第五話 ライバル登場
大学で工学部を卒業し、同じ夢を持った同志を募り会社、VR研究所を設立。
彼は現実にあるハズのない物を写し出す、拡張現実《VR》に夢を抱いた。
装着することで部屋を自由に彩る事ができるVRメットを研究した。
いつか日本中の人間がVR《拡張現実》を常用し、現実を空想が支配する、そんな世界を創るために。
まずはその第一歩を踏み出そう。
やがて努力は実り、彼らが発案、設計したVR《拡張現実》メットは完成した。
しかし、夢は潰える。
彼らは近年成長目覚ましい某企業がVR《仮想現実》メットの開発を始めた事を知る。
それは細々とやってきた彼らの研究以上に世界が注目した。
それは今までのVRの常識を覆す代物だった。
“意識を電子世界に飛ばす”
もしもそれが開発に成功したならば、夢は実現しないだろう事を悟った。
これまでの努力が水泡に帰す。世界を変える偉業を横取りされる。
既に同志の中にはここをやめ、あちらに就くことを考えている者も少なからずいるようだ。
案の定、辞めていく者は出てきた。
引き留めようとはしなかった。彼にも気持ちがわかる。バックアップの無いここより開発環境が整っている。自社に半導体事業も持つ大企業なら彼らの夢はより早く完全な形で実現できる。
私と彼らの意識の違いが浮き彫りになった。私は自分の手で夢の実現がしたかった。でも彼らは誰が成し遂げようとどうでもよかった。
手足をもぎ取られた私は、研究を諦める他なかった。
研究所を畳み途方に暮れていた私の下に元研究員からVRメット完成の目処がついたとの報せがきた。
もはやこのままでは一切の研究成果が世に出る事は無く、歴史に名を残す事も遠く叶わない。
私は持ち前の実力でVRメットの開発に携わるべく就職する。
歴史に名を残すだろう前代未聞の研究に飛び込みたい気持ちはもちろんあったが、彼は仮想現実の考案者に会ってみたかった。
結果、会ってみて、落胆した。
彼には一切の魅力が無かった。なんの欲もなかった。なんの夢もなかった。
地味な男、そんな印象を持った
VRメットで何をしたかったか、聞いてみた事がある。返事は、聞き流したくなるほどにつまらないものだった。
医療用に使うとか、小さな子供の学習用に使うとか、そんなものばかりだ。
なんてつまらない男だろう。私とは根本から違う。現状に満足している。
何故、こんな奴が。