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第十三章 王女、泣きたくなる

少し、更新が遅れてしまい申し訳ないです。


暖かい目でお読みください。

お願いします。

 レイリーンの薦めもあり、そのまま棲みかにて一夜を過ごした一行。


 明くる日、シルビアが寝ぼけ眼を擦りながら、昨日の応接室に向かうと、ルクシオが既に準備万端の格好で、待ち構えていた。


「おはよう、シルビア!今日は絶好の旅日和だね」


「……お、おはよ……ルクシオ。本当に行くつもり、なんだね……」


 一晩寝たら、もしかして考え直すかも。という淡い期待は今、粉々に砕け散ってしまった。

 シルビアが眉間にシワを寄せ、これからの対応策を考えていると。

 いつの間にか、シルビアのすぐ隣にルクシオがぴったりと腰かけていた。


「……えっと、あ、あの」


 驚くシルビアに構わず、ルクシオは鼻をシルビアの肩の辺りに擦り付けると、スリスリとじゃれるように触れてくる。


「んー!やっぱりシルビアは良い匂い!なんかフワーッてなるんだよねー……」


「ちょ、ちょ、や、やめなさい!」


 いくら子供の姿と言えど、男の子である。こんなに密着されるのは何だか居心地が悪い。


「えー、いーじゃーん!減るもんじゃなし……」


「へ、減るとか、減らないとかじゃなくて……!」


「シルビアに触れるな、子虎」


 シルビアの困っている声を聞き付けたのか、アルミレッドがノックもなしに部屋へと入ってきた。

 寝起きなのか、頭に寝癖がついている。

 寝癖のアル、ちょっと可愛いかも……。

 なんて、目の前で言い合う二人を尻目にシルビアが遠い目で考えていると。


「あらあら、何をお騒ぎになっているのかしら?」


 レイリーンまで姿を現した。

 さすが、神獣らしく、朝から麗しい姿である。窓から差す日を浴びて、髪やら瞳がキラキラと輝いている。

 本当に神の側に居るのね……。

 昨日は疲労と驚きであまり実感出来なかった感慨。シルビアがそんな感情にうっとり浸ろうとした時。


「だから、シルビアは良い匂いがするんだって!思わず嗅いじゃうのー!」


 そんなルクシオの悲鳴が部屋中にこだまし、朝の雰囲気をぶち壊していった。






「シルビアさんの匂いねぇ……」


 朝の騒動のあと。

 レイリーンとルクシオが作った素晴らしい朝食を前に話が弾む。

 朝食は、ふんわりと焼けたパン、半熟の目玉焼き、カリカリに焼いたベーコン、それに揚げたてのフライドポテトまでついていた。

 ルクシオは、どこにそんなに入るのかと驚くほど、豪快に食べ始め、大量に胃袋の中に詰め込んでいく。

 神も食事をするんだな。などとシルビアは変な事に感心してしまう。

 そんな息子の姿を愛おしそうに見やりながら、レイリーンが紅茶を片手に口を開いた。


「シルビアさんは、この国の方では無いのよね?」


「ええ、海を渡ったエトワールという国から来ました」


「……そう、エトワールから……」


 レイリーンは、何かを懐かしむように金色の瞳を細めた。


「その国の王族、なのですわよね?……でしたら、あなたも神の血を引いているのね」


「……えっ……」


 シルビアは、驚いて手にしていたポテトを落とした。

 確かにエトワール王国の王族は古くは海神の血を引くと言われている。しかし、それはどんな書物にも記録されていない事柄でおとぎ話のような誇張された話だと思っていたのだ。


「……あー、だから、僕にも違いが分かるのかなぁ?」


 ルクシオは口をモグモグと動かしながら話している。


「……そ、そんなはずは……」


 そう言いながらも、シルビアは妙に確信めいた物を感じていた。ルクシオは会ったばかりのシルビアの匂いを気に入ったと言っていた。それが、シルビアの中に流れる薄い神の血を感じ取っていたのだとしたら、それは確かに神の血を引くという事になる。

 半信半疑で、レイリーンとルクシオを交互に見やるシルビアにレイリーンは安心させるかのようにニッコリと微笑んだ。


「……そうね、私とルクシオは獣の神であるから、匂いには敏感なの。ルクシオはあなたから薫る神の血の匂いに引かれたのかもしれないわねぇ。……それに」


 先程とは一転、じっと真剣な眼差しでシルビアを見やると、レイリーンは一人納得するように頷いた。


「うん、間違いないわぁ。あなたはその神に特別な加護を授けられているわ」


「……か、加護?」


 何の事だろう?シルビアは不思議そうに頭をひねった。

 隣に座るアルミレッドは、会話中ずっと黙々と食事をしていたが、神の加護の話になると、ピクリと反応し意外そうにレイリーンを見やった。


「……あ、あの、何かの間違いでは無いですか?私に加護だなんて……。そ、その私のお母様ならまだしも……」


 シルビアは自分の母の面影を思い出していた。同じ色彩を持ちながら、淡く発光する髪や瞳を持っていた母。

 その母であれば、神の加護を持っていたとしても、充分に頷ける話だった。

 レイリーンはため息をつきつつ、驚くべき事を口にした。


「私は、あなたのお母様にお会いしたことは無いから何とも言えないけれど……。あなたは、確かに神の加護を授かっているわ。だって、あなたの姿はエトワール王国に居る海神の姿にそっくりだもの」


「……」


 シルビアは言葉の意味が分からず、困惑した。見るとアルミレッドも同じ反応をしている。

 それは、そうだろう。

 エトワール王国の王族として、美しくないからと城の中で隠されたシルビアの存在。

 その姿が、信仰されている海神とそっくり等と言うことがあるわけがない。

 エトワール王国で他の王族からのシルビアへの扱いを見ているアルミレッドとしても信じられないことなのだろう。

 二人は息を詰めてレイリーンを見やる。


「……な、何かの間違いでは」


「いいえぇ。そんなはずは無いわ。私、遠い昔ですけれど、そちらの神と交流したことがございますもの」


 レイリーンは、楽しげにコロコロと笑う。


「漆黒の黒髪に濃い緑の瞳を持った、凛々しい男神でしたわぁ。奥様とそれはもう仲睦まじくて」


「漆、黒の黒髪……」


 シルビアは言葉が継げなかった。漆黒の黒髪に、濃い緑の瞳。それは確かにシルビアを象徴する色だった。


 では、本当に……?


「そ、そんな事って……」


「……それで、その海神の加護とはどういった物なんだ?」


 動揺して言葉が継げないシルビアに代わり、それまで話を聞くことに徹していたアルミレッドが疑問を口にした。


「そ、そうだわ!その加護とは何なのかを教えて下さい!」


 シルビアも、気になっていたことを慌てて問い詰める。勢いがつきすぎて、目の前の紅茶を溢しそうにさえなってしまった。


「ふふふ。それはねぇ……」


「そ、それは?!」


 シルビアとアルミレッドは、レイリーンの二の句をゴクリと喉を鳴らして待つ。そんな中、ルクシオただ一人は早々に興味が無くなってしまったのか、目の前の食事を平らげることに専念していた。ルクシオが食器をカチャカチャと鳴らす音が室内に響く。



 カチャカチャ



「それは…………分からないわ」



 モグモグ、ゴックン



「……」


「……わから、ない?」


 ルクシオの食事中の音が響く中、シルビアはまたもや混乱していた。

 万が一、神の加護を授けられていたとして。同じ神でありながら、その内容が分からないなんて事があるのだろうか?そもそも、そんなシルビア本人でさえ分からない加護を持っていて、何の意味があるのだろうか?


 謎である。


 レイリーンは、シルビアの落ち込みぶりを気にしたのか、ごめんなさいねぇ。と謝りながら申し訳なさそうに口を開いた。


「私は、加護を授けた本人では無いから、詳しくは分からないの。でも、あなたが本当に必要となった時、その加護の力を発揮するはずよ。あなたは神に同じ見目を与えられるほど愛されているのだもの」


 だから、そんなに落ち込まないで?というレイリーンを前にして、シルビアは思う。




 そんな訳の分からない加護は要らないから、私の髪と瞳の色彩を母と同じ様な淡く輝く色彩にして欲しかった……。そうすれば、こんな意外な事だらけの仕事探しに出る事もなかったのでは……?



 そんな事を考え、思わず机に突っ伏して泣きたくなった。






 陽は高く登り、今日もレイリーンの森を美しく照らし出している。

 新たな仲間を加え、一行は城下町を目指す。





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