第六話 仮想と拡張
元VR研究所の所長、滝口弓弦
私は赤井の下につき、赤井の物とは別のVRメットを開発した。
自分の作ったVRメットを世に出したいという意思があった。
赤井の物とすり替え、量産に成功するが。安定性に問題があり、ほどなくして事件は起こった。
公には赤井の失敗という事になった。
しかし自身の研究の結晶とも言うべき完成品が失敗作だった事実を突き付けられ、赤井を敵視するようになった。
それから暫くして、会社を追われた赤井から自分の会社を作ると話され、知恵を貸して欲しいと誘われる。
赤井は弓弦を自分よりも遥かに優秀な人間だと認めていた。
自分ではなく彼が研究を主導していればあんな不幸は起きなかったと。
弓弦は何も知らない赤井が滑稽に見えた。
悩んだが入社する事にした。あの後会社はVRの道を閉ざした。後継機の開発も中止だ。
もはや何の未練もない。
入社からしばらくして、赤井のメットの修正と、VRソフトの開発に成功した。
それは仮想空間に作られた世界で、なりたい自分になりきるという。
私が思い描いた現実を仮想空間上で実現するソフト。
違った形になってしまったが、これも夢の実現か。
冗談じゃない。何故、私じゃない。何故、奴が。
私がしたかったのは拡張現実で世界を塗り替える事だ。
この男は後退することなく、私より進む。
回り出した歯車は止められない。心を悔しさが包んだ。
赤井の提案で社内でβテストをする事になった、のだが。
あの男はとんでもない事を言い出した。
これからはお前が社長をやれ。正式サービスが始まったら俺は会社をやめると。
ゲームの管理者権限も渡された。
歴史に名を残す偉業を成し遂げた後は、お前が身辺整理をしていてくれ。俺はのんびりとゲームします。
勝ち逃げされた気分だった。私の人生は貴方の後ろを歩く運命なのか。
お前は私の夢を壊したんだぞ。かつての私の研究所でお前がやっている事を指をくわえて見ているしかできない私がどんな気分だったか。
私の苦しみを。怒りを味わえ。
βテスト、開始。
ちょこちょこ修正しちゃいます。