第1話
僕は走りながら目の前の敵を観察する。
並の剣では傷どころか衝撃さえも吸収する柔軟性と硬さを持ち合わせている黒い鱗、その鱗に包まれている体はでかく、少し小さめの高層ビル並みにある。その体から長く突き出ているのは首。その首の先には顔そのとの比率が間違えてるだろと言いたくなるなるほどの太い角に鋭い牙と俺を射殺さんと睨み付けている黄色の目そして、最大な特徴である体を包み込むほどの翼、体の後ろには木の幹なんて比べ物にならないほどの尻尾があるのだろう…
だが、その姿は今や生態系の頂点に立っていた時の威厳は無い。全身ボロボロで無惨な姿で立っている。そんな姿になっても目にはまだ闘志が宿っているのは流石と言ったところか…
僕は目の前の『敵』黒龍に向かって飛ぶ。
――特殊技能『エアシフト』
黒龍はその凶悪な牙を上下に開け、口の奥を見せる。その瞬間黒い炎が吹き出す。だが、僕はそれに構わず更に速度を上げる。すると後ろから黒龍が吐き出した炎に劣るも勝らない青い光が僕の横を通りすぎる。
――最上位攻撃氷魔法『フリゴフェル』
そして、2つの光がぶつかる。片方は行く先にある者を焼き付くす為に生み出された漆黒の闇、片方は全ての者の凍り付かせ足らんとすべく突き進む神々しいと思えるほどの青。それぞれの役割を果たすために両者とも焼き付くし凍り付かせる。その結果、ドゴォォォンと腹に響く爆発音が辺りに鳴る。
そんな中、僕はその爆発の中にいた。普通なら爆発に巻き込まれて跡形もなく消えるところだが、僕は始めから分かっていたことなので対処をしてある。
――下級防御無魔法『魔法壁』
僕を隙間なく囲むように目視出来るほどの魔力で作られた壁が爆発等から身を守る。
そして、爆発に巻き込まれないように一時的に頭を引いていた黒龍の眼前に爆発によって出来た煙を突き破り飛び出る。
――下級幻影無魔法『ジブ』
僕の体がいきなり一軒家位の大きさになる。
――中級幻影無魔法『影分身』
その大きさの魔法で構成された僕が黒龍の目の前に3体現れる。いきなり現れた巨人といってもいい大きさの僕にビックリし後ろに下がろうとする。だが、その後ろから本体である僕が手に愛剣であるルヴァンピーナを構える。すると、ルヴァンピーナの刃の部分が分裂し4つにわかれ意思を持っているかのように黒龍に向かって動き出す。僕は分裂し、かなり軽くなり細くなったの愛剣を黒龍に向ける。分裂した刃たちも黒龍に刃先を向ける。
――下級補助無魔法『マジックライン』
すると刃の先から細い光の糸が出てその大きな体に突き刺さる。その糸すべてが間接等の動かす為の部位に刺さり巻き付き固定する。その結果、黒龍は動きを止める。自分の思い通りに動かせずイラついたように声をあげる。
だが、後少しもすれば無理矢理糸を引きちぎり動き出すだろう。だが、これいいのだ。何故ならばもう終わるのだから。
1人のゴツい鎧を身に纏った男が凄まじい速さで走る。そして、苦しんでいる黒龍の目の前にジャンプし肩に担いだこれまたゴツくて光を纏った剣を振り抜く。
――最上位攻撃光魔法『ゴッドスレイブ』
凄まじい光が剣と同時に過ぎ去る。全てを消し去りながら…しかし、音はならなかった。ただ、黒龍が倒れこむ音だけが寂しく鳴り響く。
……普通ならここで雄叫びを上げたり勝利の余韻に浸るところだが今はそんなことはしない。
「お疲れ様、リュウ」
赤目のゴツい鎧を身に纏った男に向かって言う。
「ああ、全くだよ…何でこんな弱い奴をやるんだよ…折角皆がいるんだからもっと強い奴をやろうぜ」
男はリュウ、現実世界では高橋隆司。俺と同じクラスの友達だ。
「仕方ないだろ…時間が無いんだから」
「まぁ、そうだけどさ~でも…」
「ヘイヘイ、ホテルに行ったらまたやろうぜ」
「その言葉待ってました」
現実世界では全く違う整った顔を歪めて笑う。
「ったく…調子がいいな、お前は」
と言いながらも笑う。
そう。僕たちにとってこれしきの相手ではあまり満足ができないのだ。よくあるRGPの初期に出てくるモンスターを倒しても何の感慨もわかないのと同じだ。……いや、これは言い過ぎかもしれないがそんな感じだ。
「お疲れ~カッコよかったよ~」
と言ってリュウに抱き付く金髪赤目のいかにも魔法使い然とした派手なローブを着ている女の子だ。女の子の名前はフゥ、現実では、風間 琴美。ちなみに、抱き付いたのはスキンシップが過剰なやつではなく現実世界で付き合っているからだ。まぁ、僕はもし彼女ができてもこんな風に人前でいちゃつくバカップルにはなりたくないが…
「ウィング君もその……カッコよかったよ」
とお世辞を言ってきたのは、こちらも魔法使い然としたローブだが、真っ白いローブに薄い茶色の髪と目をした清楚な感じの女の子だ。名前はヒカリ、現実では深沢 光。
「そうかそうか、わかったから帰るぞ」
「むぅ…今、お世辞だと思って流したでしょ。まったく……お~い、二人とも帰るよ~」
となんだかむくれていたが時間がやばいことはわかっているのでだらだらせずにやることはやっているのは流石と言っところか。どこかのバカップルにも見習ってほしいものだな。
ヒカリの掛け声に反応し二人はこちらに近寄ってくる。ヒカリは持っている自分の身長ぐらいある木製の杖で地面を軽く叩く。
――上位補助無魔法『ワールドモーメント』
叩いた先から青白い光が広がっていく。そして、地面に光が模様を作ったかと思うと光が強さを増し目の前を覆う。それと同時にどこか安心できる不思議な浮遊感にも襲われる。
ヒカリと浮遊感が無くなり目を開けると中世風の雑踏とした街並みが視線に入る。そんな中を僕たちは淀みなく歩き目的地であるセーブポイントでセーブをし、現実世界に落ちた。
さっき味わったのとはまた違う浮遊感が無くなり目を開ける。そこには雑踏とした街並みはなく濃い赤紫色したバスの座席シートが目に入る。
僕たちは高校生活最高の思い出となるであろう修学旅行中だ。ちなみに、行先は沖縄だ。
その高校生活最大のイベントの記念すべき最初の目的地の到着予定時間はセーフというか若干の余裕があるぐらいだ。予定道理っと言ったところか、急ぎ目にゲームを切り上げて正解だな。せっかくの修学旅行をゲームをやっていて遅れました何て先生に怒られるのはもちろん、時間の無駄だ。
せっかく用意した時間を無駄にするのはバカらしいので持っていくものを用意しよう。そう思い行動に移そうとしたら横から悩ましげな声が聞こえてくる。
「う~髪の毛ぐっちゃになっちゃった・・・」
そこには長い髪の毛がところどころはねているヒカリいや、深沢 光がいた。
「大丈夫か、深沢?」
「うん、何とかなりそう。ありがとね、翔君」
「いや、別にいい。それよりもやるなら早くやって荷物をまとめた方がいい、もうすぐ着くぞ」
「はぁ~い」
深沢はカバンからブラシを取り出して髪をとかし始めた。じっと見てるわけにもいかないので僕は自分の用意を始める。ちなみに、前の座席から似たような会話があったが「俺がとかしてやろうか」と聞こえた時点で無視しといた。
だが、用意と言ってもあまりやることはない。すぐに終わってしまい暇になる。横ではまだ髪をとかしているし、前では騒いでいて話しかける相手もいないので外の風景でも眺めることにした。何か沖縄独特のものでも探すか……決して友達がいない訳ではないぞ。
そして、何もせず時間をつぶすためにぼっと外を眺めていると違和感を感じ始めた。
それは空が暗くなり始めたのだ。最初は太陽が雲にでも隠れたかなと思っていたがそれでは説明もできないほど暗くなり始めた。
だが、さらに変なのはクラスメイトだ。なにも変なことは起こってないと言わんばかりに修学旅行を満喫している。もう暗くなり始めた過程を見なくても異常だと思うほどになってもだ。
僕は自分の事が情けなく思いながらもなんだか怖くなり隣でようやく用意をし始めた深沢に声をかけようとした。
が、いきなり周りが強く光る。それと同時にさっきゲーム内で味わったワープ時の時と同じような浮遊感も同時に来る。
だが、今回のはかなり強引というか無理やりな感じで体全体を締め付けられている感じがする。
そして、それが終わり何にもなかったかのように僕は立った。
違和感を感じた。
肌にジメジメした不快な感じがする。匂いも音も足裏から感じる感触も何もかも嫌な感じしかしなかった。さらに言えばなぜ僕は立っているんだ。
だが、その感じの正体を知りたいという好奇心に勝てず好奇心半分、恐怖半分と恐る恐る目を開く。
木だ。今まで見た木の中で一番でかい。圧倒的だ。しかもそれが何本いや、何十本何百本もある。僕はその風景に呆然とし思考が止まりそうになる。だが、ゲームで培った意識で無理やり思考を回転させる。まずは情報収集だ。そう思い周りを見る。そこには
コスプレをした幼児たちがいた。
意識が止まった・・・