生命の電話ボックス
建物も人もいないまっさらな土地。そこには1つだけ電話ボックスが置かれていた。
縦長の箱のようなそれの中には1人の男がいた。
男は受話器をとり番号をプッシュする。
日本は今、地方ごとに巨大な壁で阻まれていた。
他地方の人間とは直接合うことはもちろんのこと電話での会話すらも制限されていた。携帯は全て廃棄させられ実質他地方の人間との関わり合いは不可能であった。
しかし、誰が備え付けたのか各地方に1つだけ置かれた電話ボックス。それを使えば他地方との連絡が可能であったのだ。
だが、そんな物があれば誰もが使いたがることは目に見えていた。それを考慮してか備え付けた人物はその電話ボックスにある制限を付けた。
それは、会話をするに際して自分の寿命を削るという物であった。
電話ボックスから伸びる線を使用者の腕に付けることで動かすことができるのだ。
そのせいかたかだか会話のために寿命を削ろうという者は全くと言っていいほどにいなかった。
男の耳に保留音が聞こえてきた。彼は、恋人である女に壁ができる前、約束した日時に電話していたのだ。
「もしもし……」
保留音が消えか細い不安そうな声が受話器に響く。それだけで男の言いたかった言葉は消えてしまう。
「もしもし……君かい?」
男はゆっくりと口を開き話始めた。
それから1時間彼らは思い思いのことを話した。自分たちの地区のこと昔の思い出、時には笑い、時には言葉に詰まりながらも話し続けた。
やがて、電話機がこもった耳障りな音を上げた。男が電話機のディスプレイを見ると残り度数が『1』と表示されていた。
「そろそろ、切らないとね。まだまだ話したいことは山ほどあるけど……」
「うん……」
「また、一年後同じ時間に来てくれるかい?」
「うん……必ず来るから……」
「ありがとう」
ディスプレイの表示が『0』になった。二人の繋がりを断ち切るかのように電話の切れる音が鳴った。男はその場にくずおれた。
しばらくして男は顔を上げる。
「落ち込んでいる場合じゃないな。もう一年……頑張ろう!」
立ち上がった彼の顔は希望に満ち溢れていた。
今となっては販売されていないテレホンカード。携帯電話が主流だった時代には無用のものであった。しかし、この電話ボックスでそれは寿命の代わりとして使用することができるのだ。
男の命を救ったのはテレホンカードだった。
久々に更新してみました。
リハビリ的な作品なので文章とか気持ち悪いかも……
テレホンカードとか使う機会の少ない物に日の目を見させてあげたかったので書きました。
そんなテレホンカードのための物語です。
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