第八話 狼の群れ
プレイヤー全員が揃った事を確認した私は、全員にクエストを強制的に受領させる。
内容はモンスターの討伐。
始まりの町近くにある森に生息するボスを倒すこと。
彼らには事前に伝えておいている。
各人最初の所持金で装備を整え、パーティを組み、馬車で出発する準備を整えている。
パーティは基本何人でもOKにするつもりだったが、馬車は積載重量以前に狭くて四人以下にせざるを得ないし、移動の際やクエスト報酬の分け前で不都合が生じる可能性があるため却下された。
そんなわけでこのゲームでは最大四人パーティなのだ。
今日の天気は雲ひとつない快晴。
まさに絶好の冒険日和。
社員にとって初体験のゲーム。やる気満々、気合い十分といったところか。
不安をまぎらわすため、新しい体に慣れるためにヒョコヒョコと歩いていると、
ひらいた場所を見つけた。
どことも知れない森の中で、他の狼が集まっている。
弱肉強食をコンセプトに、この世界では弱いモンスターは強いモンスターの餌食となるよう設定している。
低級モンスターのウサギを狩ってきた狼の群れは皆生のまま食いちぎっていた。
お腹が減っている自分はおいしそうな肉を見て激しい食欲に駆られる
耐えきれず俺は狼から肉を奪い取り、困惑した様子の狼を尻目に転がっている木の棒をくわえて
切り株の近くまで持っていき、棒を両手に持ちかえて切り株の上で回す。
摩擦熱で火が出て、用意した肉を燃やす。
確かゲームには森の一部に休憩地点を設置していたはずだ。
冒険者達が草木を刈って切り株をイスにした、という設定の。
どうやらここがそれにあたいするらしい。
都合よく火起こしの棒があってよかった。
いくら今狼で、ゲームの世界といっても生で食べるのには抵抗があった。
俺は上手に焼けた肉を頬張る。
不安をまぎらわすためか、本能からか肉に夢中になっていると後ろから前足で叩かれた。
そこには怒った様子の狼が、さっき俺に肉を横取りされた奴だった。
代わりに焼き肉にしたから許してほしいと肉を返す。
恐る恐るといった様子で口にする狼。
相当お腹が空いていたようだ、一心不乱に肉を食い漁る狼にちょっぴりびくつく。もしかして自分もさっきまではあんなんだったのか。
心まで獣になったりはしないよな......
火のせいか、焼き肉の匂いからか獣の視線が俺に集まる。
食べ終わったさっきの狼は気に入ったのかねだるように身をすりよせてくる。
なついてくれたみたいで、くっついてくる。
周りの狼が俺に近付いて肉を置いていく。
なにやら物欲しそうな目でこちらを見てくる。
もしかして、焼いて欲しいのかな?
こちらも目で伝える。通じたのかこくりと頷く。
あれから全員分の肉を焼いて、ときたまお返しに何割か肉を分けてもらえた。
慣れない体で働いた俺はもうクタクタだ。
集めた木の枝に移した焚き火に疲れた体を暖められて眠った。
朝。突然の音に目が覚める。
音の正体は一匹の狼の遠吠えだった。まだ眠っている周囲の狼が次々と起き出していく。
朝の点呼みたいなものだ。
犬や狼は群居補食動物といって、遠吠えで仲間の場所を確認したり、自分の場所を伝えたりする。
点呼していた隻眼の狼が、俺の方に近付いて、こうべをたれた。
一瞬どうしたのかと思ったが、昨晩の飯の事で感謝しているのかもしれない。
そんな気がする。恐らく彼は群れのリーダーで、皆の代表として俺に頭を下げてきたのだろう。
彼は無言で背中を向けて歩きだした。他の狼も追従する。
動けないでいる俺に対し、途中で足を止め俺に向きなおりアゴでくいっとする。
“ついてこい”
俺は群れの仲間入りを果たした。