メイドは見た 婚姻届けは波乱に満ちて
「スフィア手紙が届いてたわよ」
「はいこれ」と、同僚に真紅の封筒を渡される。
「この封筒お祝いの時に使うやつですよね」
誰からだろうかと裏返すが、特に名前は書かれていない。我が男爵家は貧乏子だくさんを地でいくから、誰かの婚約が決まったのかもしれない。家族からの手紙の場合めんどくさがって封筒には名前を書かないことが多いし……。
「そうだと思うわよ。ま、何にしろ中を開けて確認したら。じゃあ私は先に行くわよ」
そう言うと同僚は部屋を後にした。
ふむ。
とにかく開けてみるべき。
私は封筒を開けて、中の手紙を取り出した。
「なになに……婚姻届け控え……スフィア=メルシエ、キリアン=ラファロ……」
えっ……と……。
これってつまり……。
私がキリアンて人と結婚したってこと!?
えっ、もしかして私知らないうちに人妻に……。
人妻……。
なんとなく響きは良い。
いやいやいや。ちょっと冷静になろう。
両親からの連絡は……無し。
キリアン=ラファロなんて人聞いたことが無い。
可能性的には、男爵家が困窮してどこかの後妻に売り飛ばされたとか……。
あのタヌキ親父!!いつかやるとは思っていたけど、こんなに急に結婚なんて……
「聞いていないんですが——!!!!」
◇ ◇ ◇ ◇
「スフィ……どうしたの?おめめがウサギさんみたいにまっかだよ」
カイン様の優しい言葉に私の緩んでいた涙腺がまたも崩壊した。
私の名前はスフィア=メルシエ。メルシエ男爵家長女で、難関の王宮メイド試験を突破し、晴れてこの春から第3王子殿下カイン様のメイドとして働いていたのだが……。
「……ガインざま……」
涙と鼻水が滝のように流れ、そのまま垂れ流されているのに周囲は若干引き気味だが、カイン様は気にせず私を慰めるように、優しく言葉を紡ぐ。
「もしかして、またリベロンにいじめられたの」
その言葉にますます私の涙が流れ出す。
「リベロンざま……」
カイン様は私と目を合わすとしっかりと頷いた。
「リベロンがまたスフィをいじめたのなら、お母様におこってもらうからだいじょうぶだよ。すきな子にかまってほしくてイジワルする人もいるんだって……メイド長がいってた」
リベロン様が私に構ってほしい?
……でも、私は私は……そんなリベロン様に……。
「……カイン様、誤解を招く発言はお止めください」
颯爽と現れた1人の男性。
一際目を引く艶やかな金髪。どこまでも吸い込まれそうな紺碧の瞳。百人中百人が美しいと認めるその美貌。仕事に関しては一切の妥協を許さず、にこりともしないことで有名な第三王子付近衛兵筆頭リベロン様である。
「おい、早く泣きやんで説明しろ。不細工な顔がいつも以上に見られない顔になってるぞ」
リベロン様は私にハンカチを差し出した。
私は遠慮なく受け取りチーンと鼻をかむ。
……好きな子に構ってほしくて、イジワルな発言をするけど、本当は大好きだから泣きやんでほしい……。
鼻をかんだハンカチを見ながらしみじみと考える。
やっとリベロン様の心の内が分かってきたのに……その想いに応えられないなんて……だって、私は……。
「……人妻になったんです……」
「は?今何て言った?」
リベロン様は聞き慣れぬ言葉を聞いたかのように私に聞き直した。
「だから、よく分からないんですが私結婚したみたいなんです!!!」
「「「え——!!!」」」」
普段は指示があるまで全く声を出さないカイン様付きの上級メイドもお付きの侍従も近衛兵も思わず声をあげてスフィアを見た。
「お前が……結婚?」
リベロン様は眉間にシワを寄せて訝しげに私を見る。
私はこくりと頷いた。
「スフィ……いなくなるの?ダメだよ!!スフィはまだまだぼくといっしょにいるの!!それにリベロンはどうするの?」
カイン様は慌てて私の服の袖を掴む。
「申し訳ありません。私もカイン様と一緒にいたいし、リベロン様の想いに応えたいのはやまやまなのですが、既に婚姻届けを出されているようなんです」
そう。私だって本当はよく知らないジジイより、リベロン様と結婚したい。(お金持ちだし、強いし、顔も良いし何より私の命綱!!)
「俺のお前への想いは皆無だ。その心配はいらないが、よく、話が分からん……お前の両親から何か連絡があたのか?」
リベロン様、これが噂のツンデレですね。
はっ。
こんなリベロン様との掛け合いもできなくなるなんて……。
私は首を横に振った。
「前もって連絡はありませんでした……それが急に私宛に婚姻届けが送られて来たんです……」
「いきなり婚姻届け?お前それ持っているんだろ?見せてみろ」
私は胸元から今日届いた真紅の封筒をリベロン様に渡した。リベロン様は封筒を受け取ると、中の婚姻届けを確認している。
「ふむ……やはりお前は俺の想像の斜め上をいくな……結婚相手が死者か……それなら納得だ。お幸せに!!」
リベロン様が爽やかな笑顔を浮かべる。
結婚相手がししゃ?……死者?
「え——!!!リベロン様どういうことですか!?」
私はリベロン様に詰め寄る。
「キリアン=ラファロは半年前に亡くなっている。もともと病弱で社交界にもデビューしてないはずだ。うちの寄り子だから俺は知ってたが、名前も知らないやつが多いんじゃないか?」
「なんでそんな人と私が結婚……?」
意味が分からない。
幽霊と結婚する趣味はない……。
「はっ……どこかで私を見初めたラファロ様が死ぬ前に結婚したいと……私の可愛いさゆえに……」
可愛いって罪ですね……。
「冥婚でしょう。カイン様、お母様がお呼びです」
メイド長がカイン様を呼びに現れた。
めいこん?
メイド長の口から聞き慣れない言葉がでたけれど、慌てた様子のメイド長に今は聞くときじゃないと口をつぐむ。(私だって空気は読めるんです)
「でも、スフィが……」
「スフィアのことならリベロン卿にお任せすれば良いでしょう。お急ぎのご用事らしいのですぐご移動します。カイン様をお連れして」
私とリベロン卿も一緒に移動しようとするのをカイン様が止める。
「リベロンはスフィのけっこんについてわかってからきて!!スフィも……いなくなっちゃいや」
……カイン様。
目を潤ませるカイン様に胸がキュンとなる。
「……了解しました」
リベロン様はしぶしぶ頷いた。
カイン様一行が去り、部屋には私とリベロン様が残された。リベロン様は私を見ると大きなため息を一つついた。
「リベロン様めいこんって?」
「……歩きながら話す。さっさと行くぞ」
リベロン様は私の返事も聞かぬ間にさっさと歩き出した。
「行くってどこへですか?」
私も慌ててリベロン様の後ろをついて行く。
「ラファロ卿のところだ。確か税務課に勤務していたはずだ」
なるほどキリアン様のお父様に事情を確認しに行くと。それにしても歩くスピードが速い。こういうときは女性のスピードに合わせるのがスマートな男性なのに……。
はっ。リベロン様ってもしや俺様。
いやもしかしなくとも俺様。
俺について来いってタイプだし……。
ツンデレで俺様……なかなか難しい性格である。
って、めいこん!!
「めいこんって、リベロン様めいこんって何ですか?」
迷う結婚?
「冥婚は昔やってた風習だ。亡くなった成人男性が独身だと一人前とみなされず神の国に行けないと言われていてな。未婚の女性と形だけの結婚をさせていたらしい。今はそんな話迷信として全く行われていないが」
亡くなった男性と結婚。私にぴったりと当てはまります。
「お前、さっきの婚姻届け名前書いてないだろう?字がお前の字じゃなかった」
字がお前の字じゃなかった……
「リベロン様私の字が分かるんですか?」
キャ——!!そんなところまで見られているなんて。
「……お前の字はミミズがはったような読みにくい字だからな。おそらく誰もが分かる。で、書いてないだろう?」
も——そんな風に誤魔化して!!
リベロン様のツンデレ!!
「はい!私は書いていません」
私はキリッと返事をする。
「ならば婚姻届けは無効だ。本人の直筆以外は認められていない。まぁ、よくあるのは男性側に高額な報酬で頼まれて女性側が名前だけ貸すパターンだな」
高額な報酬……。
有りえます!!
うちのたぬき親父ならやりかねません。
「そういうことを確認しに行くぞ……ったく、なんで俺がこんな面倒なことを……さっさと終わらすぞ」
そうこうするうちに目的の税務課に到着する。
リベロン様はためらいなくドアを開けた。
「近衛のリベロンだ。ラファロ卿に用があって来た。個室を借りるぞ」
リベロン様は有無を言わさぬ様子で、中にある個室へと歩いていく。私はコソコソその後ろをついて行った。
そこで座って待つこと数分。1人の優しそうな中年男性が入ってきた。
「失礼します。リベロン様お久しぶりです。そしてお隣にいるのはスフィア様ですね。私はデニス=ラファロと申します。この度は大変申し訳ありませんでした」
男性は私とリベロン様に向かって大きく頭を下げた。
「とにかく話が分からん。ラファロ卿も座って説明してくれ」
「はい。失礼します」
ラファロ卿は私とリベロン様の正面に座ると、今回の出来事について話始めた。
「うちの末息子が半年前に亡くなったのですが、その死因に納得ができず周りに相談していたところ、スフィア様のお父様が声をかけてくださったんです。『うちの娘が殺人事件の犯人を何人か捕まえているようだから良かったら相談してみたらどうか』と。そこでスフィア様に普通にお願いしようとしたら『娘は普通に頼むと面倒くさがってやらないから、こうしたら良い……』と冥婚を提案していただき、スフィア様に手紙を出した次第です」
やはり元凶は父!!
確かに私は難事件をいくつも解決してきました!(主にリベロン様がメインだけど……)
それに普通に頼まれたら断る可能性は高い……父め!!
「お願いします。息子の死の真相を調べていただけないでしょうか。もちろんお礼はできる限りさせていただきます」
お礼!!
「……話は分かった。では、俺はこれで失礼する」
「リベロン様……ちょっと、ちょっと待ってください。ここまで話を聞いたんです。とりあえず調べてみましょうよ」
お礼!!大切!!
「……興味が無い。カイン様にもスフィアの結婚話が何とかなったら、戻って良いといわれている」
そう言って席を立ちかけるリベロン様を何とか押しとどめる。
「リベロン様がいないと……私に何かあるかもしれません。そうなったらカイン様は何ていうか……」
私の命綱!!絶対に離すまじ。
「リベロン様、私からもお願いします」
ラファロ卿も必死に頭を下げる。
2人がかりの説得にリベロン様はまた大きなため息をつくと、椅子に座った。
「……仕方が無いな。今回だけだぞ」
やった——!!やっぱりリベロン様はツンデレ!!
私のことが気になって……。
「とりあえず時間がもったいない。ラファロ卿、なぜ死因に納得できないのか教えてくれ」
いけないいけない。お礼の方を解決せねば。
「はい、実は末の息子は難病にかかっておりましてもともと成人はできないと言われていたんです。それが、運よくある女性の介助人の方と出会いまして、その方の甲斐甲斐しい介助のおかげでなんとか成人の日を迎えることができたんです。そうこうしているうちに、難病を治す薬が開発され、病気そのものが治る見込みが立ちまして……息子もたいそう喜んで病気が治ったらその介助人の女性と結婚すると申しておりました。女性は平民だったのですが、息子の命が長らえたのもその方のおかげど、祝福する方向で話をしておりました。そんな矢先、息子が急死したんです」
「死因は?」
「薬の多量摂取です。治療のために飲んでいた薬を多量に服用したことが原因と言われました。念の為警邏の方にも来ていただき調べてもらったんですが、将来を悲観しての自殺だろうと言われてしまい……」
「でも、病気も治るし結婚の話もでてたんでしょう?」
それは確かにおかしい。
「はい。その話もしたらマリッジブルーではないかと。貴族の子息として過去は取り戻せないと将来を悲観したのではないかと」
うーん。そうやって聞くとその可能性もありそう。
「……他殺か自殺、どちらも可能性がありそうですね」
「はい、ただ、亡くなる翌日に実は息子は女性にサプライズで指輪を送る予定だったらしく、次の日に宝石が送られてきたんです。亡くなるにしても指輪を渡してからにするんじゃないかと」
確かに。うーん、よく分からない。
「薬に触れたのは誰だ?」
「薬棚には鍵をかけておりましたので、私と息子、それに介助人の女性3人だけです。後は診察していただいた先生くらいかと……」
「動機は一見誰にも無さそうですね……」
うーん。
「ちなみに診察は誰が?」
「王宮医師のライヤ医師です」
「あいつか……それなら医師は犯人から外して構わん。変人だが人殺しはせんやつだ。となると、本人か介助人かになるな……」
「はい。ですが、第三者の可能性もあるのではとも思っております」
そうなると、手詰まり……。
「とりあえず介助人に会ってみるか……。ちなみにその女性は今どこに?」
「難病の子を持つ知り合い、キース男爵に頼まれて紹介したので、おそらくそこで働いているのかと。私も知り合いからの紹介でしたから」
「よし。行くぞ」
リベロン様はそう言うと椅子から立ち上がった。
「どうか、よろしくお願いします」
ラファロ卿は私たちが部屋を出るまで頭を下げ続けていた。
「とりあえず、ライヤを誘って行くからお前は先にキース男爵家に行って俺が来ると話をしておけ」
「はい!了解しました!!」
ラファロ卿、大船に乗ったつもりで待っていてください。きっと解決してみせます。(リベロン様が)
◇ ◇ ◇ ◇
私がキース男爵家に到着してからほんの数分後、リベロン様とライヤ医師がやって来た。
「君が噂のスフィアちゃん?はじめまして医師のキースです」
王宮医師……?
思ってた人と違う。何だがチャラくてうさんくさい。
「いや——、この堅物リベロンの相手と聞いてどんな子かと思ってたけど可愛いじゃないか」
当たり前です!私の可愛さは万国共通ですから。
私はにっこりと微笑む。
「俺の趣味はこんなに悪くない。……それよりも、口を閉じろ。仕事モードになれ。行くぞ」
も——!リベロン様ったらツンデレ!!
リベロン様が苦虫を潰したような表情をし、そしてそのまま男爵家へと入っていった。
「分かってるよ。ちゃんとしますって!それよりも面白そうな血液が採取できるといいな」
ライヤ医師はウキウキした表情で、キース男爵家へ足を踏み入れる。
ライヤ医師ってそっち系……?
って、置いて行かないでください。わたしも慌てて二人の後を追った。
玄関ホールでキース男爵が迎えてくれた。
「これはこれはリベロン様ようこそお越しくださいました。それにライヤ先生。高名な先生に診ていただけるなど、本当にあリがとうございます。是非息子をよろしくお願いします」
「はじめまして。王宮医師のライヤです。早速息子さんの容体を診させていただきたいのですが」
ライヤ医師は先ほどとは表情を一変させ、できる医師風に見える。
なるほど。そういう設定なのですね。理解しました。
さしずめ私はお付きの助手ですね。
「こちらが息子の部屋です」
中には顔の青白い十歳くらいの子がベットに横たわっていた。そして横に優しげな表情の女性が頭を下げて立っている。
「息子のニルスと、介助人のマリヤです」
マリヤさんは頭を下げたまま微動だにしない。
「早速、ニルスくんの体調を診るので申し訳ありませんが、皆さん隣の部屋で待機していただけますか?」
「分かりました。それではマリヤ、君も来なさい」
マリヤさんはこくりと頷き部屋を出ようとするのを、ニルスくんが引きとめる。
「マリヤ……どこか行くの?」
マリヤさんはにこりと微笑みながらニルスくんに語りかけた。
「先生に診ていただく間だけ、隣の部屋におります。終わりましたらすぐ戻りますわ」
「約束だよ」
「はい」
マリヤさんはニルスくんからの信頼が厚いようである。
部屋を出て隣の部屋に入る。
リベロン様はどかっと椅子に腰掛けた。私もその隣に腰を下ろす。キース男爵は家令に呼ばれ、席を外していた。マリヤさんは直立姿勢を崩さない。立ち姿も凛として美しい。
「あの、良かったらマリヤさんも席に座ってください」
なんとなく自分たちだけ座るのは気まずい。
「お気遣いありがとうございます。ですが、慣れておりますのでご心配はいりません」
マリヤさんは柔らかな表情を崩さない。
いや、私が気になります。
3人無言の時間が流れる……。ライヤ医師、早く戻ってきてください。
数十分後、ライヤ医師がノックもなしに入ってきた。
「リベロン、結果がでたぞ。……クロだな」
「……そうか。残念だな」
リベロン様は表情をしかめる。
えっ?何がクロ?何が残念なんですか?
「何か言うことはあるか?」
「えっと……」
何を言えばよいのでしょうか……。
私がわたわたしているとマリヤさんか微笑みを崩さないまま答えた。
「あら、バレてしまったんですね。それではもう坊ちゃまのお世話ができなくなってしまいます……お約束は守りたいのですが」
「……させると思うか?」
「残念ですわ。今まで一度もバレたことがありませんでしたのに……」
マリヤさんは全然残念そうじゃない表情と口調で答える。
……怖い。
何か得体のしれないものを感じる。
「えっと……もしかして犯人はマリヤさん?」
「もしかしなくともだ。ライヤにニルスの血を調べてもらったんだが……やはり薬の成分がかなり濃くでているらしい。なぜこんな真似を?」
「だって、元気になりすぎたらお世話ができなくなってしまいますもの。少し、濃いくらいが死ななくてちょうど良いんです」
……いや。怖い怖い怖い。
「なぜ、キリアンを殺した?」
「だってキリアン様ったら元気になって私と結婚すると言って聞かないんですよ。平民の私では断われないでしょう?もし結婚なんてしてしまったら、お世話ができなくなってしまいますもの」
「……狂ってるな」
「そうでしょうか?皆さん私のおかげで長生きできたと喜んでくださいましたよ?もちろんキリアン様も」
笑顔なのが余計に怖い。
「……これ以上は話しても無駄だな。連れて行け」
部屋に憲兵が入ってくる。そしてマリヤさんを拘束した。
それをキース男爵が愕然とした表情で見つめる。
「……帰るぞ」
そして私たちはそのまま男爵家を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇
「よく分かりませんでした……」
リベロン様とライヤ医師と共に乗った馬車の中で私は呟いた。
「いや、逆に分かったら怖いよ。あの手の奴の思考回路は意味不明だから。それに比べてスフィアちゃんは分かりやすくて良いよ。良かったらリベロンじゃなくて俺と付き合わない?」
「いえ、私はリベロン様一筋です!!」
浮気ゼッタイダメ。
命綱ハナスマジ。
「……だって、リベロン?」
「俺にも選ぶ権利はある」
リベロン様は相変わらずのツンデレ具合である。
は——。
それにしてもニルスくんが可哀想。
珍しく後味が悪い。
私がうつむいているとリベロン様がぽんぽんと頭を2回叩いた。
「ま、とにかく解決はした。お前のお待ちかねのお礼が手に入るぞ」
私は思わずリベロン様を見あげた。
今のは……まさか、噂の頭ぽんぽん!?
これはまさかの……!?
「リベロン様!!ついにデレが発動ですか!?」
「……お前の頭は大丈夫か?」
「いやスフィアちゃん今のは間違いなくデレだよ」
「ですよね!!」
キャ——。
私とライヤ医師で盛り上がる。
「お前たち、殺されたいんだな……」
リベロン様が本気の殺気をかもし出す。
「いや、リベロン様もう一回、もう一回やってください!!」
「そうだよ。リベロン。たまには素直にならないと」
それを意に介さない二人。
「……殺す」
馬車の中の賑やかな声は途切れることがなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
リベロンの部下とライヤ医師の会話
「リベロン様がスフィア様の頭をぽんぽんしたとの噂が……」
ライヤ医師が頷く。
「僕が見たから間違いないよ」
「ついに、一歩進展ですね」
「リベロンの場合、一歩進んで二歩下がりそうだけど」
「そこをなんとか、先生の力で」
「しょうがないな、僕が恋のスパイス役になろうか……」
2人の密談は深夜まで続いた。




