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吾輩は悪魔である

作者: 榊建松

 重低な機械音が熱を吐き出しながら静かに空気を揺らす。

 カタカタとキーボードを叩く音が軽快な調子を刻んでいく。

 独特なハーモニーを耳に入れながら電子画面を覗き込む。

 ただ黙々と作業をこなしていく、この場に居る全員がだ。

 誰一人とて不平不満を上げる事は無い。

 ……当然である。

 弱音を吐くような人間などこの場所にはいないのだから。


 そう、吾輩は悪魔である。

 

 この職場にいる同僚達も当然、皆悪魔だ。

 それどころかこの会社の社員全てが悪魔によって構成されている。

 ジリリリ……昼休憩の合図が鳴り響き、吾輩を含めた全員が部屋から退出していく。

 何故、悪魔である吾輩が会社員をしているかというと人件費削減のためである。悪魔にとって人間の金銭など無価値であり、そんな物を給与として支払われてもこちらが困ったしまうのだ。古来より悪魔の要求する対価はスピリチュアル的な物と決まっている。勿論、それは大きな代償だ。まあ、吾輩のような名無しの下っ端は上司悪魔のおこぼれにあずかっているのだが……。

 兎も角、馬鹿げていると思うかも知れないが実際コストを大幅に抑える事に成功しているのだ。文句を言う輩は居ないだろう。

 何より人間と悪魔ならば悪魔の方が優秀なのは明白な事実だ。

 吾輩達は文句も言わないし、サボりもしない。事務的な能力等についても人間を圧倒的に上回っている。業務成績も人間達が務めていた頃よりも遥に良くなったそうじゃ。吾輩が務める会社が悪魔だけになったのも自然の流れと言える。


「いらっしゃいませ」

 女性店員の明るい声で迎えられた。此処は会社近くの飲食店。

 勿論、彼女も悪魔である。

 接待をするならば美人の方が受けが良いのは真理、ならば人間より容姿が優れた悪魔が担うのは当然と言えよう。それに、悪魔ならば注文の聞き間違いなどもしないのだ。

「お待たせしました」

 吾輩の前に置かれる料理、当然これも悪魔が携わっている。

 それも、食材レベルでだ。

 農家などの後継者不足も吾輩達が解決したのである。

 肉も野菜も果物も、今では全て悪魔が育てているのだ。

 当然、美味である。


 飲食店を後にし、会社への帰途につく。

 街頭モニターに映るテレビ番組、映っているのは当然悪魔である。勿論撮っている方も悪魔である。

 番組を視聴するのも悪魔……。

 吾輩の視界に映る全てが悪魔であり、悪魔が関わっている物なのだ。 

 道すがら出会うのは皆、悪魔。

 悪魔。

 悪魔。

 悪魔。

 悪魔。

 悪魔……。

 そう、吾輩は……。


 人間を見た事が無い悪魔である。

 

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