第七話 降り立った先は
ログインからしばらくの硬直。
瞑った目を、恐る恐る開けてみる。
真っ暗で何も見えない。
それも最初だけ。
目が慣れてきたのか、だんだんと視界が鮮明になるにつれ、俺の顔は驚愕に染まる
俺は暗く深い森の中にいた。視界が低い。キャラの身長は現実に即した筈だ。
それに予定では町中に飛ばされる筈だ。
なにより、ゲーム内の時間設定は朝の筈だ。
NLOの夜はモンスターが凶暴化するよう設定されている。具体的にはステータスの上昇。スキルの一時的増加。
丸腰に近い初期状態で、夜のフィールドに飛ばすなんて、どういう事だ。
見回した所、俺以外のプレイヤー《社員》はいない。
これはつまり、ハメられたのか。
滝口の奴、俺がこの間プリンを盗み食いしたことまだ根に持ってたのか?
夜の森に一人ぼっちって凄い怖いんだぞ。早いとこここを出なくては...とそこまで考えて歩き出した足を止める。
始まりの町から森までは草原が広がっている。
ここがどれほど町から離れているのか分からないが見渡す限り続くのは暗闇だ。
馬車のような移動手段がない今、徒歩で行くとなるとモンスターに遭遇しない訳にはいかない。
一度死ぬ以外町に戻れないだろう。
死ぬってことは、モンスターに一方的になぶられる他ないということ。
そこまで考えて血の気が引く。いくらなんでもやりすぎだ。
一旦現実に戻り抗議しに行こうとシステムからログアウトしようとする...が。
ログアウトの文字がない。
バグかと思い何度も確認しようと、ログアウトの文字は出てこない。
間違いない、滝口の仕業だ。
アイテム無しで装備もカラ。現状を把握した俺は降参の意味を込めて叫んだ。
しかし、声になって出てきたのは人の声ではなかった。
驚いて体を見回した。ふさふさの黒い体毛に両手は足になって地面を踏みしめている。
ぱくぱく、と声を失う。口をいっそう開けて、流れ出るヨダレ。
俺は狼になっていた。
スウェーデン語で狼は「Varg」
犯罪者や強盗の意味を持つ。