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ドサっと落ちた場所はまったく見たことのない、現代的かと言えばどちらかというと恐竜がいた時代って感じだ。
「ダイジョウブデスカ?」
声はえらく高いところから聞こえた。
「ええ、ありがとうございま・・・す?」
上を見るとドラゴンの顔があった。
あばばばばば。
泡を吹き倒れた。
もう一度起き上がると同じ場所だった。今度はあたりに誰もいない。しかし足元には果物のようなものが置いてある。スモモに近い。
「すっぱ!・・・でも意外といける」
「キガツキマシタカ」
あばばば。
気を失う前にひっぱたかれて目が覚めた。
「キガイハクワエマセン。アンシンシテ」
どこか女性のような感じがした。声だけでは分からない。よく見ると美しい白色をしたドラゴンだった。目も澄んでいてとても凶暴とは思えなかった。自然と落ち着いてきた。
「君の名前は?」
「ワタシハ・・・」
バチンと叩かれる痛みを感じ目覚めると白衣を着た女性が立ってた。
「なーにをしとるかね君は」
「・・・相変わらず美人ですね。いてて」
この人はこの施設の研究員の一人で鈴木さん。
「30間近の女性をたきつけるとどうなるか君に後悔させようか?」と言いながら一枚の紙を取り出そうとした。
「申し訳ありませんでした」
出された紙を見ると婚約届ではなくモンスターのリストだった。
「君がパートナーとしたいモンスターを決めるというから付き合ってあげているんだ。さっさと決めてくれ」
下を見ると小さなドラゴンが隣で白衣の後ろに隠れていた。綺麗な白色をしているからかすぐに目にはとまらなかった。
「あの、ここには後ろにいる小龍のような色をしたドラゴンがいますか?」
「・・・・・ここが出生って話はどこにも出回ってないはずなんだがな。どこから情報を手に入れた?それとも誰かからの紹介だったか?」
怖い顔をしている。心なしか後ろの小龍もおびえているように見える。
「いえ、ここに倒れている時変な夢を見まして。そこで、たぶん後ろの龍とは違うタイプでドラゴンタイプだった思うんですけど巨大な白いドラゴンに会った夢を見まして。たしか名前は・・あれ?なんだっけ」
「シロナ」
「そうシロナで・・・え?」
鈴木さんはこちらをじっと見つめた。何か疑いがかけられているらしい。
「こい」
それから一言も口を聞かずに施設の研究所に連れていかれた。いろいろな科学者が何やらモンスターの絵や骨格などを見ながら話していたり忙しそうだった。その中で一人酒を飲みながら女性と子供の写った写真とにらめっこしている人の元へと向かった。
「所長、少しお話が」
「うう・・今日息子との面会・・断られちゃっ」
ひっぱたかれると奥の部屋へと無残な男と共に案内された。
「この少年が世間では出回っていないシロナの名と出生場所のここを知っていました。記者のようには見えませんし情報を引き出そうという行動も見られませんでした」
所長があごひげに手をかけじょりじょりとした。
「きみドラゴン好きかい?」
「いえ、特別そういうわけでは・・今日も優柔不断さを直すために決めちゃおうと見に来まして・・」
動揺してるけどそれなりのコミュニケーションはとれるしそれなりの情報もくれるね。たしかに記者には見えないしそれならこんな場に呼ばれるようなへまはしないだろうし・・。
「シロナとはどこで?」
「夢の中です。夢で目覚めた場所にいて少し話をしました。どこかで見た覚えはないんですが・・」
「そりゃあそうさ。シロナはドラゴン型でも珍しい白色なんだ。色は生物の本質を表す、その通り白色のドラゴンは本来の性質とは真逆で穏やかだったんだ」
「ええ、もともとドラゴンは気性が荒く、戦いをメインにしたパートナーがよく選ぶと聞いたことがあります。だから僕も初めて見た時驚きました」
俺だって驚いてるさ。ったくどうしたもんかなぁ。
「まぁなんだ、今日はパートナーを決めるために来たんだったね。とりあえず一緒にぶらぶら見ていくかい?」
「あ、助かります」
「君は気性が荒いところがあるかね。俺に任しときな」
鈴木の肩をポンポンと叩くと酒を片手にふらふらと行ってしまった。
施設内にはたくさんのモンスターがいた。モンスター達の間には食物連鎖は無く人間が作った餌を食べて育つ。というのも個体の少なかったモンスターを子供がパートナーとして連れていくことが出来るまでに数を増やせたのはこの餌と遺伝子の改良にあった。
「君がパートナーと何をしたいかにもよるね。たとえば闘技場で戦わせたり、男だとあんまりいないけどコンテストに出したり、後は一緒にいたいだけって人も少なくないね」
「どうでしょう・・決めたパートナーによりますかねぇ・・目的が後に来る感じです」
優柔不断だなぁ。
「とりあえずいろいろ見ていく?」
ドッグゾーン、キャットゾーン、巨人ゾーンなどはとても数が多くどうにも決められそうに無かった。
「ここからは幻獣ゾーン、今でも個体数がそう多くないね。それに世話が大変なんだ。なんていうのかな~個性が強いって言うか、今までのモンスターみたいに無条件に好いてくれるような雰囲気はほとんどない」
「うーん」
ふらふらとまわっていると後ろからしらない青年がやってきた。
「よー兄ちゃん元気してるか?」
肩に腕を乗せられたがまったく知らない人だ。
「ああ、宗司くんじゃないか。そうかそうか君もだったな」
「ええ、もう決まってますがね」
クリアな窓をコンコンと叩いたそこにはグリフォンの卵があった。
「俺はこいつで大空を旅したいんだ」
「そうかそうか、じゃあ鈴木くんにそのことを伝えてくれ。俺はこの子で忙しいからな」
「おー、おっさんじゃなくて助かるぜ~。じゃあなっ」
ダッハッハと笑いながら酒をぐびっと飲んだ。
「おじさん」と小さな声がし下を見ると所長の後ろにさきほどの小龍がついてきていた。
「おっとしょんべんか」
すると怒ったように噛みついた。
「クルル!」
「分かってる分かってる飯な」
ポケットから袋を取り出した。中には赤ちゃん用の餌が入っていた。
「こいつなぁ、卵じゃない状態から生まれたんだ」
え?。
「驚くだろ?珍しい種なんだ。だから成長をゆっくり見てやりたい」
怯えやすいのかすぐ知ってる人の後ろへと隠れる。しかしゆっくりと手を出すとペロペロと指を舐めた。ドラゴンがこんな行為をすること自体とても珍しい。
「はは」
「目見開いてんぜ~。へへ、興味もってるなこの龍に。でもだめだね~」
「・・・分かってますよ」
話していると隣でパキパキという音が聞こえた。見ると卵が孵化しようとしていた。
「おいおい、この部屋では絶対孵化しないようになってるはずなのに」
中から出てきたのは青い液体だった。
「・・・失敗だったか。弔ってやる準備をしないとな」
「ちょっとまって下さい。動いてます」
まるでDNAの二重螺旋のように姿を変えた。
「イデンシ・・ケイセイ・・イデンシ・・ケイセイ」
見る見るその姿はドラゴンの子どもの姿になった。そしてケースの窓を壊して出てきた。
「アルジ・・よ・・私を連れて行ってください」
「驚いた・・まるで学習するプログラムのようだ・・」
怯え後ずさりするドラゴンを見つめながら青い龍はズンズン向かっていった。
「どうやらこの子龍を主と思ったみたいですね」
今日は珍しい体験をいっぱいする日だなぁ。
その後龍はケースに乗せられた写真を見て様々な姿を学び、同じように姿を変えた。
「どわああああああああああ、待ってくれー」
先ほどの青年の声が聞こえた。たしか名は宗司と言ったか。生まれたばかりのグリフォンが空を悠々と飛んでいた。
「おいおい生まれたばかりであんな風に飛ぶグリフォンなんて初めてみたぞ・・なんだこいつぁ面白い奴らだな」
「待てってー」
「俺は自由だぜー!この風を感じてるか相棒ー!」
「それはお前だけだー」
そのまま廊下を走って行った。
「濃厚な一日だなほんと。で、決まったかい?」
「あー、えとその」
また後ろでケースの窓が割れる音がした。そして振り返る暇もなく頭に痛みを感じた。ライオンの子どもが頭を噛んでいる。
「・・この子で」