幸せの在り方を
[幸せの在り方を]
先日、友達のYが『見たい夢を見る方法』を話していた。
その時はYの話を聞き流していて、然程気にも止めていなかった。
学校を辞めてから毎日が休日になっていた。
友達数人も学校を辞めていたので近くを当てもなくほっつき歩いたり、コンビニの前でとぐろを巻いたりと、僕と友達数人は何時も連んで行動を共にしていた。だが今日は友達に急な用事が出来た、と電話の向こうで謝絶されて暇を持て余していた。
今更ではあるが学校を辞めたことを正直後悔している。確かにあそこは勉強が出来ない僕には退屈であり窮屈だった。
けれど今こうしてベッドの上で寝そべる僕は、此れからの人生のあれこれを有耶無耶にしてきたことに慮ると不安が募っていくばかりで、学校に行ってさえしてればこんな悩みなんてなかった、と思い悩んだ。
僕はそう言った心のもやを拭い去るように溜め息を一つ吐いた。
「(こんな日は楽しい夢が見たいな)」
僕は心の中でそう思うとYの言葉を思い返した。
Yは見たい夢が見れる夢のことを『明晰夢』と言い換えていた。方法は一度レム睡眠時に目覚め、もう一度と夢路を辿る。要するに夢を見てから二度寝をすること。それで見たい夢が見れる、らしい。
馬鹿馬鹿しくも思ったが起きていると未来への不安心を抱くだけなので、僕は早速臥した体で夢の中へと意識を集中した。
白色の絵の具で塗り潰されたような部屋は、部屋全体が淡く光帯ていて明るい。
壁には『今までの僕』と書かれてあり、その文字のしたには小さな穴が空いていた。
自然と体は『今までの僕』と書かれた壁に近づき、僕はここで夢の中にいると気づく。 変な夢だな、僕はそう思いこの不思議な夢の続きを楽しむことにした。
文字の下にある穴は小さいと思っていたが近くで見ると案外大きく、拳一つぐらいの大きさだった。
僕はその穴の先に何があるのだろう、と好奇心に駆られ欲するように穴を覗いた。
覗いた先には巨大なスクリーンと映像機があり、年季の入った映写機が軽い音を鳴らすとスクリーンにモノクロの映像が映し出された。
スクリーンに映った二色の映像は壁に書いてあった通り『今までの僕』であった。
スクリーンを通して今まで生きてきた軌跡が僕に訴えかけるように回想する。
生まれてから幾度も誕生日を過ぎ、小・中・高と学校に通いその度に友達をつくって遊んだりテスト期間は勉強をして、何時からか規則や社会が嫌になり逃げるように高校生を辞めた記憶。
目に映る『今までの僕』を見つめて僕は感涙に噎せた。
楽しかったあの頃、懐古する思いが僕の心をきりきりと締め付け、胸の奥に何かを問いかける。
僕は覗いている穴から視線を反らした。
涙は頬を伝い白い床に落ちて飛沫を作り、僕は蟠りを高じらせて床に拳を叩き付けた。音は部屋に響きそれに伴い痛みが拳をじんわりと包む。
「僕は……―――」
―――……生暖かい柔らかな涙が頬の辺りを撫でる。
少しぼんやりとした視界で、夢を見ただけで涙を流す程感情的なってるなんて、と自分を嘲けた。
今度こそ、楽しい夢を見よう……僕は感傷に浸る前に『明晰夢』をする為に目を瞑った。忘れたい、今までのことを。
頬に優しく添える手、その手は眠りから誘い出すように頬から離れ、流離う手先は狂おしい程に切なく僕から遠ざかる。
目を開ければ知的な微笑が映り、瑞瑞しい湿り気を帯た唇が口遊む。
「おはよう、今日もいい天気ね」
甘い息吹が掛かる程の距離に彼女がいる。
僕は今まで長い夢を見ていた。それは僕が高校を辞めて毎日の不安を一時の歓楽に身を委ねて腐った人生を歩んでいく夢だった。
ベッドは安楽を与え、朝の日差しがカーテンの隙間から揺れて波打ち、部屋をやんわりと明るく包む。
「ねぇ、変な夢を見たんだ。聞いてくれる?」
彼女はこくりと頷き僕の目を見つめ返し続けた。
明晰夢=見たい夢(希望、そう在りたいと思う状態と仮定して)を見る→幸せ(望み通りで心が満ち足りた状態)だと思う→彼にとっての幸せの帰結。
彼は明晰夢の中で彼にとっての『幸せの在り方(高校を辞めてなく、些細なことに幸せだと思える状態)』を見て、でもその『幸せの在り方』は彼が望んだ儚い幻想で……
とちょっと晴れない悲しい話です、ホラーとちょっと違うね。




