断・隠蔽・必殺・感覚強化・調薬・縮地・真贋・影魔導】
スキル
・耐性(火)【・操糸術・投擲・武術・剣術・射撃・対人戦闘・開錠・変装・遠見・諜報・催眠・催淫・観察】
称号
・転移者・異世界の鍛冶師【・異世界の暗殺者・殺戮者スレイヤー・影に生きた者】
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俺には【】の中が見えているが他の人には見えていないらしい。余談だがステータスを下げて表示することはできるが上げて表示することはできない。最初は鍛冶師ではなく暗殺者のほうを見せようと思ったが、問題になりそうなのでやめた。
「どうした? 唯 」
「ううん。なんでもない。それにしても生産職か~。困った。」
「なにがだ? 」
「いや、だって生産職って戦闘に参加しないでしょ? 僕は回復職だから戦闘に参加しないといけない。つまり、刀夜と離れ離れになっちゃうんだ。本当に困ったなー」
そう、ジョブはそれぞれおおまかに分類されていて、例えば剣士や魔術士は戦闘職。修道士や僧侶などは回復職。そして鍛冶師や錬金術師は生産職に分類される。騎士団長の説明では修道士など回復職は戦闘に参加するらしい。まぁ戦闘で傷ついた仲間を癒すのが仕事だし、街まで帰ってきて癒すとなれば帰ってくる途中で死んでしまうかもしれないから当然だな。
「ん、まぁ前線で武器が壊れるとかそういうことがあるかもしれないし、回復職なら教会とかでも需要があるだろうし、必ずしも離れ離れになるわけじゃないだろ? 」
「そう、だね。うん。そろそろ僕の番だ、行ってくるね」
「おう、いってらっしゃい」
「な! 君が聖女か! だがしかし男? むぅ、これは……。ああ、心配しなくていい大丈夫だ。次の人を呼んできてくれ」
そんな声が聞こえてきた。その後すぐに唯は俺に近づいてきた
「なにかあったのか? 」
「なんでもないよ。たぶん男なのにジョブが聖女だったから驚いたんだと思う」
「そうか。ならいいんだ」
「次は刀夜だよ。いってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」
ステータスを見せに騎士団長のいる個室に入る。
「よく来てくれたな。さっそくで申し訳ないがプレートを見せてくれ。ふむ、トウヤ君か。」
思ったよりも早いスピードでペンを紙に走らせていく。そこにはやはり暗殺者の文字はない
「これで終わりだ。たしか前に召喚した不知火 錬次君も鍛冶師だ。彼に会ってみるといい。それとこれが工房の鍵だ。生産職は一人一人自分の工房を持ってもらってそこで寝泊まりもしてもらっている。そのほうが集中できるからな。後で案内させよう」
「わかりました。ありがとうございます」
これは、俺にとって都合がいいな。戦闘職とかだと相部屋だったのかもしれないし、そうなると自由に動けないからな。それに不知火 錬次、明日訪ねてみるか。
「クロギリ様のお部屋兼工房へご案内します。こちらへ」
今はステータスの確認が終わった後、広い、パーティー会場のような場所で夕食を食べ、侍女に部屋に案内してもらっているところだ。まぁステータスを確認しているときに星野が勇者だと発覚したのだがどうでもいいので割愛。
「ん? あの、どこまでいくんですか? 」
「はい? 工房までですが? 」
「それってあとどれくらいで着くんですか?」
そう、夕食が終わってからすぐに工房へ移動したのだが、すでに20分は経っていると思う。
「そうですね……あと少しといったところでしょうか」
「……そうですか」
遠い。とにかく遠い。これじゃあ行き来がかなり不便だ。いやだからか他のクラスメイトは比較的近い客用の部屋に案内されたが、それは城の訓練場が使えるからだ。対して俺は少し遠い工房を使う。故に行き来がしずらいため工房と部屋を一緒にしているのだろう。
「着きました。ここがクロギリ様のお部屋になります。そして部屋の中の階段で下に降りるとそこがクロギリ様専用の工房になっております。部屋も自由に使ってください。細かい説明は明日の予定になっておりますので、今日はもうおやすみください。それでは、また明日の朝迎えに行きますので。失礼します。」
ようやく着いたか。とりあえず部屋の確認だな。まず、ここは王城に続く2階の廊下の最奥で角部屋だ扉には『クロギリ様』というネームプレートもある。向かい側の部屋と隣の部屋は空いてるらしく斜め向かいの部屋には扉に『シラヌイ様』とあるので、そこが騎士団長の言っていた不知火君の部屋だろう。とりあえず部屋の外これくらいか。
部屋の中に入ってみると暗かった部屋が明るくなった。(魔力を流すことで光を放つ鉱石の効果らしい)案外広く綺麗で窓は2つ、ベッドが一つ、タンスが一つとテーブルと椅子、トイレや風呂に続く扉というシンプルな部屋だ。特にトイレと風呂には安心した。先に召喚された人たちが頑張ったのだろうがトイレは衛生面に問題はなく、風呂も広かった。部屋の隅にある木製の階段を下ると鍛冶に必要そうな道具などがそろっている。ちなみに工房内は真っ暗だったが暗視スキルを使ったら昼間のように見えた。
「特に危険はないようだしそろそろ寝るか」
そして異世界のベッドは思ったよりも柔らかかった。
超不定期。