第一話
男は閉じられていた目蓋を開け、PC画面に映る文字を見た。
「始まる、第二の人生」
“戻ってこれた”事を、状況を把握した男は興奮冷めやらぬ様子でPCのクロック倍率、電圧を下げる。
脳に流し込まれたイメージは、現実を彩る四季彩を全て再現していた。
VR体験を実現するハードに問題があったからだ。
超高速通信で大量のデータが忙しなく頭の中とヘルメット型のデバイス“VRメット”とを通り合うのだが、
発売されてからある事故が起きて生産中止。
会社は開発に費やした金の責任を最高技術責任者に被せ、VR事業を凍結。
元最高技術責任者《CTO》赤井紅葉、彼は会社をクビにされたのちにVRに関する技術を社外に持ち出し、会社を興した。
有限会社ニューライフ、そこで信頼のおける部下とVR技術の開発をしていた。
容れ物であるハードはすぐに完成した。完成品は前の会社でできていた。あとは僅かな修正を入れるのみ。
防水、防塵性に関しての問題があった。長時間の着用による蒸れは勿論、発汗によって接続が不安定になり、利用者の脳の信号が“VRメット”に届かず、意識が電子ダイブしたまま肉体に向かってしまい体が動くなど、他の用途ならともかく瞬間の判断が重要なシビアなゲームに今後使っていくなら致命的であった。
業界を揺るがした事件はコストダウンのために使用している素材を変更したVRメットに、何者かの手によってすり替えられた事から起きた。
一見すると問題はなく安価な部品で赤井のメットと同品質の性能を実現した夢のメット。
しかし、熱伝導効率が下がり、VRメットに搭載されているMPUが高熱により回路が焼け切られる問題が発生した。
VRメットによって脳に異常、死亡する事件が起きた。
これまで科学者として輝かしい人生を送ってきた彼は死んだ。