第2話
僕のしばらく止まっていた思考がようやく回り始めた。気を取り直して情報収集をしよう、そう思い僕の周りにいるコスプレ幼児集団を観察する。幼児達をもっと詳しくいうと保育園の年長組に入る位の背の大きさだ。その幼児たちのが見にまとっているコスプレは多種多様だ。小ぶりなナイフ、木製の木の棒や身長の3倍位ある斧やハンマーみたいな何故幼児がこんなものを背負えるんだというものまだある。持っている物に限らず服装も派手なキンキラの鉄製であろう鎧や魔法使いが着てそうなローブ等がある。さらに、コスプレは服装だけに限らず猫耳、犬耳や爬虫類?の尻尾までつけている幼児までいる。
異常だ。こんな一般的に見たらあまり受け入れられていないことを幼いうちからやると教育上何らか影響が出るんじゃないか。しかも、何気にクオリティ高いし。
「ふぅ…」
僕はため息をつきながら手を目頭にやり目頭を揉む。
(……?)
目頭を揉む感触に違和感を感じ、手を見る。
そこには真っ白な手袋というよりはグローブを付けた手が映った。もう片方の手も見ると同じグローブがあった。僕は嫌な予感がし、そのまま腕、胴体、足と見ていき、そのまま背中も見る。少し違うが見慣れていてありえない光景があった。
そう、それは、僕がゲーム内で身に着けている武具防具たちであった。
そこではっとなりもう一度周りを見る。そこには相変わらずコスプレ幼児集団がある。だが、そのコスプレ一つ一つが俺が知っているものだった。それを頷けるようにある独特の感覚が僕の体の中にある。
「どうなっているんだ・・・」
思わずそう呟いてしまったのも無理はないだろう。これじゃ、まるで…
突然大きな声が響き渡る。
僕は考えていたことを一旦そばにおき、その声に集中する。
「みんな、聞いてくれ。俺は2年1組の高橋隆二だ。みんな静かにして聞いてほしい」
(高橋?なんでここに高橋がいるんだ。いや、それよりもあの顔ってまんま高橋のアバターを幼くした感じじゃないか)
そこには真紅の派手な鎧にこれまた真紅に染まった大剣と称しているものよりもさらに大きい剣を背負っている少年。いや、少年というにはまだ早い子供の姿があった。
少年は赤髪赤目でやんちゃそうなイメージを受ける顔立ちをしているがかなり整った顔立ちをしている。将来的にはかなりの美少年になることが簡単に予想できるほどだ。
その子どもは空に浮いていた。僕達が見上げる位置にいる。向こうからみれば僕達全体を見ることが出来るだろう。
そんな非常識な事を仕出かせば、今続いている混乱が大きくなるものだが、そんなことに関わらず、今まで続いていた混乱を鎮めなおかつ自分に注目を集める。こんなことをやれるのは高橋だけだろう。高橋にしかやれないだろう。そんなことを頭の片隅で考えながら頭の大部分では違う事を考えていた。それは、
「皆、単刀直入に言おう。」
――ここはゲームの世界だ
僕はコスプレの正体がわかった時から大体を予想していた。だが、それは所詮僕が考えた予想だ。間違っているかも知れない。さらに言えば、僕の変な夢だとも思った。だが、周りから無理やり伝わってくる情報はどれもリアルすぎた。
だから、もっと情報を集め無くてはいけなかった。でも、そんな矢先に高橋がゲーム内で使っているアバターで現れた。これが大きく僕の予想を裏付ける決定打になった。
それは“飛んで”いることだ。
ただ飛んでいるだけならまだあまりにリアルな夢だという選択肢もあっただろうが、今僕の周りの着ているもの、僕が着ているもの、僕が立っている場所さらに、僕の体の中で感じることができる独特の感覚。それらを踏まえたうえでその飛び方に注目してみるとあの答えにたどり着く。『ここはゲームの世界』だと。
「……っとこんな感じで今の答えにたどり着いた訳だ」
情報収集はこんなところでいいだろう。なら今度はこれからどうするかを決めよう。
まず、この今いるところがもし本当にゲームの世界または、それに似た世界ならば僕はどうしたらいいか。
もしかしたらまたあの光が突如として現れて何事もなかったかのようにいつもの日常に戻ることが出来るのかもしれない。もしそうであるならはぐれないように皆で固まって動かない方がいいだろう。戻ることが出来る可能性を秘めているのはこの場所なのだから。
でも、もし戻れなかったらどうする。こんな訳の分からないところにいるのは良くないだろう。食べるものは勿論のこと他の大勢いるクラスメイトをまとめることはまず無理だ。しかも、ここがゲームの世界なら、想像も出来ないイレギュラーが出てきても可笑しくない。悪いことに場所も木がかなり大きく、下には木が太陽の日をさえぎってしまってて食べれるものは見渡すかぎりないし、見つけることも難しいと思う。
だから、まず考えられる、考えたくなるこの案は捨てた方がいいだろう。
なら、どうしたらいいか。考えることもなく一つしか残されていない。ここから安全な場所へ移動することだ。
「だから、皆。ここは危ないから他のところへ移動しよう」
だが、僕はここでふとあることを思い付く。移動する際にこんな大きな集団でいけば必ず『あいつら』に会うことになるだろう。
『あいつら』とはモンスター、魔物と呼ばれるものだ。このゲーム【DREAM WORLD】はよくある剣と魔法のファンタジー系ゲームだ。よくあると言ったように世の中にはかなり似た様なゲームがある。しかし、このゲーム【DREAM WORLD】はかなり異彩を放っいる。それは夢が叶うことだ。
例えば、モフモフした動物に囲まれてモフモってたいという夢があるとしよう(例えになっている夢については気にしないで欲しい)すると、ゲーム内のステータスに見合ったぐらいに夢が叶うのだ。
もちろん、タダで夢が叶う程この世界も優しくない。ステータスが足りなかったら夢が叶わないのだ。
その重要なステータスをあげるためには経験値を貯め、レベルをあげなくてはならない。そのレベルをあげるのに一番手っ取り早いのがモンスター、魔物を倒すことだ。
だが、モンスター、魔物と呼ばれる者の強さはピンからキリまである。少し殴れば倒せる者もいれば、人知を越えた者までいる。そして、後者に近づく程大概は比例して身体が大きくなる。普通のところでは暮らしにくくなるのだ。そんな奴らが住むのがひと気が少なく広いところだ。今のこの場所なんて最適だろう。
前の“僕”ならどうにか出来たが今の“僕”では自分自身を守る事しか出来ない。大勢の人を、クラスメイトを守る程の強さなどは無い。下手をしたら、自分がやられてしまうのだから。この世界がゲームの世界ならスタート画面に戻されて最後に行った町又は村の教会に強制的に戻されるが、今はどうなるのかが分からない。だって、ここがどこなのかがわからないのだから。もしかしたら本当に死んでしまうのかもしれない。
ここまで考えた時に今まで感じた事のない程の恐怖を感じる。足が震えているのが自分でも分かる。倒れていないのが奇跡のようだ。(死ぬのは嫌だ。絶対に嫌だ。)
「心配はしなくても平気だ。俺は今、証明した様にこの世界の事が分かる。お前達にもこれを教える。生き残る力を与えてやる。」
(でも、今の状況じゃ、死ぬのが目に見えている。この世界で生きるとしたらゲームの世界の様に安全で尚且つ、ルーキー専用のクエストでもやって慣れていかないといけない。生半可じゃ死んでしまう)
「だから、俺について来い」
(だが、俺1人ならどうだろう。色々と不安な材料があるがいや、それしか無いが生き残るのなら最適だ。俺は生きたい。1人でもいいから)
っとここまで考えたところである考えが脳裏によぎる。
(この場所から察するにかなりレベルが高い奴がいる。それに対して俺は初期のレベルだ。勝てない。つまり、死んでしまう。)
今まで、白いグローブに釘付けだった視線をあげる。映るのはコスプレをした幼児達いや、クラスメイトがいる。何かいい事があったのか顔には笑顔がある。中には泣きながら喜んでいるクラスメイトまでいる。
(なら、どうすればいい。
レベルを上げればいい。
一番手っ取り早いはなんだ。
モンスター、魔物を倒すことだ。
)
顔から目の標準を外し、身体が全体を観る。ネコミミや尻尾がある。異形の人だ。普通の人もさっきの異形の奴らがから観れば異形だ。つまり、それぞれが異形。つまり、モンスター、魔物と呼ばれる者と変わらない。
(こいつらはこの世界のイロハのイの字も知らない奴らだ。それに対して俺は知っている。知っているのと知らないのとではかなりの違いがある。この世界なら特に。)
変わらないのならば、経験値が手にはいる。つまり、レベルが上がる。
(だから、倒すのは簡単だ。倒せば強くなれる。生き残れる確率があがる。なら、なら、)
「倒してやる。生き残る為なら。」
背中に手をまわす。すると、思ったところに目当ての物があった。それは白い剣だ。穢れのない真っ白な剣。その剣を正面に構える。横にいた人間に向けて。人間は笑うのを止め、顔を引きつらせる。
「お、おい。なにやって…」
その人間の首に向けて剣を振りかぶる。
鈍い音がし、倒れる。
そのまま次の人間に向けて足を上げ、一歩踏み出す。
この世界で初めて踏みしめた地面の感触を僕は憶えていない。