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第十八章 国王、当て身を食らわせる

 城下町へと一路進む一行。

 途中、雨が降ったりルクシオの正体がケビンにバレたりはしたが、何とか目的地へと辿り着くことが出来た。



 人々が多くすれ違う城下町。

 アルミレッドが用意した通行証で難なく入口の門を通過すると、そこで一旦馬車を降り、徒歩で城下町へと繰り出す。


「ふわあああー!」


 城下町に入った途端、大きな声をあげて驚いてしまうシルビア。

 それもそのはず。エトワールでも見たことが無いほどの、高くて頑丈な建物が所狭しとそびえ立っていたのだ。


「随分、強固な造りなのね」


 辺りをキョロキョロと見渡すシルビアに対して、アルミレッドが平然と町の様子を説明する。


「うむ、ここは城を守る最後の砦のような物だからな。守備も兼ねて、こうした強固な造りにしてあるのだ」


「へええー!」


 そんな二人の後に黙って続きながら、ケビンはちらりちらりと横を歩くルクシオを眺めていた。


「まさか、神獣様だったなんて……」


 未だに衝撃が忘れられない。

 ケビンは遠い目をして、その秘密を知った日の事を振り返っていた。





 ケビンが住んでいる町を出発した夜。夕食を配るために振り返った荷台を見て、ケビンは言葉を失った。そこには、虎の耳と牙と尻尾を生やしたルクシオが当然のように座っていたからである。


「ん、なななな?!」


 走行中にも関わらず、ルクシオを指差して震えるケビン。その様子を見やって、シルビアが笑顔のまま答える。


「ああ、ケビンさんはルクシオのこの姿を見るのは初めてよね?ルクシオはレイリーンさんの子供なの。普段は人間の姿に似せているけれど、夜になると本性が少し出てしまうんですって」


「はいい?!」


 当然のように答えるシルビアの気が知れない。ケビンは目をひんむいたまま、急いで馬車を停車させた。そして、今度はアルミレッドに向かって問いを口にする。


「レ、レレ、レイリーンっていうのは」


「レイリーンの森の、レイリーンだ」


 一番まともであると思っていたアルミレッドまでもが普通にそんな事を口にする始末。


「さ、さいですか……」


 どこかふわふわとした世間知らずの雰囲気を持ったシルビア。無口だが、的確な指示を下すアルミレッド。そして、小生意気だと思っていたガキがまさかの神獣だと言う。


「何者なんだ、あんたらは……」


 途方に暮れたように呟くケビンに向かって、当のルクシオがにっこりと微笑んだ。


「ねぇ、そんな事はどうでも良いからさ。早くご飯用意してくれない?僕、お腹空いちゃった」


 まるで舌舐めずりするように自分を見るルクシオの視線を感じたとき、ケビンは決意を固くした。


 絶対に、深くは関わらない。例え、どんな秘密があろうとも目を瞑り、耳を塞ごう。


「俺は何も知らない。何も見てない」


 そんな念仏のような呟きが、城下町へと向かう最中、何度も口に上ってきたのだった。





「はあああ」


 そうして、何とか辿り着いた城下町で、こうして一行と共に歩いている自分。ケビンは目的を果たした事で、すぐにでも帰ろうと思っていたのだが、なぜか家族に土産でも!と促す一行に引き留められ、城下町の内部へとついてきてしまっていた。


「あ、あの、やっぱり俺は」


「あら?あれは何かしら?」


 帰ります。そんな一言でさえも興奮したシルビアの言葉に遮られる。


「うおおお」


 後ろをトボトボと歩くケビンを鼻で笑うと、ルクシオが耳打ちしてきた。


「諦めなって。良いじゃん、都会見物だと思えばさ」


「うううう」


 俺は平凡な人生を愛してるんだよぉ……。そんなケビンの胸中を一切考慮することなく、一行は楽しげに城下町を進んでいく。






「おっ、やーっとご到着か!」


 日が高く登り、昼食時になった頃。

 一通りの散策を終えた一行が、食を求めて店を物色してる最中。背の高いアルミレッドに向かってこんな声が掛けられた。


「へーか!へーか!へーかってば!」


 少し遠くから、アルミレッドに向かって掛けられ続ける声。その耳なれない言葉に向かって、シルビア達が反応を示し始める前に、アルミレッドが顔色を変えてその声の主へと襲いかかった。


「へー……ぶふぉっ」


 声の主は、アルミレッドから激しい当て身を食らい、その場に膝をつく。


「えっ、だ、大丈夫ですか?!」


 アルミレッドの突然の乱心に戸惑うシルビア達だったが、とりあえず急いでその場へと駆け寄る。


「あ、あの……?」


 うずくまる人物は、少し涙目になりながらも艶のある茶髪をかきあげて、シルビアに弱々しく微笑んで見せた。


「だ、大丈夫ですよ、このくらい。騎士団長たるもの……ぶふぉっ」


 痛みが和らいで来たところに、再びアルミレッドから鉄槌が下される。


「ア、アルっ?!」


「だ、旦那ぁ」


「お前、やるじゃん」


 約一名、反応がおかしかったが、一様にアルミレッドの常ならぬ行動に驚いている。そんな周囲の反応を目にしたアルミレッドは、うずくまる人物が声を発するより早く、言葉を紡いでいく。


「この者は、俺の知り合いだ。少し話をしたいのだが、良いだろうか?」


「え、ええ、もちろん……」


 知り合いに会った途端に当て身を食らわせる物だろうか……?


 シルビアは驚き、ケビンは怯え、ルクシオは楽しそうに微笑んでいたが、アルミレッドは気にする事なく、茶髪の男を引っ張りあげる。


「さ、早く行こう。少し人目を引いてしまった」


「へ、へーか……いだだだ」


 男を掴む腕の力が少し強くなった事に気付いた者はいなかった。






「グランさんと仰るのですね!」


「う、うん、まぁ」


 昼食を兼ねて、近くにあった食堂へと足を運んだ一行。少し離れた所では、アルミレッドと茶髪の男が二人で何やら問答を繰り広げていたが、しばらくすると話がついたのか、男を伴ってシルビア達の元へと帰ってきた。


「俺の友人で、名前をグランという」


 アルミレッドから端的に紹介された、グランという男はなぜか挙動不審で、シルビアが笑顔で問い掛けても顔を正面から見ようとはしない。


「アルとは長い付き合いなのですか?」


「へー……じゃなかった、アルミ……じゃなかった、ア、アルとは昔からの付き合いだよ!」


 そんな調子で、何を尋ねても何故だか口ごもるグランと言う男。シルビアは首を傾げながら、グランの隣に座るアルミレッドに向かって口を開いた。


「もしかして、グランさんもアルと同じ近衛騎士なのかしら?」


「ぶふぉっ!」


 飲んでいた茶を盛大に吹き出したのは、我関せずで通していたケビンだった。


「ここここ、近衛、騎士?!」


 ケビンはアルが近衛騎士だということを初めて知って、倒れそうなほど血の気が引いていた。近衛騎士といえば、エリート中のエリートである。そんな人を自分のぼろ馬車に乗せ、走って来たかと思うと畏れ多さから真っ青になってしまう。


「なんかさぁ、皆微妙に噛み合ってないよね」


 ルクシオだけは、一人落ち着いてそんな事を呟いていた。

 アルミレッドは、自分の身分を明かす日がついに来たことを悟っていたが、グランに対して咄嗟に口止めしてしまった自分に戸惑っていた。


「あのさ、陛下……」


 そんなアルミレッドの戸惑いに気付いたのか、吹き出された茶に皆が集中している隙を見計らって、グランが小声で声を掛けてきた。


「手紙もらって、急いで来たっていうのに……これってどーゆー事?」


 グランが不思議がるのも仕方がない。手紙を貰ってから、馬を走らせ急いで駆けつけて来たというのに、会ってみたらこの様子だ。


「奴隷の事とか、至急調べなきゃいけない事があるんだよなぁ?もう身分、隠してる場合じゃないんじゃ……」


「それは分かっている」


 アルミレッドは、その表情を険しくしてグランを睨み付けた。しかし、多くの戦場を共に駆けてきた友人には通用しない。グランは青く澄んだ瞳を心配と憂いから曇らせると、アルミレッドの肩をそっと叩いた。


「とりあえず、城に戻るまでは騎士で通そう。だが、城に戻ったらきちんと説明してやれよ」


 そう言うと、正面で茶を拭きつつ、ケビンを慰めているシルビアを見やった。


「分かっている……分かってはいるんだ」


 アルミレッドは、自分の気持ちが固まらず、そんな自分の弱さに嫌悪感を抱いていた。





 城下町へと辿り着いた一行だったが、その胸中は皆ばらばらで、これからの事を思うと心が痛くなるアルミレッドであった。

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