夜空の下で…
間近に迫るような星を見上げて、ここってやっぱり高いんだな、と改めて思った。
もう少しで届きそうなくらいに近くに見える星たち。
でも彼らは何億光年と遠くに在るんだ、と教えてくれた人がいた。
とてもとても遠いところからあの光は、私たちを照らしてくれているんだよ、と。
僕には何億光年、というのは正直よくわからなかったけど、とっても遠いんだということは何となくわかった。
遠い遠いところから降ってくる星の光は暖かで、見上げればいつでも星のことを教えてくれたあの人の姿が浮かんでくる。
いつの間にか家から姿を消していたあの人。戻ってこないあの人。
僕の真っ黒い毛並みと金銀の左右色の違った瞳(オッドアイ、と言うんだって教えてもらった)を、“夜空みたいでとっても綺麗だね”と言ってくれた人。
不吉な毛色に不気味な目だと言って捨てられた僕を、拾って育ててくれた人。
今はどうしているんだろう?ずっと家にも帰ってきてないみたいだし。
そういえば僕はあの人の名前も知らないままだったな。僕の言葉を分かってくれるんだったら訊くこともできたのに。
あの人とよく並んで星を見上げた屋根の上から街を一望しながら、僕はやっぱりあの人のことを考えてしまっている。
もう帰ってこないのかもしれない、頭ではそうわかっていても、やっぱり待ち続けてしまっていた。
僕のためにと開けっ放しの屋根裏の窓からはもう雨が吹き込んできていて、中の棚の天板の塗装を剥がし始めている。
また会いたいよ、また僕に触れてよ、また、僕を呼んで…
『早く、帰ってきてください…』
夜の街に、猫の哀しげな鳴き声は微かに反響して、儚く溶けていった。